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大庭麗のイタリア食材紀行 第42回2017年11月20日号
第42回 秋から冬のイタリア伝統料理によく使われるカスターニャ
イタリアにおいて、栗(カスターニャ)を使った伝統料理は、必ずと言っていいほど、貧しい人々が食べていた素朴な料理という解説がつきます。その理由には、イタリア各地の山間部や、穀物の栽培ができない地域では、山栗をはじめとした栗が収穫されてきた歴史があります。
現在のイタリアにも、数多くの種類の栗が存在しますが、古代ローマ時代にはすでに、数種類の栗が栽培されていました。栗を豊富な栄養源の象徴としていた中世においては、栗の木を伐採することが禁止され、罰金が科されていたそうです。当時、貧しい人々の空腹感を解消する貴重な栄養源であった栗は、主食のパンの代替え品とも比喩され、栗の木は別名、パンの木とも呼ばれていました。
収穫した栗は暖炉で焼いたり、ローリエやフェンネルなどで香りづけして茹でられていました。ジャガイモがヨーロッパに伝わる以前は、しばしばスープの具に用いられていたことも。またその当時、高価であった小麦粉の代わりに、栗粉を使ったパンは「貧乏人のパン」とも呼ばれていました。
栗粉を水で溶いて焼いた「パットーナ」や「カスタニャッチョ」、栗がゆ、栗粉のフォカッチャなどの慎ましく素朴な伝統料理は、今でも各地に残っています。
また、小ぶりな種類の栗の多くは、収穫後に乾燥保存されていました。特に、リグーリア州やカラブリア州では、栗林の一角に決まって、伝統的な栗の乾燥小屋がありました。
地面から2〜3mの高床式のその石造りの建物の床下では、剪定をした際の栗の木の枝や、前年の栗の殻を、弱火で燃やし続けます。その熱や煙を利用して、小屋の内部で生の栗を数カ月かけて加熱乾燥後、殻と渋皮が取り除かれます。
この伝統的な製法でいぶされた栗は、素朴でありながらも凝縮した甘味とその栄養価の高さから、飴のように舐めて空腹を満たしたり、冬場には牛乳で煮たりして親しまれてきました。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
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