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【特別座談会】2020年に生まれ変わる浜松町・竹芝地区2017年10月20日号
座談会ご出席者
司会 幣紙主筆 平田 邦彦
新しいビジネスを誕生させ育てることで、東京の国際競争力を強化する
平田 今日は都市再生ステップアップ・プロジェクト竹芝地区について、関係者の皆さんにお話をうかがえればと思います。今回の都市再生プロジェクトの概略について、山崎部長からご説明いただけますでしょうか。
山崎 東京都では、都民共有の財産である都有地を有効に活用し、民間活力の導入を図りながら、東京の国際競争力強化や地域の課題解決に資するまちづくりに積極的に取り組んでいます。中でも、都市再生ステップアップ・プロジェクトは、都が策定したまちづくりのガイドラインに沿って、複数の都有地を一体的に活用してまちづくりを進めるもので、現在、竹芝地区と渋谷地区の2か所で事業を展開しています。
竹芝地区については、元々、隣接して3つの都有施設(東京都計量検定所、東京都立産業貿易センター、東京都公文書館)があったのですが、施設の移転等を契機として、都が公募により選定した民間事業者に跡地を貸し付け、民間主導で開発を進めることといたしました。都有財産を所管する財務局、産業貿易センターを所管する産業労働局、そして、まちづくりを所管する都市整備局が連携して推進しています。
このプロジェクトでは、官民合築により新たな産業貿易センターを整備するほか、JR浜松町駅から途中首都高を跨いで本プロジェクト建物を経由し、竹芝ふ頭に至る総延長約500メートルの歩行者デッキを整備することなどが大きな特徴です。
平田 プロジェクトの選定に当たって、倉田先生はどのあたりを評価されたのですか。
倉田 まだ完成はしていませんが、対象地区だけではなく、あの地域一帯を活性化する一つのきっかけになるプロジェクトだと期待できた点です。
竹芝の貿易センターのあるエリアは、浜松町駅直近はいろいろ開発されてきていましたが、まだ何となく裏というようなイメージでした。立地は非常にいいんですが、残念ながら一般の人たちがあまり足を運ぶ場所ではなかったんですね。
平田 そのプランをお考えになったのはアルベログランデの幹事会社である東急不動産さんということですが、基本コンセプトをご説明いただけますか。
根津 倉田先生のおっしゃるとおり、浜松町の駅前はにぎやかですが、埠頭に向かって首都高をくぐったところで雰囲気が一変します。
コンペでも歩行者ネットワークを拡充して利便性を高めることが求められていましたが、大きく何かを変えない限り、ここを越えるのは難しい。では下をくぐるのか上を越えるのかという話になりまして、やはり下をくぐるのは雰囲気的にないということになり、計画の骨子となる駅から埠頭までつながるデッキというアイディアを、我々の提案の中でも最大の売りとして提案いたしました。
また、物件単体の開発だけではなく、いかに周りに効果を波及させるかというエリアマネジメントが求められていましたので、そうした視点でとにかく精いっぱい考えました。建物はまだまだですが、提案してから約5年経ち、いろんなことが形になってきています。
平田 ご提案はいわゆる箱物だけではなく、ソフトと言いましょうか、そこに付随するカルチャーの創造にかなり力点を置かれているように感じました。その発想はどのあたりから生まれたのでしょう。
根津 コンペの課題の一つにコンテンツ産業の集積を図ることというのがありまして、ハードとソフト両方を提案しなさいということでした。これからの時代、ただ箱物を造るだけではなかなか競争力が保たれないと思い、慶應大学の中村伊知哉先生に座長になっていただいてCiP協議会という組織を立ち上げ、積極的に取り組み始めているところです。
平田 その提案内容を実際に形にするのが田中さんということですね。
田中 虎ノ門、丸の内、六本木などいろんな都市が特色をつけてきて、東京の中でも都市間競争が活発になってきています。そういうところと競争する都市を造るためには、もちろん建物もしっかりしたものでなければいけませんが、そこに入れるソフトも売りにしていかなければいけません。
東京都がまちづくりガイドラインを作っている竹芝地区の範囲は28ヘクタールあるんですが、もっと大きい視点で見ると浜松町という日本の玄関口に当たります。まち全体を盛り上げていくことが、結果として我々のプロジェクトも活性化するという思いで今まで取り組んでまいりましたが、新しいベンチャー育成支援とかビジネスマッチングとか、従来の大企業だけではなく、新しいビジネスを誕生させ、育てていくことで、東京の国際競争力の強化につなげられたらと思っています。
周辺の資源を生かす環境への視点、エリアマネジメントの視点が高評価
平田 昔に比べると働き方が変わってきています。これから造るオフィスも時代の変化に即応できるような工夫はされているのでしょうか。
根津 当然ながら最先端のオフィスを造るんですが、オフィスの中で完結するというより、そこでは働く人たちだけでなく外から来る人も、埠頭や芝離宮、浜離宮、あの空間自体を快適に感じながら過ごしてもらえるように計画しています。パソコンを持って外に出て何かできるようWiーFiの環境を整えるとか、次の働き方を目指す人たちを応援するようなことを今は考えています。
あとは先ほど申し上げたCiP、コンテンツ関連の新たな人材育成をやろうと思ってやっていますので、そうしたものが入ってくることによって新しい産業を興そう、事業をやろうという人たちが集う場になればいいと思います。
平田 インキュベーション機能を持たせるということですね。
根津 そうです。産業貿易センターという都の施設がありますので、これといかに融合させるか。我々が運営する施設ではありませんが、一緒になって次の産業育成、人材育成につながる施設運営をしなければいけないと思っています。
平田 この計画の後すぐに、品川・泉岳寺の再開発が立ち上がりましたね。ある意味で相乗効果もあるでしょうけど、競い合う部分も出てくると思います。実務に当たられている田中さん、ご意見をお聞かせください。
田中 品川・泉岳寺再開発の事業自体はJRがやっているんですが、エリアマネジメント、あるいはコンテンツ産業と人材育成といった取組を競合する中で、お互いに高め合いながら、いいまちづくりをしていくことが、結果的には竹芝のプロジェクトの発展にもつながると考えています。以前であれば事業者が違う開発であれば、各々のノウハウで独自に開発を進めてきましたが、いろんな事業主体も業種も違う人たちも含めて連携を取っていくことによって、東京全体の競争力強化につながればと思っています。
平田 都の立場からすると、都の土地をうまく使ってくれということだと思いますが、何を基準に決めるかは難しかったのではないでしょうか。
倉田 まだできていない状態ですので、最終的な評価は難しいですが、私は審査した時に実感として、これまでの開発とは違うという感触は強く持ちました。
一つには今回の場合、公有地なので、開発利益をどう地域に還元していくかという視点がポイントだったと思います。物理的に開かれた施設にして、いろんな人たちがそこに立ち寄って、気持ちのいい時間を過ごせるような場所にするということももちろんありますが、それと同時に開発自体を開くことによって地域が変わり、地域の価値が上がることでまた開発につながるというようなことが、この開発で実現する。公有地であっても民間の力を借りて開発するということの意味が見えてくるのではないかと思ったんです。
一見すると地味な開発ですが、二つの公園と海という周辺の資源を生かすという環境への視点、特にエリアマネジメントを大事にしながら取り組むという、ある意味で時代を先取りした視点は、高く評価できると感じました。
平田 災害対応の目配りもしっかりなさっていらっしゃいますしね。都としての評価はいかがですか。
山崎 整備の計画だけではなく、管理運営も含めて評価しています。提案の時点では、都から条件設定をして提案していただいていることもありますが、時代の変化とともにニーズも変わってくるでしょうから、別の機能を入れていきたいということもありうると思います。今後の施設の運営を考えた時、都は地主の立場としてずっとかかわっていくわけですから、そういった時代の変化に柔軟に対応できるようにしていく必要はあると、今お話を聞いていて思いました。
竹芝は山手線から歩いていける海
その先にある島しょまで活性化したい
平田 いよいよ現実に立ち上がると、今度はオペレーションを見ていくことになるわけですが、今お考えになっていることをご披露いただけませんか。
根津 倉田先生から話がありましたので、エリアマネジメントについてお話しさせていただきます。
実際に始めてみて感じるのは、他の地域に比べて竹芝は非常に多種多様だということです。普通のオフィス街ですといろんな企業があったとしてもそんなに変わらないんですが、竹芝は例えば東海汽船さんがあって、劇団四季さんがいらっしゃって、芝商業高校がある。そういった方々がエリアマネジメントというものに、極めて積極的にかかわってくださるんですね。先日も社会実験として夏フェスを開催し、ジャズライブをやったんですが、周辺の企業さん、芝商高の生徒さんも積極的に参加してくださっています。
また、東京都さんには、営利目的だと難しいのですが、まちを活性化させるためということでご協力いただき、埠頭の空間を貸していただきました。いろんな規制があって難しいこともあるかもしれませんが、東京都さんにはまちを活性化していくためのご協力をいただけると思っています。
田中 浜松町駅は山手線の中で海に一番近い駅なんですが、駅を降りて海に向かう道は、島に旅行に行く人がワクワクする雰囲気が全くない。船で帰ってきても降りた瞬間にすぐテンションが下がってしまう(笑)。そういうことを皆さん言われていましたので、我々としてはワクワク感が出るような開発をしたいと思っていました。
それで、今回のプロジェクトでは、島しょの物品販売だけでなく、ライブ映像を流したり、島の食材を使ったワークショップを開いたりといった空間の利用の仕方を提案させていただきました。竹芝というとどうしても後背にある島とのつながりは避けては通れませんからね。
平田 浜松町、竹芝界隈の開発が島しょに与える影響は大きいと思います。
田中 7月に島しょ会館で島酒コンサートというのをやったんです。もともとは島しょ会館に出入りする人向けのイベントとして企画をされていたんですが、ぜひ竹芝の地域の人たちと交流をしたいということで、我々が今お手伝いしているまちづくり協議会の人たちにも入っていただいて、皆んなで島の焼酎を飲んだんです。
竹芝に働いている人、竹芝に土地建物を持っている人、あるいは事業をやっている人と島しょ会館に泊まっている島の人、そういう人たちの交流の一つのきっかけになったと思いますので、こういう活動も続けていきたいと考えています。
根津 エリアマネジメントの範囲としては28ヘクタールですが、その先の島しょまで含めて地域活性化につなげていけると感じていますので、そういう活動は続けていきたいと思っています。山手線から歩いていける、船が出て行く場所って他にないですからね。
平田 あの場所自体がターミナルステーションですからね。ぜひお願いしたいです。
倉田 これからの時代は、ハードを作ることももちろん大事ですが、やはりハードをどう使うか、まちをどう使っていくかということだと思うんですね。エリアマネジメントによって地域の人たちを巻き込んでいくことが、開発にとって大きな力になると思います。
特に先ほどのお話のように、すでに地元の企業や高校の人たち、空間的には離れた島の人たちとの関係を作りつつあることは、敷地の中だけで考えていたのでは絶対にできない素晴らしい取組だと思います。今回の竹芝の開発が、もっと広いエリアである種の触媒の役割を果たしていくと期待しています。
今回の竹芝のプロジェクトは都有地活用プロジェクトの一つの試金石
平田 一頃、建物に関してスケルトン・インフィルのことが声高にいわれた時期がありましたが、最近あまり聞かなくなりました。どうしてなんですか。
倉田 あらためてスケルトン・インフィルといわないだけで、住宅に限らず用途を限定せずに将来のいろんなニーズに対応できる可変性を持たせるということは、当たり前になってきているからだと思います。
根津 昔に比べると躯体の性能も変わっていますので、建物として長持ちする。そうするとちょっと古くなったから建て替えようという発想ではなくなると思いますので、どうやって中身を入れ替えやすくするかという可変性を、計画段階で相当意識するようになっていると思います。
今回の案件は70年という期間の設定ですので、実際提案する際もどのタイミングで修繕工事をすればいいのかという議論を相当やりました。スケルトンとインフィルを分けて考える発想はずいぶん根づいてきているという感じはしますね。
山崎 都有地活用プロジェクトでは、70年間の定期借地権を設定しているものが多いのですが、70年という期間が適当なのか、民間の考え方に合っているのかどうか、都としてもお聞きしたいところです。
平田 実際、躯体が70年でアウトになるとは考えにくいですもんね。大災害でもあれば別かもしれませんが、パーツさえ替えていけば十分もつでしょう。
倉田 今、建築の世界では、従来のビルディングタイプ別の建築計画は成立しないといわれはじめています。あまり多目的にしすぎると特定の用途に対応できないということもあるでしょうし、複合的に造られているということ自体が、さまざまな用途に対応可能だとも取れるわけで、そういう意味である程度想定できる70年という気がしますけどね。
根津 箱を造って終わりという時代はもう終わっていて、でき上がったものをいかにうまく使っていくか。それを使っていかにお客さんに価値を提供し続けられるかが問われるんだと思います。
そのためにも我々だけではできないものを地域の皆さん、入居していただく企業の皆さん、いろんな方々の力を合わせてそれを価値にするエリアマネジメントが重要になってくるんでしょうね。
田中 我々はエリアマネジメントの取組を建物ができる前からいろいろさせていただいていますが、当初、地元の人同士、お隣が何をしている人かよくわからなかったんですね。それがみんなで集まっていろいろ話をするうちに顔見知りになって、我々を介さずに仕事の話をしたり、高校生のインターンの話をしたりという関係性が育ってきているんです。防災の取組も地元の人でやっているんですが、地域としても取組ができつつあるということで、地元の人から非常に期待され、評価していただいております。
倉田 私も地元の動きをうかがっていますが、正直申し上げてここまでエリアマネジメントが動くとは想定していませんでした。
異なる利害関係の人たちがたくさんいる中でエリアマネジメントと言っても、簡単には乗ってこないのではないかと思ったんです。よそのエリアマネジメントの話を聞いても、モノができていない状態で地域に広がりを持ってエリアマネジメントが動いている例はなかったので、すごいと思っているところです。
山崎 このプロジェクトは、オリンピック前の竣工を目指して工事を進めていただいています。これに限らず、都内では、オリンピックに向けて都市開発が盛んに行われていますが、東京都としては、オリンピックまでで息切れすることなく、その先を見据えたまちづくりを考えていかなければならないと思っています。エリアマネジメントも、そうしたまちづくりの一つであると思います。
今回の竹芝の開発は、国家戦略特区の特定事業に認定されている大型プロジェクトであり、都有地活用プロジェクトの将来を占ううえでも重要な意味を持つと思っています。竣工後の運営も我々と事業者が引き続きしっかり連携して、より良いまちづくりをしていきたいと思っております。
タグ:都市再生ステップアップ・プロジェクト 竹芝地区