HOME » トップインタビュー一覧 » トップインタビュー Vol.118 公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会 会長 山田 匡通さん
1 The Face トップインタビュー2017年10月20日号
公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会 会長
株式会社イトーキ 代表取締役会長
山田 匡通さん
今注目されているファシリティマネジメント(FM)。企業はもちろん、自治体にとって、経営を活性化するために不可欠な思想だ。これからのFMには心と体の健康が重要な役割を果たすと説く公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会会長、山田匡通さんにお話しをうかがった。
(インタビュー/津久井 美智江)
FMのこれからは新しい技術、ファシリティ、人間の三位一体
—2014年にJFMA(日本ファシリティマネジメント協会)前会長の坂本春生さんにインタビューさせていただいた時、ファシリティマネジメントという言葉自体を普及させることが役目だとおっしゃっていました。今はどのようなことに力を入れていらっしゃいますか。
山田 JFMAという団体は非常にユニークで、不動産開発、設計、ファシリティを管理する会社、オフィスに関係する什器備品、ファシリティを供給する会社、それからアカデミックな分野、加えて公共事業体、自治体と、広範囲にファシリティに関係するほとんどのところが入っています。
せっかく各分野の専門家、しかもトップクラスの方々が集まっているわけですから、理事会でも形式的に終わらせてはもったいない。皆さんに必ず一言話していただくとか、あるいは食事をしながらざっくばらんに議論していただいたりして、いろんな形で意見をいただくようにしました。
坂本さんは通産省のご出身、その前任の鵜澤さんはファシリティマネジメントの専門家、学者ですが、僕はビジネスマンですから、そのキャリアを生かして新しい動きを入れていきたいと思っています。
—具体的なご提案がおありですか?
山田 これからの方向性についていくつかの提案があります。ファシリティマネジメントと言っても一般論ではなく具体的な話ですから、業界ごとに議論をしながら具体的なファシリティマネジメントを推進していく必要があるのではないか。
それから、さまざまな調査研究部会を設けて研究を続けていますが、そこに今まではなかったワークスタイルと公共施設の関係をどうするかという分野を入れるとか、あるいは、異常なスピードで展開しているAIやIoT、ロボティクス、ビッグデータといった技術とファシリティをどういうふうに組ませていったらいいのかとか、そういった研究が具体的に動き始めています。
—技術の進歩によって働き方もでしょうけれど、ファシリティのあり方も全く変わってくるでしょうね。
山田 そこがポイントですね。安倍政権は、少子高齢化が進み、労働人口が減少していく中で、高成長を実現する世界で最初の国になるという高い理想を掲げていますが、どうすればいいかと言うと、答えは極めて単純明快。要は一人当たりの生産性を高めることなんですね。そのために働き方を改革する、つまりワークスタイルを変えると。
しかし、理論的にはそうですが、私は人間の生産性というのは個人の働き方だけではない、そこにファシリティがからんでくると思っているんです。先ほどのような新しい技術とファシリティをどう機能させるか。それと人間がどういうふうにコミュニケートし合えるか。それによって成長は大きく変わってくると思う。そこにファシリティマネジメントのこれからがあるのではないかと思っているわけです。
LCCを最適にして設計することがFMの基本
—ファシリティをどう生かすかということの中には、これからどういうファシリティを作るかということもあると思いますが、既存のファシリティをどう活性化させるかも重要ではないでしょうか。
山田 そうですね。全国にたくさんある老朽化したファシリティをどう生かすか、どういうふうにリノベートしていくかということは、極めて大きな課題です。
政府も問題意識を持ち出していまして、各自治体に公共施設の総合管理計画を提出させましたが、今はその計画をどう実行するかという段階に移っています。
我々もセミナーを開いたり、各種のサポートをしておりまして、昨年末に自治体の方々に参考にしていただける『公共ファシリティマネジメント戦略』という解説本を発行、送付させていただきました。
—実際に多くの自治体が活用されているのですか。
山田 非常に反響は大きくて、JFMAの公共特別会員数は2009年には40自治体程でしたが、2017年8月現在244自治体に会員数が増えました。JFMAの活動の効果が徐々にですが、出てきているものと思っております。
—ハードだけではなくソフトの面でも、本当にうまくやってほしいです。
山田 日本のこれからの成長を可能にする大きな要素ですからね。
特に公共施設を造る場合、予算の範囲で造ればそれで終わりです。
ところが、実際のファシリティはでき上がった後の維持、管理、改善のコストがかかります。ライフサイクルコストという概念、LCCと言いますが、そのLCCを最適にするように、初めから設計して造るべきだというというのがJFMAの主張なのです。
例えば、今度のオリンピックの新国立競技場も予算が問題になりましたが、LCCはちゃんと考えられているのでしょうか。レガシー、レガシーと言いますが、結局、LCCも次の世代に残っていくのですからね。
—そういえば、坂本前会長もファシリティマネジメントについてオリンピック委員会に物申すとおっしゃっていました。JFMAは具体的にはどのような活動をされているのですか。
山田 重要な活動の一つに、JFMA賞の授与があります。今年で12回目なのですが、JFMA賞の事例の中にけっこう自治体施設のFM活動事例が紹介されています。チームでやりますから、表彰されると皆さんたいへん喜ばれますし、励みになると思いますね。
審査員の方たちは実際に応募施設を訪問するのですよ、全国どこへでも。すると皆さん感動するんですね、今まで死んだようになっていた施設がこう生き返ったかと。
それから、JFMAのファシリティマネージャーの資格制度ですね。FM認定資格者と言いますが、1997年から20年間で約3万人が受験して、延1万3千人が合格しました。更新の必要があるので、現在の有資格者は6645名です。
新しい動きに対応したファシリティマネジメントの世界が広がってきていますので、日本のファシリティマネジメントにとってJFMAの活動は社会的に大きな意味があると思います。
心と体が生き生きと活動するためにマインドフィットネスが大切
—JFMAの会長として今後取り組んでいきたいことは?
山田 ファシリティマネジメントの中に新しい動きを入れていきたいと初めにお話ししましたが、ワークスタイルの変え方とファシリティを一つのものとして考えたいと思っています。つまり、人と、それを取り巻く環境=ファシリティと、そこにかかわる新しい技術が三位一体になって活動するというイメージです。私は、その底辺にあるのは健康な心と体だと思うのです。
今までのファシリティマネジメントは、正直申し上げて心の問題があまり意識されていませんでした。
私は、人間は体の健康と同時に心の健康が必要だと思います。心と体が健康ではないと、人間の生産性は向上しません。これから日本が大きく転換するためには、生産性を高めて、創造性を高めて、革新的なイノベーションを起こさなければならないと思っているんです。
アメリカの最先端のIT企業の一つにセールスフォース・ドットコムという会社がありまして、そのサンフランシスコの大きなビルを訪問したのですが、各フロアに瞑想のコーナーがあって、座禅ができるようになっています。それからSAPというドイツの最先端のIT企業のシリコンバレーのオフィスでは、1日に2回瞑想の時間があるそうです。
何を言わんとしているかと言うと、IT企業の先端を行くファシリティの中には、心を静かにする瞑想のコーナーがあり、瞑想することによって創造性を高め、イノベーションを起こしているということです。
—アップルのスティーブ・ジョブズ氏も禅をやっていたそうですね。
山田 おっしゃるとおり、スティーブ・ジョブズ氏はかなり禅をやっていましたね。
実は、私は禅の指導をしていますが、こういうことは本来、日本が得意とする分野です。やはり心と体の健康は、ワークスタイルの重要な分野として考える必要があります。
JFMA研究部会に心と体の健康研究部会を作って、日本ならではの発想で新しいFMのイメージを作り出すことができればいいと思っています。
—心と体の健康もファシリティの一つであることは間違いありませんものね。
山田 単に息をしていればいいというのではなく、心と体が生き生きとして活動できるような状態にしておくということが非常に重要であり、それが原点になるのではないかと思っています。いわゆる肉体的なフィットネスセンターはたくさんありますが、マインドフルネスというか心のフィットネスはまだ十分ではありません。
—体と同じように心も鍛えられると。
山田 鍛えられますよ。私はマインドフィットネスという言葉を使おうと思っているのですが、新しいことに挑戦しようとか、革新を起こそうという意欲が、心のフィットネスによって立ち上がってくると思います。
—心と体が健康でないと、その人の本来の力を発揮できず、企業としての業績も上がりませんものね。
山田 結局、いくら頭脳がよくても心が健康でないと、せっかくの頭脳を違う方向に使ってしまいますからね。今は、子どもたちが心を鍛えられることなく成長してしまっているケースが多いので、社会人になって叱られるとすぐにへこたれてしまいます。心を鍛えるマインドフィットネスは、これからとても大事になると思います。
<プロフィール>
やまだ まさみち
1940年5月5日生、神奈川県出身。1964年慶応義塾大学経済学部卒業、1969年三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行後、ハーバード大学経営学部大学院卒業(MBA)。同行常務取締役、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)常務取締役、同行専務取締役等を経て、2002年三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)代表取締役会長。2004年東京急行電鉄常勤監査役。2005年よりイトーキ取締役、2007年に代表取締役会長に就任し現在に至る。他にも日本オフィス家具協会副会長、(医)こころとからだの元氣プラザ理事長、(財)東京顕微鏡院理事長など。趣味は、禅、読書、ゴルフ
タグ:日本ファシリティマネジメント協会 JFMA