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大庭麗のイタリア食材紀行 第41回2017年10月20日号
第41回 古くからイタリアの人々に愛される洋梨の食べ方
秋の深まるこの時期、イタリアでは洋梨(ペーラ)が旬を迎えます。もちろん、果物としてそのままも食しますが、洋梨とチーズ(特に羊の乳を使ったペコリーノチーズ)の組み合わせが有名です。そして、その相性の良さの比喩としてよく使われるのが“農夫たちにチーズと洋梨の組み合わせの美味しさを教えてはいけない”というイタリアに古くから伝わる格言です。
ヨーロッパにおいて果物とチーズの組み合わせの歴史は古く、中世からポピュラーな食べ合わせとされてきました。13世紀のフランスでは“洋梨とチーズの結婚(マリアージュ=組み合わせ)は神の最高傑作だ”と言われていたほどです。まさに階級によって料理の質はもちろん、生活における食の意味合いも大きく異なっていたその時代。農夫をはじめ、平民にとっての食は、栄養補給の手段を意味し、料理の味にこだわり、選りすぐった食材を口にできるのは、貴族や裕福な階級にのみ許された特権でした。
そんな当時の貴族たちが、朝食の最後に決まって食していたのがチーズと果物。それは食後にチーズを取ることで満腹中枢を刺激し、果物の持つ酵素が消化を助けるためと、栄養学的な理由からだったと言われています。そんな貴族の食卓で、偶然生まれたのが洋梨とチーズの組み合わせだったのです。チーズは、豊かな食事の締めくくりのシンボルでもありました。
さて、イタリアに伝わるこの格言。その意味には諸説あるようです。当時、裕福な人々のみが日常的に口にしていたチーズ。「洋梨との相性を農夫たちが知ったところで、結局は食べる機会のないことを落胆し、貴族たちを羨むのであれば、あえてそれを知らぬ方が幸せ」というものや「食材のことを熟知した生産者や農夫の専門家に、あえて偉そうに口出しすべきでない」など、その解釈は種々さまざま。この表現、日本で言う“秋茄子は嫁に食わすな”になんとなく似ている気もします。
<大庭 麗(おおば うらら)プロフィール>
東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より吉祥寺にて『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。
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