HOME » NEWS TOKYO バックナンバー » 【防災特別座談会】首都直下地震災害に備える交通体系を語る

【防災特別座談会】首都直下地震災害に備える交通体系を語る2017年09月20日号

 

座談会ご出席者

座談会出席者:

司会 幣紙主筆 平田 邦彦

2020年東京五輪に向けて、都市型災害への対策を整備

平田 東京都は地域防災計画の修正版を平成26年に発表されました。東京都危機管理監のお立場からご説明いただければと思います。

田邉* 地域防災計画の震災編は、3・11をきっかけに素早く見直しました。防災対策の中で、まだまだ事業的に進んでいないところもありますので、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、可及的速やかに一生懸命整備している段階です。

 卑近な例で言えば木密地域ですね。建設局も都市整備局も取組を進めていますが、地権者等の関係でなかなか進まないというのが現状です。

平田 今回は東京都交通局、東京急行電鉄、東京メトロの3社局の皆さんにお集まりいただき、鉄道事業者としてそれぞれのお立場から防災に対する現在の準備をご披露いただきたいと思います。まず交通局さんからいかがでしょう。

山手 都営地下鉄の場合は、阪神淡路大震災を受けた国の通達により、ハード面での耐震対策は3・11の以前に完了していました。内容は、都営地下鉄には高架部もありますので、高架部や橋梁の橋脚の補強、橋桁の落下防止装置の設置などを実施しました。また、阪神淡路大震災では地下駅にも被害が及びましたが、地下駅の中にある中柱の補強も3・11以前に実施済です。

 3・11を受けてのさらなる対策ということでは、一層質を高めた形での高架部の橋脚、地下部の柱の補強を実施し、施設の安全性をより高めることで、発災時における早期の運行再開を図っているところです。それ以外にもゾーン地震計を16か所に設置しており、エリアごとに細分化して震度を測定し、それを踏まえた点検を迅速かつ効率的に行うことにしています。

 これは地震発生時のことで、発生前の対応としては早期地震警報システムを導入しています。まずは大きな揺れが到達する前に列車を止めることが重要になりますので、気象庁から配信される緊急地震速報を乗務員に通報し、列車を停止させることとしており、平成19年の9月から運用を開始しています。都営地下鉄における大規模地震対策の概要は以上です。

平田 ありがとうございます。東急さんはいかがですか。

渡邊 私の立場は鉄道会社ではあるんですが、街づくりも担当しているので、ちょっと話がずれてしまい申し訳ありません。

 渋谷区、あるいは世田谷区の幹線道路沿いの築古ビルに耐震強度がないと、倒れて幹線道路を埋めてしまい、緊急車両が通れないということになりますので、3・11の後、沿道耐震プロジェクトとして、幹線道路沿いのビルオーナーの方々と東京都の仲立ちをして、都の補助金制度の申請の手続き等をお手伝するなどコンサルタント業務をしています。

 それから、私は渋谷駅周辺帰宅困難者対策協議会の座長をやっていまして、今年の2月に東京都さんと渋谷区さんと合同の大規模訓練を行ったのですが、昔と違って外国人の方が増えて、3・11の状況とずいぶん変わってきていると感じました。案内一つとってもそうですね。

 そういう背景の中で鉄道の状況を考えると、ハード面の耐震補強等はスケジュールに則ってやることは全部やったのですが、運用面、つまりいかに早期復旧させられるかは、ハードだけでは片づかないところがあると感じています。

平田 起きてみないとわからない要素がいっぱいありますからね。東京メトロさんはいかがですか。

野焼 阪神淡路以降の緊急耐震については地下トンネル中柱の補強、高架橋柱の補強、高架橋の落橋防止、地上から地下に入るトンネル坑口の液状化対策などは既に終わっています。

 高架橋柱に関して、全体で4770本あるのですが、そのうち阪神淡路を受けた国の通達に基づき耐震対策を必要とした3500本余りについては3・11までに終わっていました。しかし、3・11以降、補強が不要とされていた残りの1200本余りについても早期の運行再開を目的に、出来るだけ早く耐震補強を終えたいと考えています。さらに最近取り組んでいるのは、丸ノ内線地上部にある石積み擁壁の補強です。3・11以降に工事着手いたしました。

 また、非常用走行バッテリーの整備に注力しています。これは、発災後、停電によって列車が駅間に停車した場合でも最寄りの駅まで走行出来るようバッテリーを車両に搭載したり、あるいは長大橋梁上で長時間停車するリスクを回避するため、地上部にバッテリーを設置するという内容です。車両搭載型は、平成27年度から銀座線車両に搭載を開始し、今後新造する丸ノ内線新型車両にも搭載する予定です。地上バッテリーの設置は既に完了しています。

 

鉄道間の相互直通運転が拡大
事業者同士の連携が重要

平田 地域防災計画によりますと、東京都の首都直下地震発災時の停電の可能性は17・6%とのことですが、現実問題として交通インフラにとって電気が来ないというのは最大の問題だろうと思います。東急さんはそのへんの対策はいかがでしょう。

渡邊 今、新しいビルには72時間は発電できる設備を持たせるということで進めているんですが、鉄道の電気が止まった時に、JRさんは発電を持たれていますが、当社の場合はございませんので、地下駅には全て非常用発電機を備えています。

野焼 当社でもその議論を真剣にしましたが、東京電力の防災業務計画では重要負荷である交通機関には優先的に供給すると公表されていますので、今は長時間の停電のリスクは少ないのではないかという結論になっています。

平田 交通局さんはいかがでしょう。

山手 都営地下鉄では、電力会社の変電所からの複数回線による受電や、当局の変電所間での電力の融通などにより、非常時における電力の安定確保に努めています。また、先ほど東京メトロさんは車両にバッテリーを搭載するとのことでしたが、当局の場合は電力貯蔵設備を設置し、そこから電力を列車に供給することで、停電時にも駅間に停車した列車を次駅まで走行させることを確実にやろうと計画しています。

野焼 当社の変電所のうち、東京電力さんから複数のルートで供給されている変電所については問題がないと考えておりますが、単独のルートで供給されている地上の変電所についてはリスクがあるので、電力貯蔵装置を整備をしていく方針です。

平田 素朴な質問なんですが、発災してとりあえず走れる状態かどうかを点検するのに必要な時間はどれくらいなんですか。

山手 震度によりますが、大きな地震であれば徒歩による点検を行った後に運転を再開します。

渡邊 3・11の時は歩いて全部点検して、当社の場合ですと、11時くらいに運転を再開しましたから7、8時間かかってますね。

平田 その間、乗っているお客さんがいるわけですよね。

野焼 長時間駅間に停止し、お客様がご自身で線路に降りられた場合、運転再開までの時間が長くなってしまいますので、一刻も早く次の駅まで列車を動かすことが最も優先すべきことだと思っています。

田邉 特に地下鉄は降りると感電する可能性がありますのでね。

平田 次に発災後の措置についてうかがいます。いちばん大事なのは避難誘導かと思うんですが、都としては各事業者に対してどういう指導をなさっているのですか。

田邉 地域防災計画の中で事業者の役割として、これは鉄道事業者に限らずに大規模な集客施設等も含めて人が集まるところには、お客様等の安全を確保してくださいとお願いしています。

 その上で、避難誘導だけではなく、特に事業者の方には備蓄をお願いしています。鉄道が止まると帰宅困難者が増えますから、その人たちが急に帰宅することになると道路の混乱を来し、救命救助ができないということになりかねませんからね。

平田 3・11の時も避難誘導には相当ご苦労があったのではないかと思いますが。

山手 当時、駅構内の改札の外側のコンコースを開放して、そこに一時滞留していただいたということはありました。案内放送で最新の情報をお客様に提供もしました。

平田 情報伝達がされているかどうかでずいぶん不安感は違うでしょうからね。

山手 今はデジタルサイネージなどにより、多くの情報を提供できるようになりました。さらにインターネットとつながることによって、情報を逐一入手できますので、そういう意味ではご案内はかなり進むだろうと思います。

田邉 スマホでも情報を得られるようになっていますしね。ただ、地震が首都直下で起こると、その機能が生きているかどうかはまた別の問題です。

野焼 3・11で印象に残っているのは、当社線は比較的早期に運転再開したのですが、相互直通運転先が運転見合せ中だったため、引き継ぎ駅から先の運転ができなかったんですね。引き継ぎ駅までお客様を運んでしまいますと駅がパンクしてしまいますので、現地からの情報や駅構内のセキュリティカメラの映像等を見ながら、一つ手前で運行を打ち切る、あるいはさらにその手前の駅で運行を打ち切るといった対応をした記憶があります。  お客様に情報を提供することが非常に重要ですが、各駅にセキュリティカメラが整備されていますので、駅構内の混雑状況等を総合指令所なり現地対策本部でしっかり把握し、柔軟な対応を講じることも重要だと思っています。

渡邊 事業者同士の連携みたいなことはものすごく必要だと3・11の時に実感しました。東京メトロの日比谷線が中目黒駅に着くとホームは混みます。そういう状況下で東横線の運行を再開しても渋谷ではものすごい人ですから、もしお客様を乗せて中目黒駅に停止したら、たぶん中目黒駅のホームから人があふれてしまう。お客様には迷惑なのですが、空電車で渋谷駅を出発させて中目黒駅で日比谷線からのお客様を吸収する、そういう運行をしました。それも瞬時瞬時の連係プレーなんですよね。

平田 現実の問題としてそういうシミュレーションを日頃おやりになる機会はあるのですか。

山手 相互直通運転がかなり広がっていて、相直各社をはじめ、通常でも東京メトロさんと当局で乗換駅も共有していることもあり、いろいろな形で連携を取らせていただいています。

 

帰宅困難者の帰宅を3日間抑制
事業者はそのための備蓄を

平田 都の指導では72時間分の備蓄をするようにとなっていますけれども、それぞれどの程度ご準備なさっているのでしょうか。

山手 基本的に帰宅困難者の対策として、地元自治体で一時滞在施設を開設することになるのですが、開設されるまでの間、一時待機場所という形でコンコースに待機していただき、数時間後に一時滞在施設が開設したところで移っていただくことになっています。このため、飲料水、防寒用のブランケット、マット、簡易トイレ等を、都営地下鉄の場合は合計5万人分を配備しています。

野焼基本的には交通局さんと同じ考えです。あくまでも駅構内は一時滞在施設の開設までの待機場所という位置付けですので、食料は備蓄しておりません。非常用飲料水やアルミ製ブランケット、簡易マットなどを当社が管理する全駅に合計10万人分を用意しています。

対談風景

渡邊 当社では、主に大規模駅での一時待機可能人数をベースに、飲料2万5千本、保存食3万5千食を備蓄しています。ただ鉄道の場合は、一時待機場所という役割より、早期復旧するという社会的使命のほうが極めて重大だと思いますね。

平田 基本的には一時滞在施設へ行ってもらうと。

田邉 3・11までは徒歩で帰ってもらうことを前提に帰宅支援ステーションを整備していたんですが、3・11の時は帰宅者が一斉にあふれ、道路をふさいでしまったので、今は帰宅を原則3日間抑制することになりました。そのための備蓄をお願いしますということです。事業者全体としては自分の事業所の従業員分プラス10%をお願いしています。

 その他に一時滞在施設として区と協定を結んでいただいた事業者には補助金を出しています。そこで滞在される方の3日分の備蓄について補助金を出して整備をするということになっています。

平田 現実には3日じゃ足りないという説も出てきていますけどね。

田邉 4日目からは帰れるようになっていますから、4日目から帰宅支援ステーションを九都県市で2万5000か所ぐらい用意し、そこで帰宅の支援をしていきます。

平田 帰宅支援ステーションというのはコンビニとか、水やトイレを提供してくれるところですよね。当初よりだいぶ増えましたね。

田邉 どんどん増えています。カラオケボックスなどと協定を結んでいます。東京都だけでなく近隣県と政令指定都市、それぞれがんばってやっています。帰宅困難者は東京都の人だけではないのでね(笑)。

平田 埼玉都民も千葉都民もいますからね(笑)。帰宅困難者想定数517万人という数字が出ていますが、それだけの一時滞在施設は確保できているのですか。

田邉 517万人というのは一時的に帰宅困難になる方で、その中には事業所に戻る人も、学校に帰る人も、近傍だと家に帰る人もいます。どこにも行く場所がないという人がそのうち92万人という見積もりです。現時点では、その方たちの一時滞在施設について約30万人分を確保しています。

 今の課題は、建物の中に帰宅困難者を収容するスペースや備蓄するスペースがないとか、帰宅困難者の滞在施設の運営を支援する職員が足りないということです。損害賠償を請求されると困るということもあり、なかなか進まないのが現状です。ハードだけでなく、帰宅困難者自身の自助・共助の意識をしっかり周知していこうと考えている段階です。

 

駅前滞留者対策協議会の設置をし、それぞれの駅で対策を打つ

平田 お三方は地下施設をお持ちになっていますね。止水板とか防災扉の整備についてはお済みということでしょうか。

山手 駅の出入口に止水板や防水扉を設置するとともに、地下鉄内の自然換気を行うために歩道上に設けた通風口からの浸水を防ぐため、通風口を閉じる設備ですとか、トンネル内に防水扉を設けるとか、そういう対策を実施しています。これは地震というよりも水害対策、浸水対策ですね。

野焼 3・11で日本人はあらためて水の恐ろしさを再認識したと思います。事象は津波でしたけれども、浸水対策については真剣に取り組んでいかなければいけない。それが地下鉄事業者の社会的使命であると、あらためて認識しました。

 当社は地下構内に水を入れないという方針で浸水対策に取り組んでいます。出入口は、基本的には止水板で対応しますが、浸水想定深が高いところについては出入口の嵩上げや造り替えによる完全防水型出入口への改良等を積極的に行っています。

 また、地上部にある換気口から水がトンネルに入ることを防ぐため、6mの浸水にも耐えられる浸水防止機を100箇所超設置しています。

渡邊 あまり知られていませんが、渋谷はJRさんとの調査と共同開発、区画整理事業をしておりまして、地下貯水槽の工事を今やっています。4千tぐらいの水をためられますから、ゲリラ豪雨の対策にはそれなりに貢献できる施設になると思います。

 それから、鉄道の地下区間、特に横浜方面は津波のリスクがあるので、そちらはハードというより避難誘導を徹底的にうまくやることが大事だと思っています。止水板で片がつく話ではありませんのでね。

平田 先ほど東急さんが東京都と渋谷区と合同で大規模訓練を行ったとのことですが、きっかけは?

田邉 地域防災計画ですね。行政と民間とが連携して、駅ごとに駅前滞留者対策協議会を設置し、それぞれの駅で取り組んでいただいています。

渡邊 渋谷区は23区の中ではかなり早いほうだったと思いますね。渋谷駅周辺ということで事業者だけではなく大学とか、かなり広範囲な組織と共同でやってきましたので、帰宅困難者受入れ訓練などはかなり充実した形でできるようになりました。いざという時に訓練をやっているかどうかでずいぶん違うと思います。

野焼 当社は日比谷、有楽町、九段下駅など、交通局さんとの乗換駅で合同訓練等を既に実施しています。また直近では豊島区主催の池袋駅合同訓練がありましたので、これらの訓練にも積極的に参加しています。

山手 交通局の場合は、地下鉄とバスを運行しており、重複しているエリアが多いので、そういう意味での地下鉄とバスの連携を進めていますし、今後も進めていかないといけないと思っています。

平田 道路が啓開されない限りは都バスも走れません。

山手 啓開しても緊急時は通常の運行はできないのですが、東京都地域防災計画に基づき、例えば高齢者、障害者など配慮が必要な方の輸送を担う役割になっています。

田邉 計画上、帰宅困難者の4日目以降の輸送、特に要配慮者の輸送は車両でやっていくことになっています。

 地震が起こった時、一番に何を優先するかというと自分の命です。事業者にとっての一番の優先は従業員の命とBCP、仕事の回復です。さらに余力があれば、一時滞在施設に来られた方を面倒見る。都のオペレーションでも救命救助が優先ですから、生き残った人には自助努力をお願いしていかざるをえないという気がしています。

 ただ、要配慮者はある程度手助けをしていかないと、そこでお亡くなりになる方が出てきますから、十分注意をしていかないといけないと思っています。

平田 東京での発災というのはスケールも違いますし、隣に誰が住んでいるかも知らないのが東京の生活です。自助・共助・公助の共助の意識をどこまで高められるかにかかっているのでしょうね。

 実際に発災してみないと何が起こるか分からない。阪神・淡路大震災以降、連続して災害が起きているので、学習できているのは事実だろうと思います。地域防災計画も、その経験のうえで修正されている部分もおありだろうと思います。

田邉 ただ、帰宅困難者対策だけは、ないんですよ。様々な被害の状況や教訓をもとに、首都東京であればどのような災害様相となるかを予測しながら対策を取っているのが実態ですから、本当に起こってみないとわからないというところがあると思いますね。特に忘れがちなのは、皆さん、被災者ですから、事業者も。

平田 そうですね。何よりも従業員がいちばんしんどいわけですからね。家にも帰れないし、仕事もやらなきゃいけないし、もしかすると備蓄を分け与えなきゃいけないかもしれないですもんね。これは俺が食う分だからおまえにやらんと言えるかと言ったら、お客じゃないかと言われた時にね、どうするんだという。

田邉 それは分け合っていただくしかない。発災当初は、自助・共助が大切です。

 情報通信技術が発達した近年では、SNSによる情報発信が増えてきます。時々刻々と状況が変化する中で、様々な情報を全部整理しながら、正しい情報を防災関係機関や都民にお知らせしていくことも必要な時代と考えています。

平田 殊に安否確認なんていうのは殺到するでしょうから。

田邉 NTT等で安否確認のシステムがありますから、その活用を呼びかけています。一方で、熊本地震でも今回の北九州の豪雨でもそうなんですけど、個人がSNSで情報発信をしています。そこが正しい情報なのか正しくない情報なのか、そういうところを整理して災害対応に使っていく時代になってきたと思って取り組んでいるところです。

 

*田邉氏の漢字は、一点しんにょうの「邉」が正式なお名前です。便宜上、上記の表記にさせていただきました。

 

 

 

タグ:首都直下地震災害 交通インフラ対策 帰宅困難者対策

 

 

 

定期購読のご案内

NEWS TOKYOでは、あなたの街のイベントや情報を募集しております。お気軽に編集部宛リリースをお送りください。皆様からの情報をお待ちしております。

都政新聞株式会社 編集室
東京都新宿区早稲田鶴巻町308-3-101
TEL 03-5155-9215  FAX 03-5155-9217
一般社団法人日本地方新聞協会正会員