局長に聞く
行政をチェックする“お目付け役”
監査事務局長
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。17回目の今回は監査事務局長の三橋昇氏。同事務局の仕事は、監査委員を補佐し、都の行財政が公正かつ効率的に運営されるよう厳正にチェックすること。監査事務局の果たしている役割、今後の課題などを聞いた。
(インタビュー/平田 邦彦)
監査委員は知事から独立した5人で構成
―監査事務局と聞いても、都民の中には何をする部署なのか馴染みの薄い人も多いと思います。
東京都は都民からお預かりした税金で、膨大な事務事業を行っていますが、それが公正かつ効率的に運営されているかを厳正にチェックするため、いわば「お目付け役」として、5人の監査委員が選任されています。そして、その監査委員を補佐するのが、我々90名の職員からなる監査事務局の役割です。
監査委員は仕事の性質上、知事から独立した機関となっており、行政や財務管理などに精通した有識者3人と都議会議員2人が、都議会の同意を得て選任されています。
―監査の対象は?また、どのような監査があるのでしょうか。
ほとんど全ての都の事業が監査対象となります。本庁部門に対しては、必ず毎年1回、「定例監査」を実施しているほか、行政の個別のテーマを決めて実施する「行政監査」、土木工事などを対象とした「工事監査」、都の会計決算を審査する「決算審査」があります。
また、都が補助金や出資金を支出している学校法人や社会福祉法人、第3セクターなどに対しては「財政援助団体等監査」を実施しています。このほか、住民からの監査請求に基づく監査などがあります。
―監査を行う上でのポイントは?
監査は、主に、①法令等に従っているかという「合規性」、②ムダな経費をかけていないかという「経済性」、③同じお金でより成果の上がる方法はないかという「効率性」、④当初期待された事業効果が発揮されているかという「有効性」―の観点から実施しています。
―単なるチェックにとどまらない、政策提言型の監査も必要では。
監査は「合規性」のチェックが主眼となり、具体的な政策立案や組織のあり方は、所管の各局が取り組むべき問題です。ただ、より効率的な行政運営が求められる中、課題の提起なども含め、さらに踏み込んだ監査を実施していければと考えています。
毎年約300の問題点を指摘
―直近の監査の概要と、具体的な指摘事項は。
毎年、300件前後の「指摘(是正・改善を求めるもの)」「意見・要望(改善の検討を求めるもの)」がありますが、平成20年度に行った監査では、「指摘」が262件、「意見・要望」が26件ありました。
具体的な指摘事例では、パソコンの再リースの際の保守料が、5年間は当初リース時と同額とされていたにもかかわらず、10倍以上の額で契約したため、2500万円の不経済支出となっていた例や、都立高校のネットワークシステムの構築で、ソフトウェアを決めずにハードウェアを整備したため運用できず、結果的に約1千万円の不経済支出となっていた例がありました。
こうした監査結果や改善内容は監査事務局のホームページで公表していますので、ぜひご覧ください。
―ところで、東京都は「外部監査」も実施していますね。
「監査委員監査」が、東京都の中の組織による監査として、都政全般を対象に網羅的、継続的に実施するのに対して、「外部監査」は、公認会計士、弁護士などが知事と契約して、第三者の立場で個別のテーマを設定して監査を行います。ちなみに平成20年度は主税局の徴収事務について外部監査を実施しています。
両者があいまって、地方公共団体の監査機能が充実されるものと考えています。
―監査制度をめぐる課題についてお聞かせください。
一つは、監査をめぐる環境の変化への対応です。東京都は平成18年度から新公会計制度(複式簿記・発生主義)を導入しましたが、まずこれへの対応が喫緊の課題です。また、住民監査請求の増加、説明責任の要請の高まりなどを受け、行政のあり方にも踏み込んだ監査機能の充実が求められています。
一方、団塊の世代の大量退職を迎え、監査の実務能力やノウハウの承継をどう図っていくのか。従前にも増して監査能力の向上が求められており、組織力のアップと職員一人ひとりの監査技術の向上も課題です。
―最後に、事務局長として今後の抱負を。
財政状況が一段と厳しくなる中、これまで以上に効率的な財政運営が求められており、監査に対する期待も高まっています。
今後、無駄遣いの指摘だけでなく、行政の効率性、有効性の観点からも一層切り込んで、都民の皆様に具体的な成果として還元できるよう努めていく考えです。そのためにも、職員には誇りをもって専門性を磨き奮闘してもらいたいと常々言っているところです。