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インタビュー
2009年12月20日号
東京都桧原村長 坂本義次さん

今ある資源に付加価値を付け、
“村”のブランド化を目指す。

東京都桧原村長

坂本義次さん

 東京都心から約50㎞、多摩地域の西に位置する檜原村は、周囲を急峻な山嶺に囲まれ、その大半が秩父多摩国立公園に含まれている。少子高齢化が進む村を再生しようと、村にある資源をさまざまにブランド化。「じゃがいも焼酎HINOHARA」、森林セラピーロード「大滝の路」などを誕生させた。さらに木の図書館や小・中学校の教室の木質化、高齢者向けに「救急医療情報キット」を配布、全国で初めて火災報知機を全戸に付けるなど、ユニークな施策を次々と進めている。熱い想いで村を牽引する檜原村長、坂本義次さんにお話をうかがった。

(インタビュー/津久井 美智江)

山と緑を生かした癒しと健康の道
東京初の森林セラピーロード「大滝の路」

―今年、村制施行120周年ということですが、イベント等は行ったのですか。

坂本 郷土芸能祭をやりました。御とう神事(おとうしんじ)という特殊なもの以外は、無形文化財に指定されている6団体を含め、18団体が参加しました。

―檜原村は、伝統芸能や文化といったものが本当によく残っていますね。

坂本 三人獅子舞や神楽、式三番(しきさんば)が中心になりますが、古いものは400年の歴史があります。

―伝統文化・芸能を観光資源として生かすというお考えはないのですか。

坂本 数馬地区に太神楽という無形文化財があるんですが、これが面白い。周りにおかめとひょっとこがいて、見物客も知らないうちに引っぱり込まれて、一緒に踊ったりするんです。数馬には都民の森や温泉、観光宿泊施設もあるので、三人獅子舞や神楽を観光客に見せてほしいとお願いしたんですが、神主に、神事だから見世物じゃないと、断られてしまった。

 柏木野地区の神代神楽(じんだいかぐら)も面白いですよ。これも無形文化財の一つで、「あかめ釣り」とか「大蛇退治」など12曲あります。どれも非常に俗っぽい話なんですが、それを子どもたちも見ている前でやるわけです。非常に独特で、全国でも数少ないと思いますよ。

―地方に残る昔話なども、ちょっとエッチだったり、こっけいだったりするものが多いですよね。ぜひ見てみたいです。

坂本 要するに、昔の地域の楽しみであり文化だったんですよ。三人獅子舞とか式三番はきちっと確立されていますが、そうでない面白みのあるものを見てもらうのも大事だと思うんですね。定期的に上演して、地域の観光資源として活かさなければならないと思いますが、田舎の制約の中で、なかなかそこまでは動けていません。

―檜原村は少子高齢化が進んでいますよね。やはり観光に頼るところは大きいのではないでしょうか。

セラピーロード「大滝の路」

セラピーロード「大滝の路」
※画像をクリックすると拡大表示されます

坂本 これからは健康と環境がキーワードだろうと、「都民の森」に森林セラピーロード「大滝の路」をつくりました。森林のもつ癒しの効果を科学的・医学的に解明している森林セラピー実行委員会という研究会があるんですが、そこが現地を調査・検証し、平成19年3月、東京都で初めて森林セラピーロードに認定されました。

日本の滝100選にも選ばれている払沢の滝

日本の滝100選にも選ばれている払沢の滝
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 都民の森は、これまでも年間20万人以上の人が訪れていますし、日本の滝100選に選ばれている払沢(ほっさわ)の滝もありますので、この二つと天然記念物の神戸岩が観光の中心になりますでしょうか。それから、浅間尾根コース、都民の森・三頭山周遊コース、御前山コースといったハイキングコースも整備されています。地域資源を生かしたエコツーリズムに力を入れていろいろ進めているところです。

 

特産品のじゃがいもは焼酎に、
木は次なるブランドとして村の活路を開く

―東京都民でも、島嶼以外に東京に村があることを知っている人は少ないと思います。もっと“村”をPRしたらいかがでしょう。

坂本 “村ブランド”を生かすということですよね。私は村をPRしようと、「みどり・せせらぎ・風の音」という檜原村をイメージする言葉を入れたステッカーをつくって、役場の車すべてに貼らせたんですよ。職員には自分たちの村を誇りに思って仕事をしてほしいですからね。自分たちが都内を走る時に、「檜原村ありき」ということを宣伝させているんです。

―先ほどお茶を出していただいた時、コースターはお持ち帰りくださいと言われました。檜原村の木でつくったものですか。

坂本 これは村の資料館に入る際に、お賽銭として200円もらう代わりにコースターを持って帰ってもらおうとつくったものです。このコースターは数馬の温泉に持っていくと入湯料が200円安くなる。温泉に入れば結局、資料館はただということです。

―アイデアマンでいらっしゃるんですね

坂本 今ある資源を生かすしかないですからね。

 それで、特産品のじゃがいもを使って焼酎をつくろうと考えたんです。北海道の大地でトラクターを使ってキロ数十円でつくっているじゃがいもと、斜面ばかりの檜原村でキロ百何十円もかけてつくるじゃがいもでは勝負にならない。だったら付加価値をつければいいとね。

 それから、先ほどの森林セラピーロードもそうですが、檜や杉などの木ですね。

木のぬくもりが感じられる図書館

木のぬくもりが感じられる図書館
※画像をクリックすると拡大表示されます

 私が村長になってすぐに小学校、中学校の教室に木を張り、机も椅子も木製に替え、ほとんどが木製の図書館もつくりました。木は熱伝導が低いので体にいい、木の香りが気持ちをやすらかにする、木は紫外線を吸収するので目にやさしいとか、その効用はよく知られていますが、九州大学の綿貫茂喜教授たちの調査によれば、免疫力もアップするそうです。

 じじつ今年の春、インフルエンザがはやっている時、ほかの多摩地域では学校閉鎖が相次ぎましたが、檜原村では一校もありませんでしたよ。

―森や木を守るために中央区と提携して山づくりをしていますが、具体的にはどのようなことを?

坂本 里山再生塾というNPOを立ち上げて、数馬地区で最初3ヘクタールくらいからスタートし、今は10倍くらいの規模になりました。中央区の銀座三越近くの通りの一部を村の木でテスト舗装したり、ベンチをつくったりしています。

 これからは「山が荒れているから間伐した木を使ってくれ」という発想ではなく、使う側の立場に立って木を使うと得になる仕組みを考えないとだめだと思います。

 例えば、マンションの寝室に木を張ってもらい、「木の寝室で8時間寝ると免疫力が高まりますよ」とかね。構造材として基礎から売るのではなく、木を壁材として売る時代だろうと考えています。

 それに、山の整備をすることによって酸素の固定化を高め、供給率も上がるんですね。檜原村だけで1日に約90万人分の酸素を製造しているといわれます。檜原村は東京の酸素の供給地なんですよ(笑)。

 

子どもにもお年寄りにもやさしい
ユニークな施策を次々に実現

―平成の大合併の時に、近隣の市町村と一緒になろうとか、町になろうという意見はなかったのですか。

坂本 市町村合併に関しては、私は選挙公約に住民投票を実施しますと掲げていましたので、17年3月までに住民の意思を確認するつもりでした。ところが、住民投票はいろんな手続きが面倒くさく、アンケートをとることにしたんです。中学生以上にね。彼らはこれから村を背負って立つのですから。

 そうしたら、なんと子どもたちが大反対。むしろ高齢者が賛成だった。まったく驚きました。高齢者がなぜ賛成したかというと、村の財政がどうにもならなくなったら、どこにも相手にしてもらえないかもしれない。だったら今のうちに合併しようということだったんです。財政が何とかなるのだったら、合併しないほうがいいという意見が圧倒的に多かったので、合併しませんでした。

 うれしかったですよ。中学生がなぜあんなに村にこだわったのか、私にはぜんぜん分かりませんけれども……。意外な結果だったなあ。

―中学生たちは村に誇りを持っていたんでしょうね。

坂本 確かに檜原村は子どもの数が多くないから、独自のことをやっています。ふるさと創生資金の1億円を活用して、中学2年になったら希望者をオーストラリアに行かせるとかね。子どもたちがいろんなことを体験することは大事だし、将来、立派になってくれればいいのですから。

―子どもにお金をかけるのは、いちばん正しいと思います。

坂本 檜原村では、最初の子どもが生まれると5万円、二人目が10万円、三人目が20万円給付しています。

 そして小学校に入学すると、お祝い3万円。その前の保育園は、保育料を半年払うと半分返す。面白いでしょう。毎月1万円ずつ6万円払った人は3万円になるわけ。1万円借金したって完納しますよ。だから保育料は滞納ゼロ。

 それから中学生までの医療費無料化も早い時期にやりました。バスの通学費全額村負担とか、学校の行事もほとんど金はもらってないですね。

―お年寄りと子どもたちが集まって一緒に食事をするサロンなども開催しているそうですね。子どもだけでなく、お年寄りにも暮らしやすい村です。

坂本 65歳以上の高齢者には、かかりつけ医の情報や緊急連絡先を容器に入れて冷蔵庫に保管するサポートを始めました。村が「救急医療情報キット」を買って、社会福祉士がパソコンを持って地域の自治会に行き、その場で保険証の写真を撮って、データを入れた。

―行動が早いですねぇ。

坂本 せっかちなだけが取り得でね。火災報知機も3年かかって全戸に付けたんですよ。一軒に2万円の補助を出すと5個は付けられるんです。ふつうの家ならほとんどの部屋に付くわけですが、田舎の家はでかいですから7個とか8個必要な家もある。高齢者にはその分を90%補助し、去年の10月15日に全国で初めて全戸に火災報知機が付きました。ちょうど村制119年。意識したわけじゃないんですけどね(笑)。

―小さい村だからできるということではなく、やる気の問題なのでしょうね。意欲的な取組みを、これからも注目していきます。

 


東武タワースカイツリー株式会社取締役社長 坂本欣也さんプロフィール

撮影/加藤 ゆみ子

<プロフィール>

さかもと よしつぐ
昭和20年、東京都生まれ。東京経済大学卒業。檜原村消防団長、檜原村行政改革懇談会会長等を経て、平成11年、檜原村議会議員。13年、檜原村議会総務委員長に就任。平成15年5月より現職。21年6月より東京都町村会会長。東京都農林水産振興財団監事、東京都歴史文化財団評議員、東京のあすを創る協会理事等を兼職。趣味はゴルフ、音楽鑑賞。

 

 

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