仕事に命を賭けて Vol.5
調布市で1t級の不発弾
住民避難の下、処理作業
第102不発弾処理隊 二等陸曹
浅野 真吾
文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。およそ知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットをあて、仕事への情熱を探るシリーズ。今回は、「不発弾処理」というまさに命がけの仕事に従事している陸上自衛隊・東部方面後方支援隊第102不発弾処理隊の浅野真吾二等陸曹。第二次世界大戦で落とされた爆弾が今なお不発弾として、市街地、海岸などに多数埋まっている。戦後60年たっても年間2000件以上の不発弾が処理されているのだ。その最前線での活躍を追う。
(取材/中本敦子)
今年の5月18日、調布市国領町で不発弾処理が行われた。その間住民が避難し、京王線がつつじケ丘〜調布間で約3時間運休したというニュースが世間を賑わしたのは記憶に新しい。
当日は、現場から500メートル以内の警戒区域の住民、約1万6000人が一時避難した。不発弾の処理作業で1万人以上が避難するのは、全国的にも異例のことだそうだ。
調布界隈には、もともと不発弾が埋まっているのではないかといわれていたが、京王電鉄が京王線のシールド工事を行う際に探査した結果、1945年4月にB29が墜落したときに一緒に落下したとみられる1t級の不発弾が見つかった。調布市や警察から自衛隊に不発弾処理の要請があり、この日に実施された。
作業は午前9時半に開始。起爆装置である信管が無事取り外されると、調布市は午前11時半すぎに安全を宣言。避難指示などの警戒態勢を解除した。
危険を伴う作業
使命として真摯に取り組む
当日は8人の陸上自衛隊不発弾処理チームが作業にあたった。現場で、実際に信管の取り外しをしたのが浅野真吾二等陸曹である。
浅野二等陸曹は、神奈川の実家の近くに駐屯地があり、身近に装備品を見たり、自衛隊の活動に触れる機会が多かったという。そんな環境もあって、自然に自衛隊に入ろうと思うようになり、高校卒業後入隊した。
入隊後は誰もが半年間、自衛官としての基礎訓練を受け、その後配属が決まる。浅野二等陸曹は、武器科の弾薬担当となった。群馬県の吉井弾薬支処で弾薬の管理・維持に13年携わった後、平成18年4月に朝霞駐屯地へ異動し、不発弾処理担当に。
今回の調布の作業は、浅野二等陸曹にとって二度目の不発弾処理である。
不発弾の処理は非常に危険なので、専門教育を修了した隊員だけしかできない。日々、弾薬の性質、管理法と不発弾処理について学び、取り扱いの訓練を重ねる。不発弾処理の資格を持つ隊員に対しては、特別に「不発弾処理き章」が授与される。浅野二等陸曹の胸にもこのき章がつけられていた。
調布の不発弾処理の際には、事前に何度も現場に足を運んだという。
「発見された爆弾らしきものを、完全に掘り起こし、付着している土を落としました。そして信管に油を注入し、錆を落としておきました。とにかく万全を期しておかねばなりませんから。また、同じ型の爆弾で、処理する訓練を何度も行いました」
住民は避難しているとはいえ、実際に爆発しては一大事である。念には念を入れ準備を周到にしておく。
当日は、すでに処理の準備が整えられている爆弾を、浅野二等陸曹が弾底信管、弾頭信管の順で、爆発のもとである信管をはずしていった。作業開始から36分。処理は無事に終了した。
「外から見ただけでは、不発弾の中の状態はわかりません。爆発する可能性はゼロとはいえないのです。実際に信管が抜けたときは、ホッとしました。正直いって恐怖心はあります。でも、誰かがやらなければならない仕事なのです。自分にとって使命、やりがいとは、不発弾による危険な状態を除去し、周辺の住民に安全を与えることだと思っています」
そう語る浅野二等陸曹は、現在は単身赴任中。遠く離れて住む家族も、彼の仕事には理解を示してくれているという。
今なお残る不発弾の危険
1日も早い安心を望む
戦後60年以上たっているが、不発弾はまだ日本各地に埋もれている。平成18年度は日本全国で2403件、合計74・5tの不発弾が自衛隊によって処理された。1週間に平均46件。うち、沖縄は全体の41・3%を占める。
「不発弾を見つけたら速やかに自治体や警察等に届け出てください。小さいものを収集している人もいるそうですが、非常に危険です」
これまでにも不発弾を家に保管していて爆発した事件が発生している。また、イラクに取材に行った記者が記念にと不発弾を持ち帰り、空港の手荷物検査で爆発し、死傷者を出したというニュースを覚えている方もいるのではないだろうか。
とにかく、不発弾らしきものを見つけたら、すぐに自治体に連絡することが重要。自衛隊や警察等による処理で、爆発したケースは一度もないという。
日本近海に沈む不発弾の処理については、第5号で紹介したが、世界各地で地雷も含め、戦争は終結したのに、不発弾等の危険にさらされている。1日も早く、皆が安心して暮らせるようになることを願わずにはいられない。
<プロフィール>
高校卒業後、自衛隊に入隊。武器科に配属され、群馬県にある吉井爆弾支処に13年勤務。平成18年4月より現職に