2008年4月20日号
〜My Life Work〜
仕事に命を賭けて Vol.2
火災調査こそ“消防の原点”と確信
東京消防庁
予防部 調査課 課長補佐兼原因調査係長
坂巻 保則

 仕事のために自分の命を捧げることもあることを明文化されている職業には、消防士、警察官、自衛官などがある。しかし、仕事内容や日々の研鑽・努力などを知っている人は少ないのではないだろうか。命を賭けて国民を守っている人たちにスポットをあて、仕事への情熱を探るシリーズ。

 今回は、東京消防庁予防部調査課の坂巻保則課長補佐。なぜ火災が起きたのか、何が発火源なのか、どのように延焼したのかなどを調査し、火災の再発防止へと結びつけるために地道な努力を重ねている。

(取材/中本敦子)


大都市東京を災害から守る

焼跡は多くのことを物語っている。手作業で原因を調査していく。屋外で炎天下、雨の中の作業になることも多い

 1200万人の人口を抱える首都・東京。年間の火災件数は6000件前後にのぼる。昨年は、1日平均16件の火事が起きている計算になる。

 東京消防庁は昭和23年に自治体消防として発足以来、都民を火災などの災害から守ってきた。島しょ地域と多摩地域の一部(東久留米市・稲城市)を除く東京都のほぼ全域を10の方面に分け、現在約1万8000人の職員がそれぞれの任務に従事している。消防署は80カ所あり、最新の技術を駆使して、都民の安全を守っている。

 消防の仕事と言ってすぐに思い浮かぶのは、火災現場で火を消したり、人々を救助することだが、その内容は実に幅が広い。震災のときに救助にあたるハイパーレスキュー隊の活躍ぶりは、テレビでもよく放映され、多く国民に知られているし、また、救急車による搬送も消防士たちの仕事である。あまり表には出ないが、火災を予防するために建物や危険物施設の立ち入り検査をしたり、防火管理の指導、火災原因の調査をする仕事もある。


大火事でも最初は小さな火

 坂巻補佐は、昭和62年に本庁の予防部調査課に異動してから、日々火災の原因究明に心血を注いでいる。

 「父も東京消防庁に勤務しており、私は寮で生まれ育ち、小さい頃は火の見やぐらで遊んだりしていました。大学卒業後は民間の会社に勤めましたが、父の生きざまを見てきて、父が退職した後、東京消防庁に入りました」

 東京消防庁に入ると、最初は全寮制の消防学校で基礎的な訓練を受ける。その後、各署に配属され、ポンプ隊員として消火活動にあたる。

 坂巻補佐は最初に荒川消防署に配属され、次に配属された本郷消防署で火災調査の仕事に携わるようになった。

 「私の属する調査課は、火災の原因調査、損害調査、火災データの分析などの仕事がありますが、私は原因調査を担当してきました。通常各消防署で火災の原因を調査しますが、大規模な火災だったり、原因究明が困難なときは、本庁へ要請がかかり、調査課が技術支援にあたります」

(左)現場検証をした後は、署に戻って原因究明の作業に入る。それぞれの意見を出し合いながら、真相を追求していく
(右)坂巻補佐は、電気関係に強く、電化製品の焼損物件の鑑識のプロフェッショナルだ


 出火報が入るとすぐに、現場に向い、消火活動中は、外部からの延焼状況などをチェックする。そして消火活動が一段落してから詳細な調査を進めていく。

 「まず、どこが火元なのか、焼跡から炎の流れを読んで探します。出火した範囲を特定し、次に何があったかを調べます。落下物などを手でていねいに除去していき、火災発生前の状況にします。もちろんそこにあったものは燃えて炭化物となっていますが、残されたものからいろいろなことを読み取っていくのです」

 たとえば、机があって4本の足の燃え具合がそれぞれ違っていたら、どっちから炎がきたかが判断できる。もちろん現場にいた人の話も参考にしながら、原因を解明していくが、証言が必ずしも正しいとは限らないのだそうだ。しかし、残されたものは真実を語っていると言う。

 調査していく段階で、まかれた灯油や自然発火性物質等の分析機器による鑑定を消防技術安全所と連携しながら仕事を進めている。

 この安全所は、災害における消防活動対策、消防隊員の安全管理対策や火災予防対策を樹立する上での科学的な技術改良と安全検証も実施している。

 ときには、通常では考えられない電化製品から火が出ることもあるそうだ。坂巻補佐は、どこが欠陥なのかをさぐり、メーカーへの指導もする。

 「一般には出火の可能性のないと思われていた電話回線の接続部(モジュール)の火災を実験により究明し、再発防止に結びついた事例が最近では印象に残っています。

 東京消防庁にもこういう縁の下の力持ちの仕事があります。予防や調査こそ消防の原点だと思い、日々の仕事に取り組み、後輩の指導にあたっていきたいと思っています」

[プロフィール参照]

<プロフィール>

東京都出身。工学院大学電気工学科卒業。民間の会社の勤務を経て、東京消防庁へ。昭和56年荒川消防署に配属。同59年本郷消防署のポンプ小隊長になり、火災調査に関わるようになる。昭和62年に本庁の調査課に異動

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