東京にある、世界トップクラスの技術・技能―。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。新撰組の近藤勇、土方歳三の墓がある板橋区板橋。そこに居を構える金門光波は、大手メーカーがさじを投げ、世界でも数社しかない金属蒸気レーザー装置の開発に成功。以来、さまざまな分野の発展に寄与しているが、そこに至るまでの苦悩と喜びをご紹介したい。
代表取締役社長の濱田氏
金門光波の前身である金門電気が設立されたのは1967年。日本で初めてガスメーターと水道メーターを開発し、空調設備事業やダイカスト事業などを展開してきた金門製作所が、照明部門を子会社としたのが始まりである。
元々持ち合わせていたランプの放電管技術を応用して金門電気は、製作所時代から進めていたレーザー装置の研究をさらに推進。当時の国内では珍しかった金属蒸気レーザー装置「He-Cd(ヘリウム・カドミウム)レーザー装置」の開発に挑んだ。
He-Cdレーザー装置の特徴を簡単に言うと、従来の赤や緑ではなく青い光が出せること。これにより処理速度が上がるのだが、「レーザーは蛍光灯と一緒で、消耗品なのです。でも長時間、無事故でないと使いものになりませんので、まずは安定性を高めること。そしていかに小さくて高出力のものにするかの2つに苦労しました」と、代表取締役社長・濱田武氏は当時を振り返る。
金属であるカドミウムを熱してガスにする際の温度、気化するスピード、チューブ(ガスの噴射口)の内径の大きさ、管内にガスを一定に送り込むための制御技術。開発者たちは、日夜さまざまな組み合わせを試しながら研究に没頭した。
忘れられない大手メーカーからの賞賛
それが実を結んだのが1971年。開発開始から4年の月日が経っていた。「諦めが早い会社なのですが(笑)、これだけは珍しく粘りました」。
その間、大手メーカーも同様の装置開発に努めていたが、金属蒸気の制御が困難なこともあり断念。今でも、He-Cdレーザー装置を生産している会社は、世界でも数社しかない。
それほどの偉業を成し遂げたことで金門光波は、多くの注目を集めた。「私がまだ課長の時代、とある展示会が東京であり出展しました。大手メーカーの技術部長がいらしたときの第一声が『金門さん、よくおやりになりましたね』でした」。
ナノテクの発展を支える青い光
He-Cdレーザー装置 ●株式会社金門光波 ●板橋区板橋 ●2006年設立 ●従業員数42名
He-Cdレーザー装置はその後、多方面で活躍。レーザープリンターやCDのマスタリング装置、半導体製造装置の光源などに採用されたことを受け、量産体制に入った。
また、大学や研究所で次世代製品の研究に使用されているほか、最近ではがん細胞を検出するファイバースコープや3次元モデリングシステムにも組み込まれている。
「たとえば通信が光に変わってきているように、最近よく耳にするナノテクは光関係が多いのです。そのさまざまな分野に応用されていて、国立の大学や研究所のほとんどで使われています」。
特殊な装置からバイオメディアまで─。今や金門光波のHe-Cdレーザー装置は、国内で90%のシェアを有し、海外シェアもアメリカ、ドイツ、中国、インドを主として60%を誇っている。
広大な田んぼに必要なあぜ道
工場では極限まで精度を高めるために、細やかな検査がされている
あらゆる分野で技術が進歩している昨今、金門光波も新たな製品開発に余念がない。
1991年にUV領域のレーザーを発するUVHe-Cdレーザー装置を、2005年には半導体レーザー装置をそれぞれ開発。そして今現在では、半導体レーザー装置の応用製品の生産・販売に尽力している。
話を聞く中で濱田氏は、「私たちの商売は田んぼのあぜ道」と口にした。
田んぼは広大で、あぜ道は細い。それでも田んぼには、あぜ道が必要だ。
He-Cdレーザー装置を一般に目にする機会は少ない。だがそれは技術革新を、ひいては私たちの生活そのものを陰で支えている、なくてはならない存在なのである。
濱田氏は言う。「お客様のニーズをとらえて、いかにいいものを作るかが大事だと考えています。それと好奇心と想像力。『こうしたらどうなる』という気持ちが物作りには大切です」。
その思いを持って金門光波は、これからもその道を確かな足取りで歩み続ける。
沿革
1967年 |
金門電気株式会社 設立 |
1969年 |
川越工場 設立 |
1971年 |
He-Cdレーザー生産・販売開始 |
1986年 |
エジンバラ・インスツルメンツ社と販売提携 |
1990年 |
He-Cdレーザー総生産本数20,000本達成 |
1991年 |
100mW UVHe-Cdレーザーの開発に成功 |
1992年 |
海外販売開始 |
1994年 |
He-Cdレーザー総生産本数25,000本達成 |
1996年 |
エジンバラ・インスツルメンツ社と個体レーザー分野において技術提携 |
1999年 |
He-Cdレーザー総生産本数30,000本達成 |
2003年 |
YAGレーザー装置の生産・販売開始 |
2005年 |
半導体レーザー装置の生産・販売開始 |
2006年 |
株式会社金門光波 設立 |
2007年 |
He-Cdレーザー総生産本数40,000本達成 |