局長に聞く
交通局長
金子 正一郎氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。第5回は交通局長の金子正一郎氏。交通局は公営企業として都営地下鉄、都バス、都電荒川線、日暮里・舎人ライナーなどの運行を行っており、「都民の足」として日々の生活には欠かせない存在といえる。今回は経営基盤の強化や安全対策の取組みについて話を聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
累積損失の解消にメド
――東京都交通局は百年近い歴史がありますが、都営地下鉄では単年度黒字となりました。
都営地下鉄は4路線で109キロあります。JRさんや東京メトロさんにはかないませんが、首都圏では有数の鉄道事業者です。平成18、19年度と連続して黒字を計上することができ、18年度は31億円、19年度は110億円でした。今後、安全対策などで大きな投資を予定していますが、それでも100億円規模の黒字は可能だと考えています。
――一方、累積損失の解消にはまだ時間がかかりそうですね。
4600億円もの累積損失があります。地下鉄事業はどうしても初期投資に莫大な費用がかかってしまいますので、それを40年かけて解消していくというのが基本的なスキームです。今の調子ではあと30年程度で解消できると考えています。
収支が黒字に転じ、累積損失の解消の目処が立ってきたことから、安全やサービスに関する投資をさらに進めようと考えています。今後、大江戸線のホーム柵を平成25年度までに全駅に設置する予定です。
――「バス事業はあまり収益が良くない」と、どこのバス事業者も言っていますが。
交通局では23区を中心に、139系統のバス路線を持っていますが、営業収支では赤字です。
ピーク時には1日約130万人の乗客がいましたが、鉄道網の整備に伴って乗客の減少傾向が続いてきました。しかし昨年、わずかながらも増加に転じたんですね。これは久々にいいニュースでした。
勝どきなど各地で再開発が進み、業務・商業人口や居住人口が大幅に増加したこと、六本木ヒルズやミッドタウンなどの話題スポットが出来たことで、周辺から大勢の人が訪れるようになりました。これが増加の要因だと考えています
これをきっかけに、都バスを普段、あまり利用しない人をターゲットに、都内各所をバスを使って観光できる情報誌を、るるぶと提携して12月に発行したばかりなんです。ターミナル駅ごとに利用できるバス路線を紹介したガイドも作成しています。
「都営交通安全の日」を設定
――安全面での取組みはいかがでしょうか。
2年前、都電荒川線で電車同士が衝突して30人の方に怪我を負わせてしまった事故がありました。日頃の仕事の中で安全を絶えず見直す作業を局をあげて実施しています。
荒川線の事故があったのは6月13日ですが、その日を「都営交通安全の日」として、6月の1カ月間は特に安全に関する職員の意識啓発に努めています。
今年は基本動作・基本作業の徹底をテーマに実施しました。これをやらないからといって、すぐに事故につながるというものではありませんが、指を差して確認し、口で発声し、それを耳に入れることで二重三重の安全確認につながります。こうしたことを毎日の仕事の中でつい怠ってしまったときに、事故が発生するんです。
職員には安全確保を最優先に自分の仕事を絶えず見直してほしいと言っています。また、万が一事故が起きたときには、徹底的に、背景も含めて調べ、再発防止につなげるようにしています。
――公営企業として都民は勿論、議会からも色々な注文が出されていると思いますが。
お客様の中には、都営交通は税金で運営されていると誤解なさっている方もいるようですが、そうではありません。例えば防災改良工事や低公害バスの導入に際しては補助金を頂いていますが、基本的に赤字を補てんする補助金は頂いていません。ただし、民間企業であれば税金を払いますが、公営企業である我々は法人税などの税金を払っていません。その分、公共としての先導的な役割を果たしていかなければならないと考えています。