2008年11月20日号
職業人教育の振興と専門学校の役割
東京の経済・産業・文化に貢献

 職業教育を中心として、産業界の中で現場の第一線で働く職業人を育成してきた専門学校。東京都には約400の専門学校があり、約16万人の学生が学んでいる。少子化による人材不足が社会問題となっている現在、職業人育成に果たす専門学校の役割はきわめて大きい。

 東京都専修学校各種学校協会会長・小林光俊氏、東京経営者協会顧問・大久保力氏、東京都専修学校各種学校協会常務理事・統計部長・関口正雄氏に、今後の専門学校の課題と展望を話し合っていただいた。

(構成/津久井 美智江)

少子化の時代における
人材育成の役割を担う

東京都専修学校各種学校協会会長<br />小林 光俊氏

東京都専修学校各種学校協会会長
小林 光俊氏

――産業界、特に中小企業で人材が得られない少子化という状況の中において、専門学校の存在意義とは?

小林  専門学校は今日まで33年間で約1千万人の職業人を養成してきました。

 日本のような資源のない国においては、人材こそが資源です。その人材を高度化し、活性化することによって、きちんと経済を維持していかなければなりません。職業人の育成を担うことが専門学校の課題であり、目的だろうと思っています。

関口  専門学校は(1)工業関係、(2)農業関係、(3)医療関係、(4)衛生関係、(5)教育・社会福祉関係、(6)商業実務関係、(7)服飾・家政関係、(8)文化・教養関係の8つの分野に分かれています。多くはいわゆる企業に就職しますが、必ずしも大学卒業者と競合する分野ではなく、国家資格を取って大卒とはあまり関係のない病院等の医療関係に就く場合もあります。一方で、将来的には独り立ちして、自分自身でマネジメントするデザイナーや音楽関係者も多数輩出しています。

 一番の課題は、一般の企業への就労関係で、大学との格差があるということではないでしょうか。専門学校の卒業者は、2年課程であれば短大卒、新しくできた4年課程であれば大卒と同等に嘱すべしと人事院から勧告が出ていますが、徹底されていないのが現状なのです。

大久保  経営者の立場から言いますと、時代は変わって、日本でも大卒なら誰でもよいというのではなく、実際に能力のある人を求めています。能力のある専門学校の卒業生は、まさに技術なり知識を身につけているわけで、企業にとっては大変貴重な存在だと思います。

 最近の傾向を見ていますと、一般の大卒や高卒よりも、専門卒のほうが社会的な規律がきちんとしているように感じます。就労意識がしっかりしているんでしょうね。それぞれが適正に適った職種に就くためのスキルを身につける場として、専門学校はますます重要な位置を占めるのではないかと思います。

――大学全入時代と言われ、高校の進路指導の現場では、一人でも多く生徒を大学に行かせる方向に流れています。

関口  私どもで今、調査しているのですが、いろいろな問題点が浮き彫りになってきました。学生本人が専門学校に行きたい、職業人としてのキャリアをつけたいと思っているにもかかわらず、高校側から大学受験を強烈に進められるケースがかなりあると言うんです。最終的に本人や親が納得して大学に進むのであれば結構なんですが、無理やり進路変更させるのはおかしいと思いますね。

 その辺の実態をつまびらかにしていきながら、高校や企業とも一緒に考え、学生たちをケアしていければと思っています。

小林  学生にはそれぞれ特性があるわけで、適正にあった進路指導を心がけるということを、高校側には望みます。

 きちんとした職業教育を受け、その道に専念し、そこで輝く人生を送る人もたくさんいらっしゃるわけですからね。

専門学校の社会的地位を
確保したい

――企業側は専門学校卒業生を非常に高く評価しているのに、一般社会の認識は異なると。まずは社会的評価を得ることが重要ではないでしょうか。

東京都専修学校各種学校常務理事・統計部長<br />関口 正雄氏

東京都専修学校各種学校常務理事・統計部長
関口 正雄氏

関口  昭和60年くらいまでは、専門学校は資格を取らせるところというイメージで世の中の人は見ていました。

 しかし今は、ゴールは資格取得ではなく、就職させることだというふうに大きく転換した。つまり、企業側から求められる人材を育成するために、資格取得以外にいわゆるヒューマンスキルを身につけることに力を入れるようになったんですね。「職業教育」というより「職業人教育」ということです。

 ところが、今の高校生の親たちは、依然として専門学校は何か資格を取らせる学校だと思っている。また、高校の先生方もそういう意識のままでいます。

大久保  先ほども言いましたが、企業側からすれば、どの学校を出たかということよりも、これができるという人のほうが安心して採用できるんですよね。比較的きちんとした形で、適材適所に割り振れますから。アンケート調査などを見ても、学生さんたちは非常に満足しています。

 問題はその先のポジショニングというか、社会的地位が確立していない点なんです。

関口  東京都専修学校各種学校協会が、広島大学の高等教育研究センターの申し入れを受けて、専門学校卒業1年目、3年目、7年目と、3つのポイントでキャリアの状況、それに与えた母校の教育の調査を、かなり本格的にやりました。

 そこで浮かび上がってきたのは、3年目から7年目になると、組織の中でマネジメントにかかわるような状況が出てくるということです。

 しかし、今の専門学校ではマネジメント的なところまでは教育してない。組織の中でキャリアを積んでいく際に、自分をどう位置づけていくかということが分からないんですね。

大久保  それは一般の大学生も同じでしょうけれど、非常に重要な問題ですね。

小林  例えば、フランスのグランゼコールは、専門性の高い分野に関する特別な教育機関として非常に高い評価を得ていますし、社会のリーダーがいっぱい育っているという実績があります。ドイツにも職人の技能と理論を実践と教育で培うマイスター制度があり、マイスターは大学卒業と同等、あるいはそれ以上の社会的評価を得ています。

 いずれも、もともとコミュニティーを大切にしていて、それを活性化し、国力を維持していくというシステムがきちんと根付いているんですね。日本も本来はそういうコミュニティー社会であったはずなのに、一部がアメリカ流のシステムに偏りすぎてしまった。特に教育制度に、その弊害が現れているのではないかと感じますね。

大久保  日本は縦割り社会ですから、教育の問題と雇用の問題はまったく別になってしまっているんですよね。雇用政策と職業教育政策は、もっと密接にかかわっていく必要があると思います。雇用を維持し、人材を確保するために、政府はもっとお金を出すべきでしょう。

小林  日本は教育に使う公的資金がOECDの中で最低レベルですからね。OECDの平均はGDP費5%と言われていますが、日本はたったの3・4%。前年は3・5%だったからさらに減っている。これで人材立国を目指すなんて、まるで夢物語ですよ。

大久保  教育にかけたお金は取りはぐれることはない。事実、セミナーや研修に参加している、勉強熱心な会社は必ず立派になっていますし、教育にきちんとお金をかけた企業なり、社会なり、国は必ず報われています。

小林  日本は人材が資源の国なのですから、教育にもっとお金をかけて、人材の育成、高度化、そして職業を発展させるよう仕組みそのものを変えていかないと、これからの労働力のグローバル化に対応していけないのではないかと危惧しています。

 産業界とも協力して、国や行政に働きかけていかねばと思っています。

ニートやフリーターの
受け皿として期待は大きい

――人材不足が叫ばれる一方で、ニートやフリーターが増えているのは問題です。

東京経営者協会顧問<br />大久保 力氏

東京経営者協会顧問
大久保 力氏

小林  職業に就くことの大切さを、小中学校のときから認識させる必要があろうかと思います。誰でも彼でも大学に進学するということでは、自分の目標が持てず、適正も見出せません。私が経営している学校は福祉系、医療系ですが、入学生の7割くらいが大卒者、あるいは社会人経験者なんですよ。

大久保  ニート、フリーター対策には、専門学校が最適だと思います。彼らは何年もぶらぶらしていては技術も技能もない。一歩間違えると社会的な規範も守れないようになってしまうわけですから、専門学校には大量に受け入れていただきたいし、国から委託されるぐらいの受け皿になってほしいです。

小林  おっしゃるとおり、そのような人たちに専門教育を受けさせて、社会や産業界に役立つ人間を再生していきたいですね。

関口  『13歳のハローワーク』という本が100万部以上も売れましたが、世の中にはこんなにたくさんの職があるということを改めて知った人も多いと思います。

 特に将来いい大学に入って、大きな組織に入って働くことが職に就くことだと思っていた子どもにとってはもちろん、その親たちにとってもかなりの衝撃だったはずです。

小林  専門学校の卒業生で、文学賞を取ったり、世界的なデザイナーとして活躍している人もたくさんいます。そういう人たちがもっと脚光を浴びてしかるべきだと思いますし、最終学歴に堂々と専門学校卒と書いてほしいですね。

大久保  先輩にすばらしい人がいるのは非常にいいことです。抽象的な職業が目標じゃなくて、実際にリードしている現場の人が、学生一人ひとりの目標になりますからね。おのずと人間教育になる。

関口  専門学校が持っている経験を踏まえ、高校や大学の関係者、企業の方々と一緒に、職業教育、職業観教育、人間教育の関係性を研究する「職業人教育学会」を立ち上げようしています。

 これは東京都の専修・各種学校の組織ではなく、独立した団体として広くいろいろな方に職業人教育について研究と発表の場にしていただくもので、専門学校の評価や認識を高めるために有効であろうと思っています。

小林  このような学会ができ、職業人教育の重要性が学術的に発表されるようになれば、マスコミ対策も充実してくるでしょうし、たいへん心強いですね。

大久保  とにかく専門学校はもっとPRの必要がありますね。一般の大卒よりも、はるかに就労意識の高い人たちを輩出しているのですから。社会全体の意識を変革し、専門学校の学歴を隠さなくてもいいような雰囲気にしていかないといけませんね。

専門職は夢がある
あこがれの仕事

――「職業人教育学会」ができることにより、卒業生の追跡調査だけでなく、企業側の調査結果なども発表されていけば、生徒はもちろん、高校や社会の専門学校に対する認識も変わっていくと思います。

関口  実際、先ほどの卒業生のデータを公開しましたら、高校の進路指導の先生から勉強会に来てくれないかという話がありました。具体的な調査データを示していくことは重要でしょうね。

大久保  よく言われることですが、将来の職業像が理解でき、ポジショニングが確認できれば、学生も進路指導の担当者も一つの進路として専門学校は非常に選択しやすくなるなではないかと思います。


関口  小林会長のご専門ですが、介護にたずさわる人たちはどんどん減少し、大学も専門学校も福祉系の学校は入学者が減っていますよね。

小林  小泉首相のときに骨太方針ということで、社会保障費が毎年2200億円カットされ、さらに見直しという名目で介護保険の給付もカットされました。その結果、介護の現場は3K、つまり「きつい、汚い、危険」と言われる状況になってしまった。これを改善するのが、すなわち専門職なんです。

関口  専門学校では、そういう専門性を持った人材を育てているわけですよね。

小林  しかし、実際に現場に行くとほとんどが促成の人たちです。しかも、そういう人たちでさえ得られない状況なっている。そこで厚労省が新たに約1200億円を入れることになったのです。

 国民の一番の心配は老後の安心、安全が保てるかということです。その中心になっているのが、医療と介護福祉なのですから、介護の現場で働くことが、夢のある仕事になっていかなければいけません。

 高齢化社会の担い手である専門職がどう育成され、どう社会に機能し、セーフティーネットを守っていくのか―。インドネシアから留学生を200余人受け入れましたが、日本の若者になり手がないから外国人でまかなうというのは間違っている。日本の若者もあこがれる、外国人もあこがれるというふうにならないと発展性はないと思います。

関口  一つのモデルケースですね。留学生の一部は日本で就職して、日本の活性化に役立っていただく。もちろん一部は国に帰って、その分野のリーダーになってもらう。そんなモデルを日本で作って、世界に示していくことはたいへん重要だと思います。

大久保  医療や介護にたずさわる人材のニーズは、世界的にますます増えていくと思います。日本は経済大国として、職業人教育といった方面でも信頼される国にならなければならない。日本で教育を受けた専門性の高い人材を、世界に売り込んでいくチャンスでもあるでしょうね。

関口  留学生の受け入れについても、専門学校が大きな役割を果たしています。日本に留学している多くの学生は、アニメーションやゲームコンテンツといった専門学校の持っている教育コンテンツに、ものすごくあこがれているんですね。ところが、国の留学生政策では、ほとんど大学が引き受けていくような想定になっています。現在策定中の留学生30万人計画でも、これは明らかです。東京都専修学校各種学校協会としては、30万人のうちの10万人程度は職業教育機関が受け入れ、定着させるべきと主張しています。

高等教育機関淘汰の時代を
生き抜くために

――子どもの数が減っているにもかかわらず、新しい大学や学部がどんどん増えています。専門学校は学校経営として、成り立っていけるのでしょうか。

関口  大学の場合は、入学定員の5倍くらいの出願者数を確保しないと、学生の確保は難しいと言われています。危うい大学は増えているといえるでしょう。

 ある大学のケースを例に挙げると、1982年の出願者は1300人。18歳人口がピークの1992年は1万3000人でちょうど10倍、設備投資や教員を増員した。ところが、それから10年後の2002年にはまた1300人に戻ってしまった。いかに経営的に困難かということは想像がつきますよね。

 専門学校の場合は、募集状況が変化するといっても3割も5割も変わることはありません。しかも、都が所管する私立学校の中で、専修・各種学校の学生、教職員は30%近くを占めていますが、いただいている補助金はわずか1%。ほとんど補助を受けずに学校として成り立っているということは、経営としては非常に優秀ということです。


小林  要る要らないは別として、やはり大学と比較して明らかに不当ですよね。

関口  専修・各種学校の補助金に対する考え方は2つありまして、その価値を認めてもらうためにも在ってしかるべきだという意見と、経営の独自性を失ってしまうから必要ないという意見があります。

小林  今、専門学校の一条校化を進めさせていただいていますが、専門学校が一条校と同じ制度として国に認められることになれば、父兄や高校の進路指導の先生方の認識も変わってくると思います。ようやく文科省の検討委員会に中間報告が出て、中教審にあがっていくという状況なので一歩前進。新聞等でも報道されて、少し明るくなりつつあります。

 世の中が大きく変わろうとしている現状に、行政も経済人も目を向けてほしいと思いますね。

大久保  日本はもう一度立ち上がらなければなりません。そのためには教育しかないんです。これからは一般的な常識を勉強してもしょうがない。ちゃんとした職業人でなければ役に立たないのです。

 職業人教育の場として、専門学校には大いに期待したいですね。


座談会出席者

 東京都専修学校各種学校協会会長 小林 光俊氏

 東京経営者協会顧問 大久保 力氏

 東京都専修学校各種学校 常務理事・統計部長 関口 正雄氏

司会 本紙編集長 津久井 美智江

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