局長に聞く
財務局長
村山 寛司氏
東京都の各局が行っている事業のポイントを紹介してもらう「局長に聞く」。第3回は財務局長の村山寛司氏。東京都の財政規模は一般会計で6兆8560億円、特別会計を含めると13兆4千億円と国家レベルでも上位に入る規模を誇る。景気に大きく左右される税収や、迫る社会資本の更新など多くの課題を抱え、転換期を迎えている東京都の財政運営について聞いた。
(聞き手/平田 邦彦)
多くの社会資本が更新時期に
――アメリカ発の金融危機の影響が心配されますが、まず、東京都の現在の財政状況についてうかがいます。
今回の金融不安が起こる前から、わが国の景気の潮目は逆転しておりまして、近年好調に推移してきた都税収入も、実は、昨年の後半から落ち込んできているのが実態です。
法人二税の占める割合が大きい東京都は、景気のよいときは税収も大きく上がりますが、下がるときも大きいという宿命的な構造があります。過去にも3年間で1兆円の減収という例があります。
加えて、国による法人事業税の暫定措置により、来年度から年間約3000億円の減収が見込まれます。金融不安による景気後退の影響も含めて、今後数年間は相当厳しい財政運営になると覚悟して、来年度の予算編成に臨んでいるところです。
――東京都はオリンピック招致を目指している2016年を達成年度とした長期計画、「10年後の東京」を大きな目標として掲げていますね。
これからの10年は、ハード面の社会資本の更新が待ったなしだという点がひとつです。
東京ではこれまで、昭和40年代の高度成長期と平成初頭に、道路、橋梁、建物などの公共施設が集中的に整備されました。2回の大きな山があったわけですが、前者については躯体そのものが更新時期を迎えている一方、後者は設備関係のリニューアル時期が迫っています。
その経費は建物だけでも、今後10年間で約8000億円と試算しています。道路や橋梁についても、都民の安全・安心を守るために着実に進めなくてはなりません。
一方、ソフト面でも高齢化の進展で、社会保障に要する費用の拡大は避けられません。
これらの財源をどうするか。少子・高齢化で生産人口が減っていく中、税収の担い手の担税力が落ちていくのはやむを得ませんから、今後は借金(起債)をなるべく抑える一方、基金などを活用し、貯められるときに貯めておくことが必要です。
こうした長いスパンで見た財政運営を行うためにも、10年後をしっかり視野に入れた長期計画を立てて進むことが重要だと考えています。オリンピック・パラリンピック招致はこうした東京づくりのためにも重要です。
コストの削減とともに質の確保も
――税金を無駄にしないという点では、入札制度のあり方も関係すると思いますが。
落札金額は安いほうがいいとも言えますが、同時に公共施設をつくるのですから、都民にサービスとしてきちんと還元されているか、つまり「質」が確保できているかが重要な要素です。
入札制度をめぐっては、一般競争入札のあり方、最低制限価格、予定価格の公表など、さまざまな課題があります。仕組みをもう一度、根っこから見直そうと、さる6月から「入札契約制度改革研究会」を外部の有識者を入れて立ち上げています。
先ごろ一次提言が出され、それを受けて当面の改善方策を実施していますが、今後もさらに検討を進め、経済性、公正性、品質―この3つをどう成り立たせるかという視点に立って改革に取り組んでいく考えです。
――最後に今後の財政運営に向けた抱負を。
先ほども申し上げたように、これから先、財政的にも非常に不透明な時代を迎えますが、あえて言わせていただければ、これまで歯を食いしばって進めてきた財政再建の取組みは、こういう事態も想定してやってきたものです。
都民の不安感が増している中、これに迅速・的確に応えることが求められています。同時に東京の将来像をどう描いていくかということも大きな課題です。
一方、コストの削減でも、ただ切ることだけが至上命題の「ケチケチ作戦」ではなく、構造的にどうしたら無駄をなくせるか、あるいは、同じコストをかけても効果がより発揮できる、そうした事業の中身に立ち返った見直しを進めていきたいと考えています。