火災警報器の設置義務
平成16年の消防法の改正により、新築住宅については平成18年6月1日から火災警報器の設置が義務付けられた。既存住宅についても、各市区町村の条例によって平成23年までの間に、順次義務付けの施行が予定されている。住宅を規制するのは消防法史上初のことだというが、どのような基準でどこにつけたらいいのか。また、違反をしたらどうなるのか。何となく法律だけが一人歩きしているような感があるが、そもそも、なぜそのような義務付けが行われるようになったのだろうか。
(取材/粕谷亮美)
火災にいち早く気付き、
一刻も早く非難するために
東京都に関していえば、近年、火災件数自体は減っている。しかし、東京消防庁管内の平成8〜17年の統計を見ると、火災による死者の8割が住宅火災からであり、その原因の約4割が「発見の遅れ」だという。また、総務省消防庁のHPによると、発生時間の割合は、就寝時間と夕食の準備時間が多い。特に就寝中であれば、火災の発生に気づかずに逃げ遅れてしまう可能性が高い。
一般住宅の天井はあまり高くないため、火災が起きると数分程度で煙が拡がり、避難が難しくなる。住宅用火災警報器を設置することで、火災の発生時のいち早い避難が期待できるというわけだ。
1970年代、住宅火災による死者が多いということで、アメリカは住宅にも手軽に設置できる火災警報器の普及を目指した。その結果、住宅火災による死者数が半減したという。その後、カナダやイギリスも同様のキャンペーンを行い、住宅用火災警報器の有効性を立証している。
日本においても、1980年代以降、消防庁は住宅防火に力を注いでいる。しかし、日本の住宅事情と一人暮らしの高齢者の増加により、住宅火災による死者はなかなか減らない。そこで、住宅用火災警報器の設置義務が課せられるようになったのである。
自動火災報知設備と
住宅用火災警報器の違いは?
一定面積以上の建物や店舗があるビル・重要文化財などには、自動火災報知設備の設置が義務付けられている。それは、感知器や受信機、警報機が組み合わされている大がかりな機器である。
それに対して住宅用火災警報器は、感知器本体にブザー(警報機)が内蔵され電池で動作するものと、家庭用電源(AC100V)で動作するものとがある。前者は、既存住宅に素人でも取り付け可能だが、電池取替が必要となる。後者は、電源(AC100V)工事が必要であり、新築住宅等に設置されることが多い。種類は、煙を感知する煙式と熱を感知する熱式の二種類。そのほかに火災・ガス漏れ複合型もある。
煙式には、光の反射を利用して感知する光電式と、ごく微量の放射性物質が含まれているイオン化式があるが、イオン化式は廃棄が困難なこともあり、日本では主に光電式を採用している。微量の煙などでも感知する場合が多いので、寝室や階段、廊下等の設置に向いている。一方、熱式は調理などで煙等が発生しやすい台所に適している。
購入の目安は、NSマーク(日本消防検定協会の鑑定合格証)付きが推奨されている。簡易式のものは防災設備取扱店や電気器具販売店、ホームセンター、家電量販店等で販売。実質価格は、10年寿命のリチウム電池採用の住宅用火災警報器で、だいたい一個5000〜6000円。警報音や保証条件などを考慮して選ぶのがよいようだ。
機能や機種については、池袋・本所・立川にある都民防災教育センター(防災館)や消防博物館でも相談ができる。「住宅用火災警報器相談室」【フリーダイヤル 0120・565・911(祝祭日を除く月〜金、9時〜17時)】もあるので、それを利用してもいい。東京消防庁のHP(http://www.tfd.metro.tokyo.jp/)にある「住宅火災対策」にも詳しい情報が掲載されているので、要チェックだ。
ところで、高価な火災警報器を売りつける悪質業者もあるので、十分注意が必要。
どの場所に、
いつまでに設置するのか?
改正消防法の施行令の規定によると、設置場所は各市町村条例によって異なる。東京都の場合は、浴室・トイレ・洗面所・納戸以外のすべての部屋・台所・階段に設置が必要。その場合、自動火災報知設備やスプリンクラーがある部屋には設置しなくてもいい。設置位置は、天井であれば中央付近(壁・梁から60cm以上離れたところ)、エアコンがある場合は噴出口から1・5m以上離すこと、壁に設置する場合は天井面から15〜50cmの高さに取り付けるように、とある(図参照)。
機種によっては取り付け位置の注意点が異なっている場合もあるので、仕様書の確認が必要。また、高所に取り付けるものだから、自分で行う場合はかなりの注意を要する。
既存住宅の設置義務の時期についても、各市町村条例によって異なる。東京都の場合は平成22年4月1日からは設置義務が課せられる(特別区及び島しょ地域に例外あり)。
ところが不思議なことに、この義務に反しても罰則規定はない。あくまで自主的な防護が目的とされている。果たして今後、各家庭でどれほどの設置が行われるのか、またどれほどの効果があらわれるのかを予測するのは難しい。
そこで荒川区では、住宅用火災警報器を区内の各世帯に一つ配布するという画期的な試みを行っている。平成18年度には障害者世帯へ優先配布し、今年度中には必要とされる全世帯に配布予定。荒川区防災課によれば、区内には木造住宅が密集している場所が多く、道路も狭い。火災警報器が設置されていたことで、火災による死傷を免れたケースもあるという。また、警報器の配布によって、区民の意識にも訴えることができる。
荒川区に追随するかたちで、今後、多くの自治体でも考慮してもらいたい。