課題解決に向け都議会の役割果たしたい
東京都議会議長
比留間敏夫氏
地方自治ではよく、知事(首長)と議会は「車の両輪」にたとえられる。都民から選ばれた知事を、同じく都民から選ばれた議員がチェックする、これが「二元代表制」の仕組みであり、お互いが緊張感をもって対峙することで、より広く民意を反映させようというのがその主旨だ。都議会議員125人を代表するとともに、首都東京の議長として都市間交流、議会の透明性の向上など、さまざまな課題に取り組む、比留間敏夫都議会議長にお話をうかがった。
(インタビュー/大竹良治)
新銀行東京問題
チェック機能の重要性を痛感
――首都東京の議長という役職に就任された率直な気持ちをお聞かせください。
比留間 昨年9月の定例都議会で、第41代の都議会議長に就任させていただきました。その後、これまで3回の定例会を主宰してきましたが、改めて責任の重さを痛感しているところです。
これからも、何事にも真摯な気持ちで臨み、微力ながら精一杯務めさせていただき、都政の発展に寄与できればと思っています。
――議長という仕事について簡単にご説明いただけますか。
比留間 一言で言うと対外的に都議会を代表する「議会の顔」、それが議長です。具体的な仕事としては、まず、本会議の主宰ですね。議長は円滑に議事が運営されるよう努め、議場の秩序を保つことが求められています。
ほかにも各種会合や式典への出席、事務の処理などさまざまな職務があり、考えていた以上に忙しいですが、議会事務局の協力を得ながら日々こなしているところです。
――議長席に座っているといろいろ苦労されることもあるのでは。
比留間 常に全体を見渡し、公正かつ円滑にと心がけています。ただ、議場は論戦の場ですから質問戦では激しいヤジが飛ぶこともあります。こうした、いわゆる不規則発言に対しては、「ご静粛に」と注意する場合もありますが、私としては議場全体の雰囲気も考えて、なるべくなら議事を止めずに進めたいと思っています。各会派それぞれ政策や考え方も違いますから、お互いの信頼関係が何よりも大切ですね。
それから議事進行上、一番気をつけているのは、台本の読み間違いですね。とくに議案の号数や契約年度といった数字は間違わないようにときつく言われています(笑)。あとで訂正するのが大変らしいのでね。
――先の第一回定例会は新銀行東京への追加出資問題で全国的に大きな関心を集めました。振り返ってみていかがですか。
比留間 約一か月間の長丁場で深夜に及んだ場面もありましたから、あとになってから、けっこう体にこたえましたね。
新銀行問題について言えば、議会は知事との二元代表制の一翼を担うという意味で、執行機関に対してしっかりとチェック機能を果たしていかなければならない、このことを改めて重く受け止めました。
新銀行東京は、貸し渋りや貸しはがしで厳しい状況にあった中小企業を救済するという政策目的で創設されました。その発想は良かったのですが、運営に問題があり経営が行き詰まってしまいました。さまざまな議論をふまえて、四百億円の追加出資が決まりましたが、今後の再構築に向け、議会としてもしっかりと見ていかなくてはいけないと思っています。
ただ、定例会全体を振り返ると、新銀行問題一本に集中しすぎたのかなという感じはしますね。平成20年度予算案をはじめ、他にも多くの課題を抱えていましたから。例えば、東京都の法人事業税を2年間、国に3000億円移譲する問題、これなども今後の都財政に大きな影響を与える問題ですから、もっと議論されてもよかったのかなと個人的には思います。
いずれにしろ、都議会議員は都民の代表として、東京都全体の将来をしっかりと見るという視点で使命を果たしていくことが重要です。
透明性の向上も課題
気軽に来ていただける議会に
――話は変わりますが、いまお話をうかがっているこの議長室では、普段、どのような職務をこなしているのですか。
比留間 本会議などの議会活動の打ち合わせ、各執行機関(都庁の各局)からの事業説明、事務の決済などさまざまです。それから、海外からの来賓や議員・議員関係者、請願・要望者、各種団体関係者の訪問も多いですね。登庁する日には必ず何件か入ります。
――議会の外での仕事も多いと聞きます。
比留間 平均すると二日に一件程度で各種の式典に出席していますね。最近では日暮里・舎人ライナーの開業記念式典、東京湾岸警察署の開署式典、多摩動物公園50周年記念式典などがありました。知事が出席する式典にはなるべく出るようにしています。
それから他の自治体の議長さんとの会合も、全国都道府県議会議長会、関東甲信越1都9県議会議長会、1都3県議会議長会をはじめいろいろありますから可能な限り出席しています。
――議会の透明性の向上を求める声も多いですが、都議会での取組みをお聞かせください。
比留間 都民の関心も高い政務調査費の問題については、私も非常に重要な課題であると認識しています。
現在、都議会では議会運営委員会の理事会の下に、各会派の代表からなる「都議会あり方検討委員会」を設置して検討を進めているところです。
これまでに政務調査費の新しい使途基準がまとまり、さる4月から規程を改正して実施しています。今後の課題としては、領収書の取り扱い、第三者機関によるチェック機能の問題があります。領収書添付の基準額については、いくらにするか検討していますが、今後、十分議論をつくして、なるべく早く都民の皆様にお示しし、(スタートに向け)条例改正したいと考えています。
一方、地方議員の活動領域が議会内外に拡大している中、それにふさわしい議員の法的位置づけがなされていないという問題もあります。
全国都道府県議会議長会でも検討を進めており、国会に要望書も提出しているところですが、思うよう進んでいないのが現状です。
地方議員の法的位置づけを明確にすることによって、地方分権時代にふさわしい役割を果たすことができるよう、今後、他の道府県議会とも連携して取り組んでいく考えです。
――都民に親しまれる都議会に向けた取組みについてはいかがですか。
比留間 都議会をもっと開かれた、親しまれるものにすることも重要な課題です。これまで広報紙「都議会だより」のカラー化や、委員会活動等を紹介するテレビ番組や都議会ホームページの充実などに取り組んできており、さる3月には新たに都議会のPR用ビデオを外国語版も含めて作製したところです。
また、都庁に来られる見学者に対しては、都議会をよく知っていただくために、専門の案内員による説明などできるだけ便宜を図っているところです。本会議や委員会の傍聴にも、もっと多くの方々に来ていただきたいと考えており、さらに気軽に来ていただける都議会づくりを進めていきたいですね。
積極的な都市間交流も
ぜひ成功させたい五輪招致
――海外諸都市との交流も都議会の大事な役割だと思いますが、最近の実績は。
比留間 都議会では、都の姉妹友好都市の議会を中心にさまざまな交流を行っています。とくに北京市、ソウル特別市とは、同じアジアでお隣りということもあり、一年ごと、相互に友好代表団を派遣して交流を深めるとともに、大都市共通の課題について意見交換を行っているところです。
昨年度は11月6日から12日までの7日間、石井義修副議長を団長とする10名の議員による友好代表団が両都市を訪問しました。今年度は両都市から都議会に訪問団が来る予定となっています。
――石原知事に対する議長の率直な評価をお聞かせください。
比留間 あれだけ物事をはっきり言う人だから、いろいろ批判する人もいますが、私は遠慮して言わないよりは、主張したほうがいいと思っていますから評価していますよ。
実は石原さんが最初に当選した直後の定例会で、代表質問に立ったのが私で、当時、自民党は野党でしたから、知事の姿勢を厳しく批判したことを覚えています。その後は良い意味で緊張感を持ちながら議論を交わしてきていますが、これからも、お互いに信頼関係を築きながら、都政の車の両輪として課題の解決に当たっていくことが重要だと考えています。
――最後にオリンピック招致に向けた議長の思いも含めて今後の抱負を。
比留間 2016年の東京オリンピック招致に向けては、都議会もオリンピック招致特別委員会や招致議員連盟をつくり、協力して全国的な機運の盛り上げに取り組んでいるところです。さる2月には、議員連盟のメンバーが分担して各道府県をお願いして歩いたのですが、みな好意的に迎えていただき、今後の協力に弾みをつけることができました。ぜひ東京への招致を実現したいと考えており、これからも知事とともに精力的に活動していく考えです。
一方、2013年には、私の地元でもある多摩で国体が開催されます。先の第一回定例会で開催決議が行われましたが、スポーツは青少年の教育においても大きな効果をもたらすものと考えており、こちらの方もぜひ成功させたいですね。
今後も東京のさらなる発展に向け、都議会がその役割を果たせるよう、議長として全力で取り組んでいきたいと考えています。
<プロフィール>
昭和9年5月19日生まれ。都立農業高校卒業。6期務めた父の跡を継ぎ昭和46年府中市議に。以後6期務め昭和60年から平成元年まで市議会議長を経験。平成5年に都議となり現在4期目。この間、都議会自民党政調会長、幹事長を歴任する。政治信条は「信頼」。「最終的にはお互いの信頼が一番大事だと思っている」と語る。家族は長男夫婦と孫3人。5月3・4日は地元の「くらやみ祭り」でお囃子三昧だったとか。健康法は朝夕のウォーキング。