子育てに関わる多様な施設・サービスを強化・連携
子育て世帯や学生を応援し、より住み続けたくなる沿線に
東急株式会社

  • 取材:種藤 潤

1922年の創業以来、東急株式会社は公共交通機関と都市開発を両軸としてまちづくりを進めており、東急線沿線を中心としたエリア価値の継続的な向上に取り組んできた。そして今年2月、昨今の少子化や子育て世帯における教育環境の変化などの課題に対して、さらなる子育てを安心してできる社会の実現を目指し、「子育て・学生応援 東急スクラムプロジェクト」を立ち上げ、多様な施設・サービスの強化・連携を宣言。現在そのプロジェクトチームメンバーである2人に話を聞いた。

「子育て・学生応援 東急スクラムプロジェクト」のロゴマーク。ピンクは「安心」、ターコイズは「心地よさ」、イエローは「親しみ」、ライトブルーは「洗練」をイメージ。ちなみに「スクラム」という言葉には、東急が子育て世帯の皆さんとスクラムを組むという意味と、グループ会社が一丸となってスクラムを組み子育て世帯や学生の皆さんを力強く応援していくという2つの意味が込められているという(提供:東急)

子育て世帯と学生応援を強化 第一弾は通学定期券を3割引に

 東急株式会社は、グループ全体でこれまでも数多くの子育て世代、学生向けの事業を行ってきた。同社資料によると、5つのシーンに分けられるという。

①交通利用

土休日に小児の利用者が100円で東急線を1日乗り放題で利用できる「東急線キッズパス」、乳幼児連れでも利用しやすい駅構内の整備、東急線および東急バスを利用する子どもの見守りサービス「エキッズ」など

②まなび

まちづくりをテーマにした学校授業支援、渋谷拠点のIT企業が学校に出張するプログラミング教育「Kids VALLEY」、学童保育「キッズベースキャンプ」、「KBCほいくえん」運営、「東急スポーツシステム(TSS)」キッズ事業など

③お出かけ

「電車とバスの博物館(宮崎台駅)」、子育て世代向けウェブページ「こそだてプラス」運営など

④暮らし

家事代行サービス「東急ベル」、まちづくりプラットフォームアプリ「common」運営など

⑤文化・体験

東急線沿線で子どもを取り巻く社会課題解決を目指し活動する団体に活動資金を助成する「東急子ども応援プログラム」運営など

 そしてこうした事業のさらなる強化・連携のために、今年2月に「子育て・学生応援 東急スクラムプロジェクト」を立ち上げた。

 その第一弾として、3月15日より東急線通学定期旅客運賃を現行より平均約30%値下げした。今回の対象は小学生から大学生まで幅広く網羅。本プロジェクトを統括する東急社長室の鈴木誉久(たかひさ)副室長は、このアクションについて次のように語る。

 「この割引により、減収は予測されますが、昨今の物価高なども考慮し、学びの期間における子育て世帯や学生の家計を応援するために、鉄道会社として最もシンプルでわかりやすい形を選びました。値下げによる需要促進や中長期的な沿線人口への定着などを踏まえると、沿線における当社グループ事業への波及効果は大きいものと考えております。そして、この割引をきっかけに、本プロジェクトを多くの方に知ってもらおうというメッセージも込めています」

今回取材に応じた古怒田主査も携わった「東急子ども応援プログラム」のロゴ(提供:東急)

組織横断、性別世代を超えたチーム編成 社内外に発信し異業種や自治体にも呼びかけ

 本プロジェクトは、社長室に事務局を設置。現在、組織横断で人材を集め、チーム編成をしている最中だという。その事務局の中心を担うのが、先の鈴木副室長と、社長室政策グループの古怒田(こぬた)佳恵主査だ。

 「業種職種はもちろん、性別、年代も幅広く編成する予定です。そこには当然子育て世代の社員も含まれますが、一言で子育て世代と言っても乳幼児と大学生の子育てではニーズも異なるため、そこにも多様性を持たせます。さらに、入社歴の浅い若手社員にも声をかけ、最近まで学生だった世代の考えも取り入れようと思っています」(古怒田主査)

 通学定期割引以外の具体的なアクションはこれからだが、まずはウェブメディアを中心に情報発信し、プロジェクトの認知を高めていきたいという。

 「当社グループはこれだけ多種多様な事業を展開しているため、情報発信に関してはさらなる工夫の余地があると思います。沿線に暮らすみなさまに弊社が子育て世帯や学生向けの事業に力を入れていることを認知してもらうのはもちろん、今後の事業を円滑に行うためにも、社内認知の向上も重要だと考えています」(鈴木副室長)

 「沿線の地元企業や自治体にも意識して発信したいですね。例えば、『Kids VALLEY』はIT企業が集結する渋谷の特徴を生かした取組ですが、学校に民間企業のリソースが入ることで教育の幅が広がる可能性は大きいと思います。本プロジェクトを官民連携の推進にもつなげていきたいと考えています」(古怒田主査)

渋谷というIT企業が集まる地域の特性を活かした、小中学生向けプログラミング教室「Kids VALLEY」の一コマ(提供:東急)

子育てがしやすく、社会貢献度も高い 民間企業だからできるまちづくりを

 ちなみに鈴木副室長は、これまで学童保育やスポーツクラブに加え、シニア住宅など、主に沿線の暮らしやすさを後押しする事業に携わってきた。古怒田主査もシニア事業や「東急子ども応援プログラム」を担当した経験を持つ。こうした二人の目線からも、既存事業の連携強化により、子育て世代の暮らしやすさはさらに向上すると見込む。

 「各事業を組み合わせることで、子育てサービス全般をワンストップで行うことが可能になります。また、本プロジェクトの認知度が高まることで、『東急子ども応援プログラム』などで弊社が連携・支援しているNPO団体等の認知も高まり、彼らの支援の輪を広げるサポートにもつながると考えています」(鈴木副室長)

 「以前、生活全般のサービスを提供するシニア向けサービス付き住宅の立ち上げを担当したときに、ご高齢の方のいろいろな生活の場面で多くのグループ会社と連携してサービスの提供ができることを実感しました。今回、子育て世代・学生向けに行っている事業の強化につながる各社・各部署間の連携を起こす『触媒』のような役割をしっかり果たしていきたいと思います」(古怒田主査)

 人口減少が進む昨今であるが、東急線沿線は2040年まで人口が増える予測がされている。だが、決して安泰ではないと二人は声を揃える。

 「最近10年間の人口増加の内訳を見ると、現役世代と言える『生産年齢人口(15歳?64歳)』の増加率は低く、20年先を見越すと、人口全体の減少も見えてきます。『生産年齢人口』を増やすためには、これからの社会動向を見据えた、子育てを中心とした暮らしやすさはもちろん、社会貢献度の高いまちづくりが求められると思います。一方で、社会性だけでなく収益性もなければ、持続的なまちづくりはできません。民間企業の東急だからできる形を模索しながら、本プロジェクトを進めていきたいと思います」(鈴木副室長)

プロジェクトチームメンバーの東急社長室の鈴木誉久副室長(左)と、社長室政策グループの古怒田佳恵主査

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