教育長 坂本雅彦氏
東京都の各局が行っている事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」、今回は教育長の坂本雅彦氏。来年度から開始される「新たな教育のスタイルの展開」はどのような目的の下に行われるのか等を伺った。
デジタルとリアルの融合

教育長 坂本雅彦氏
スピード感持ち改革を推進
—教育長就任の抱負は。
東京都教育施策大綱に、「誰一人取り残されず、すべての子どもが将来への希望を持って、自ら伸び、育つ教育」という目標があります。その実現が私の抱負です。
社会や経済の状況が変化すれば、家庭内で子どもが置かれている環境も変わります。大綱の実現には様々なやり方があると考えているので、今の時点での最適な方法で取り組みます。今の時代はデジタルです。このことを踏まえた教育が不可欠と認識しています。デジタルツールを生徒達に与えて終わりではなく、使いこなした上でしっかり学習すべき段階に来ていると思います。
でも、デジタルだけでいいのかというと、必ずしもそうではない。リアルな現場で人間同士が色々な壁にぶちあたり、それを克服することで一人の人間として成長します。言わば「デジタルとリアルの融合」にしっかり取り組みたいですね。
—都立高校改革「新たな教育のスタイルの展開」の内容は。
今、お話した「デジタルとリアルの融合」がメインになります。デジタルでは好きな時間、好きな場所で学ぶことができるのが大きな特色ですが、人間いつでもそういうことが可能かと言うとそうではありません。
リアルでは自分の思うようにならないことは沢山あるので、それをいかに克服し前に進むかという発想と具体的なスキルが求められます。このリアルが非常に重要で、これを放棄したら教育はできないと思っています。まずは、通信制を行っている新宿山吹高校で着手予定です。その後は各学校の判断に委ねたいと思います。
不登校をはじめ子ども達は様々な課題を抱えています。通信制にはそのような子ども達が多いのですが、単に卒業するのではなく、子ども達に積極的なカリキュラムを提供し、同時にリアルの重要さも教える場にしたいです。通信制から風穴を開け、じわじわと新たな教育のスタイルを広げたいですね。
「新しい教育のスタイル」とは謳っていますが、新しいと思っている時点で既に古くなるのでスピード感が求められます。この取組は10年先を見据えるのではなくこの1、2年が勝負ですね。
—教える側、教員の人材育成も重要ですね。
教師も従来のティーチャーでいいのか、教えながらも子ども達の個々の個性や適性を見極め、的確な学習方法、進路をアドバイスするスキルが求められます。ティーチャーであることを前提に、ファシリテーターとなることが迫られますね。子ども達の学びをオペレートできる人材です。デジタルに加え、リアルの重要性が改めて問われると思います。
リアルの重要性ということでは、子ども達の現実の社会に関する知識も含まれます。クリエイターを目指すのもいいけれど、実際に食べていける人は限られています。学んでいる最中は面白いけれども、いざ世の中に出てみるとどうしていいか分からなくなってしまうのです。
経営の知識や資金調達の方法、給与の支払いや社会保険に関することなどの実学が抜けたまま社会に出ても、通用しないという結果になりかねません。魅力的な部分だけでなく、社会の現場の重要性もしっかり教えこまないと、教育としては完璧ではないと思います。
世界共通の教養も不可欠
—グローバルな人材の育成の取組は。
英語を使えるようになって世界で活躍する人材を育成することはとても重要ですが、英語が話せればいいのかという問題もあります。英語を話す世界の背後にある教養をセットで身につけることが不可欠です。
本を読むのもあるでしょうが、現場で実体験、つまり海外に留学することも必要です。外資系の会社に高校生がインターンとして入るというのもあるでしょうね。
語学だけでない実社会での体験、そして世界共通の教養などを総合的に身につけることができる教育を行いたいです。今回、米国のミネルバ大学と連携し、高校生にこうしたことを学んでもらう取組を行います。
世界共通の教養を育てないと、世界と渡り合うことはできないでしょう。英語で会話できても、相手の国の歴史などの教養がなければ信用されないのではないでしょうか。こうしたところまで踏み込むことが本当の国際化のベースだと思います。
一方、現場の教師だけでこうした教養を教えることは難しいことも多く、外部人材の活用が必要になります。教える側での活用以外にも、学校の働き方改革でも必要とされるでしょう。本当に教師がやるべきなのかという業務が長時間労働に繋がっている可能性があります。来年度は教育庁の外郭団体である東京都教育支援機構(TEPRO)と連携を強化し、現場のサポートを強化したいと考えています。
—このほか取り組みたいことは。
スクールカウンセラーの常駐化です。現場から常駐化を望む声が多いので、必要に応じてになりますが3日間は常駐化します。これも働き方改革ですね。