教職員の「働き方改革」も後押しする
時間と場所を選ばない荒川区の教育ICT環境を構築
株式会社内田洋行
内田洋行は2013年、全国で初めて全小中学校に1万台のタブレットPCを導入した、東京都荒川区の教育ICT環境整備をサポート。そして2024年度のシステム更新に合わせて、新たな端末導入とともに、教職員が時間と場所を選ばず仕事が行える「荒川モデル」と言える最先端のICT環境を構築した。その中心的な役割を担った荒川区教育委員会と内田洋行に、このモデルの機能面や安全性、そして今後の可能性などについて話を聞いた。

中央が荒川区教育委員会事務局学務課・教育事業担当係長の柳生光彦さん。左が内田洋行地域デジタル化推進部課長の井土真宏さん、右が同社システムズエンジニアリング事業部の永山達也さん
クラウド環境に適したタブレットに刷新 同時に強固なセキュリティを確保
荒川区は、教育に力を入れていた西川太一郎前区長時代に、「未来を拓き、たくましく生きる子どもを育成する」という目標を掲げ、夢につながる学びの推進として、全国に先駆けて全小中学校へのタブレットPCを1万台導入。そのマインドを受け継ぎ、昨年度はシステムの更新時期に合わせて、児童生徒はもちろん、教職員にとっても安全に、使いやすい、最新鋭の「荒川モデル」と言える教育ICT環境に刷新した。
具体的には、クラウド環境での学習に適したChromebook端末(児童生徒分14490台、教職員分1197台※予備機を含む)への更新と、Windows社系のOSを使用する「Microsoft 365 Education A5(M365 A5)」を活用した強固なセキュリティを持った新システムの導入だ。ポイントとなるのは仮想デスクトップ環境「Azure Virtual Desktop」を利用することで、Google社系のOSを用いる「Google Workspace for Education Plus(GWS)」と前出の「M365 A5」という、異なるOSを用いるプラットフォームを1台の端末から利用できるようにしたことだ。
内田洋行は、前区長時代の1万台導入はもちろん、昨年のシステム刷新においても、全体の利用環境の設計構築から、PCやネットワーク機器の設定、プロジェクトマネジメントまでサポートした。

内田洋行のサポートのもと、荒川区が導入した新システムの全体像(提供:内田洋行)
教職員は場所を選ばず端末を利用 校務系情報流出リスクも軽減
特に今回の刷新により、教職員の端末利用の環境が大幅に改善されたという。
これまで学校現場では、教職員は授業で使用する学習系のPCと、事務作業などの校務系のPCの2台を使い分ける必要があった。特に校務系のPC端末は、機密情報を守るため、有線LANで職員室に固定設置され、教職員は作業のたびに移動する必要があった。 「さらには、家庭の用事で帰宅した後や長期休暇中で学校に不在でも、校務に関する急な業務が発生した場合は、職員室に出向かなければならない状況でした。こうした『教職員の働き方改革』は、今回のシステム刷新の主要な目的のひとつでした」荒川区教育委員会事務局学務課・教育事業担当係長の柳生(やぎゅう)光彦さんは、導入の背景を振り返る。
「昨今、教職員の労働環境の改善が求められ、特に育児、介護の影響で、校務系の仕事も自宅でしたいという要望がありました。ですが、これまでは端末を持ち帰ることはできず、休日出勤など不自由な選択肢しかありませんでした。本システムでそうした環境が改善されたことはもちろん、学校内でも職員室の滞在時間が減り、子どもたちと接する時間を増やす効果も期待できます」
今回のシステム導入に参加した、内田洋行システムズエンジニアリング事業部の永山達也さんは、2つのOSをハイブリッドに組み合わせることで、新たな安全性も生み出し、従来のシステム構築では1つのOSの選択肢しか技術的には考えられなかった仕組みを斬新に変革させた。
「異なるOSを組み合わせた仮想デスクトップでは、ログイン時に電子証明書とID・パスワードを使った多要素認証を実装。また、ファイル暗号化や上長承認機能を活用して、校務系の機微情報が学習環境に流出しにくい強固なシステムを構築しました。これは、現在文部科学省が示す『教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』にも準拠しています。その上で、セキュリティ監視センターから24時間365日体制で、荒川区のICT環境のサイバー攻撃を防ぐ体制を構築しています」
子どもの個別最適な学習環境を目指し 更なる教職員の使いやすさを支援
新システムは昨年9月から、まずは教職員向けに運用がスタートした。約5ヶ月を経て、柳生さんは徐々に想定した環境に近づいていると語る。
「従来にはない仮想デスクトップでの実装ということで、仮想端末の起動のスピードの時間が読めない部分がありましたが、内田洋行さまが細かいチューニングを行い、現在はかなりスムーズになってきていると感じます」
そして、今年4月からは小中学生の児童生徒が実際にこのシステムを使用し始める。柳生さんは、児童生徒のICT学習環境が向上するだけでなく、教育そのものの課題も克服していきたいという。
「新システムの学習系環境では、Chromebookを通して、内田洋行さまの学習eポータル『L-Gate』を利用し、子どもたちの健康管理や授業アンケート、学習履歴などのデータ連携を可能にして、子どもたち一人ひとりの状態をより細かく学校が支えることができ、新たにGWSと自動連携し、PCの台帳管理も可能にしました。また、学校ごとの端末の稼働状況を“見える化”しました。
さらに、子ども議会にて中学校の生徒からネットワークの繋がりにくさが指摘されており、このシステム更新を機に、LTE通信を利用できる端末を整備、通信環境を改善しました。LTEはWi-Fiがなくてもインターネットが使用できますので、ご家庭にWi-Fiを設置していない児童生徒も利用できます。
その上で、オンライン学習コンテンツも全児童生徒が無償で利用できるようにしました。塾に通う機会がない子どもたちでも等しく学習機会を持てる、教育格差の是正にも繋げたいと思っています」
柳生さんの熱い思いが新環境を作る一方で、教職員たちのICTスキルについては「新しいシステムに馴染むまでの間、旧システムを優先する教職員に対しては、過渡期として、旧システムを一部残しながら、新システム導入を進めています」と語る。
目指すは、子どもはもちろん、教職員にとっても「人」中心の個別最適な教育ICT環境。そんな荒川区の思いを実現すべく、内田洋行地域デジタル化推進部課長の井土(いど)真宏さんは、まずは教職員がより使いやすい環境整備を後押ししていきたいと話す。
「新システムにより教職員の皆さまの働きやすさが格段に向上するのは間違いありません。弊社は荒川区さまのお蔭で全国規模のICT導入に挑戦できた歴史があります。今後もさらに努力を続け、荒川区の教職員の皆さまが子どもたちの現状や、未来を見つめるデータ活用も含めて、提案していきたいと思います」