温泉の源泉の宅配を行う 「温泉宅配」サイトの運営等

株式会社ヒューマンウェア

  • 取材:種藤 潤

 日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。

温泉地に足を運ばなくても、自宅や施設で本格的な温泉体験ができる。これまであるようでなかった事業が、一見温泉業界とは縁のないIT企業・株式会社ヒューマンウェアによって実現した。同社は独自のIT技術を駆使し、源泉100%の湯を全国へ届ける宅配システムを構築。さらに、温泉療法の専門家である伊藤実喜(みよし)医学博士と連携し、日本古来の「湯治(とうじ)」文化を現代に再生させた。その挑戦の原動力は、「武士の商法」を信念とし、士魂商才の精神で社会貢献を果たそうという揺るぎない思いだった。

現在「温泉宅配」の源泉は2リットルのペットボトル6本(右)、または20リットルの段ボール(左)で配送される(提供:ヒューマンウェア)

現在「温泉宅配」の源泉は2リットルのペットボトル6本(右)、または20リットルの段ボール(左)で配送される(提供:ヒューマンウェア)

 「温泉宅配」とは、北海道から鹿児島まで全国19カ所(2024年12月現在)の名湯の源泉を、自宅や施設に直接届けるサービスだ。

 利用方法は以下の3つ。

 1.一般利用:専用サイトから好みの温泉を注文。現地で朝採れた新鮮な温泉が、2リットルボトル×6本または20リットルの専用パッケージで届く。浴槽のお湯に注ぐだけで、名湯の湯ざわりが自宅で楽しめる(詳細は温泉宅配ウェブサイト参照)。

 2.医療連携利用:かかりつけ医の指導のもと、伊藤実喜医学博士によるオンライン診療後、医師の助言に基づいた入浴法で健康管理が可能。

 3.介護施設利用:パナソニック エイジフリー株式会社と連携し、利用者の要望に応じた温泉入浴介護を訪問入浴介護サービスとして提供。

温泉宅配で選べる温泉地は現在19カ所
(提供:ヒューマンウェア)

温泉宅配で選べる温泉地は現在19カ所 (提供:ヒューマンウェア)

ノーベル医学賞理論が証明 自宅温泉で免疫力アップ

 「自宅で名湯に浸かることには、これからのヘルスケアを変える力がある」

 そう語るのは、「温泉宅配」事業を立ち上げた株式会社ヒューマンウェアの山下憲男代表取締役だ。

 「終身温泉療法専門医である伊藤博士の専門的な指導のもと、温泉の効能に加え、入浴での体温上昇が免疫力向上につながることが科学的に証明されています。これを『マイホーム湯治』と名付け、誰もが簡単に健康を維持できる仕組みを整えました」

 その根拠は、1998年ノーベル生理学・医学賞を受賞したルイス・J・イグナロ博士の一酸化窒素(NO)研究だ。温泉入浴で体温が0.5度以上上昇すると、毛細血管の内皮細胞からNOが分泌され、血管が拡張。それにより血流が促進され、動脈硬化や老化防止に効果が期待できる。このメカニズムを、日本の伝統的な湯治文化と融合させたのが「マイホーム湯治」だ。

 「『マイホーム湯治』が、ウェルネス分野のヘルスケアで最強の温泉習慣として定着するよう、啓蒙活動を進めていきたいです」

右がヒューマンウェアの山下憲男代表取締役。左が上野東京マイホームクリニックの伊藤実喜医学博士。伊藤博士の右手には、フィリピンの医療ボランティアの際に行うマジックで使用するキャラクター、ジッキー君(実喜に由来)

右がヒューマンウェアの山下憲男代表取締役。左が上野東京マイホームクリニックの伊藤実喜医学博士。伊藤博士の右手には、フィリピンの医療ボランティアの際に行うマジックで使用するキャラクター、ジッキー君(実喜に由来)

コロナ禍が後押しした 温泉地支援と温泉習慣の普及

 山下社長が温泉宅配事業を開始したのは2019年。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で打撃を受けた全国の温泉地の支援と温泉習慣の普及を目指して、事業化を決意した。

 しかし、この構想自体は起業の30年以上前から温めていた。前職時代、秋田出張の際に「高齢者が温泉に行けず困っている」現状に直面したのだ。

 「当時は物流網やインターネット環境が整っておらず、一度は断念しました。しかし、温泉ビジネスの可能性は信じていました」

 現在は、温泉法に基づく許可を受けた地元源泉保有事業者と提携。オンライン予約や受発注・決済、物流インフラを組み合わせた新たなビジネスモデルとして確立している。

世の中を良くしたい 信念がつなぐ温泉宅配の未来

 事業開始から5年、提携温泉地と利用者は全国に拡大。介護施設での導入や、業界初の温泉フットバス器具を使った温泉足湯も展開し、SOMPOケア株式会社との協業も順調に進んでいる。

 伊藤博士は、「コロナ禍で失われた健康を温泉療法で取り戻したい」という山下社長の思いに共感し、即座に協力を決意した。

 「実は山下社長と同様に、私も専門医としてコロナ禍に温泉療法で世の中の役に立ちたいと考えていました。この療法を活用すれば、コロナ禍で落ちた体力を増進できると確信していましたが、結果的に形にすることはできませんでした。しかし、山下社長から協働の提案を受けて、新しい温泉療法に挑戦する意欲が湧きました」

 利益よりも社会貢献。山下社長の原点は、故郷・鹿児島に根付く薩摩武士の精神にある。その理念は、温泉宅配にとどまらず、あらゆる事業の根底に息づいている。

 一方、伊藤博士もフィリピンの無医村での医療ボランティアに長年従事し、同じ志を抱いていた。

 山下社長は起業した東京の都心部で、伊藤博士とともに「温泉宅配」の普及に力を入れていくという。

 「東京は消費の中心であり、ストレス社会でもあります。温泉の癒やしは、東京でも必ず求められるはずです。都市部での成功が、地方の温泉地の活性化にもつながると信じています。ぜひ多くの方々に利用していただきたいです」

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