陸上自衛隊 東部方面総監部
防衛部防衛課運用幹部 川副英樹
文字通り、仕事に自分の命を賭ける人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
自衛隊が大規模災害時に災害派遣に向かうことはだれもが知っているところだが、それらの活動が平時における準備調整があるからこそ、迅速かつ的確に行われることは、意外と知られていない。関東エリアにおいてその調整を行う災害担当幹部に、話を聞くことができた。
関東エリア1都10県の災害運用を担当 各部隊のスペシャリストが集う
東部方面総監部防衛部防衛課は、管轄する関東エリア1都10県(神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬、新潟、長野、山梨、静岡)の活動全体の運用に関わる状況の把握、計画・命令の作成及び関係組織との調整等を行う、陸上自衛隊関東エリアにおける中心的存在と言える。そのなかには、今回取材した川副英樹3佐が所属する運用班のほか、部隊編成を担当する編成班、外部との調整を主とする部外協力班、航空関係を専門とした航空班などがあり、運用班は、災害対処等の計画作成・実行に係る中核的な役割を担う。
運用班には、陸上部隊の骨幹である普通科をはじめ、様々な職種の人材が集まり、それぞれの経験を活かして全体を運用するという。川副3佐は航空科のスペシャリストとして配属された。
海溝型や首都直下型など大規模災害を想定して訓練を計画
川副3佐は、運用班のなかでも災害が担当だ。その主たる任務は、1都10県に関わる大規模災害を想定した防災対処の計画立案及び実施に向けた部内外組織との調整、全体のオペレーションである。
同エリアで想定される主な大規模災害は、現在「海溝型地震(例:東日本大震災)」「南海トラフ地震」「首都直下地震」「富士山火山」の4つであり、近年は「大規模水害(荒川災害)」が加わった。
こうした事態が実際に発生した場合を想定し、内閣府など各専門機関のデータを収集しシミュレーション。その上で東部方面隊内の関係部隊に加え、1都10県の関係自治体、警察、消防、さらには在日米軍などと連絡調整を行い、それぞれの活動指針を決め、実際に訓練を計画、実施するという。
その主要な演練(実戦を想定した訓練)・検証の役割を担うのが、陸海空自衛隊が参加する「自衛隊統合防災演習」だ。毎年行われ、今年5月の演習では、東日本大震災などが該当する「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震」の発生を想定、その影響が集中するであろう北部及び東北方面隊への増援について関係部隊への調整を行った。それを担当したのが川副3佐であった。
「この演習のために、5ヶ月前から準備を始めました。同じ自衛隊内でも演練・検証したい内容が異なり、それを整合させるのは簡単ではありません。無事に訓練を実施することができましたが、正直、計画通りにいかないことも多く、状況に応じて計画を修正し、問題点を明確にして、改善につなげるのも運用に係る担任部署の重要な役割だと実感しました」
外部組織との調整に奔走 イオン社と官民連携の架け橋に
そうした災害対策に向けた外部組織との調整のなかで、今年8月、大手流通企業のイオン株式会社との間で、「大規模災害時等における連携強化に関する協定」が締結された。この実現を現場で取りまとめたのも川副3佐である。
これは、大規模災害時に東部方面隊が活動する際の、イオン各店舗や拠点等からの情報収集、活動拠点や物資の提供受付、自治体の要請に基づく物流拠点からの物資輸送のサポート等を想定している。
「イオンはもともと、指定公共機関として、大規模災害時には物資提供や避難所設置などを行う役割を担っていますが、この協定は災害派遣を実施する我々自衛隊と事前に連携し、よりスムーズに活動を行うことを目的としています」
この協定締結で特に自衛隊側が期待しているのは、情報共有の強化だという。災害派遣でまず重要となるのは、現地の状況確認。イオンの店舗拠点及び60万人のネットワークを基盤とした情報収集が実現すると、より細かい、具体的な現状把握が可能になるという。
「民間企業と自衛隊という、文化的な違いも多い組織の間では、これまで以上に外部調整に手間取りましたが……無事締結できてホッとしています」
苦笑いしながら答える川副3佐だが、こうした官民連携も含めた災害時のネットワークは、平時は表に出ることはない。
だが、こうした見えない調整や訓練の積み重ねがあるからこそ、自衛隊の災害派遣が成立しているのだと、私たちは改めて認識すべきであろう。
陸上自衛隊 東部方面総監部
防衛部防衛課運用幹部 川副英樹
1980年10月長崎県生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊に入隊。高射特科部隊の訓練を経て、1999年12月名寄駐屯地第4高射特科群に配置。5年後に陸曹航空操縦学生として北宇都宮駐屯地で各種資格を取得。2007年旭川駐屯地第2飛行隊で観測ヘリコプターに搭乗。4年後に幹部候補学校を経て飛行幹部となり、2011年帯広駐屯地第1対戦車ヘリコプター隊に8年間勤務。その後幹部特殊課程を経て、2021年より2年間富士学校で航空教官を務め、 2023年より現職。
情報をお寄せください
NEWS TOKYOでは、あなたの街のイベントや情報を募集しております。お気軽に編集部宛リリースをお送りください。皆様からの情報をお待ちしております。