免疫を活性化させ、がんを封じ込める。
小説家になりたかった。しかし、いざ書こうとすると、何も書けない。自分がいかに空っぽかということを思い知らされた。人生経験を積むために医師の道へ。留学したアメリカで免疫に出会い、今、末期がん患者の治療に効果を上げている「がん複合免疫療法」にたどり着いた。免疫療法の第一人者、医療法人全健会理事長、くまもと免疫統合医療クリニック院長の赤木純児さんにお話をうかがった。
夢の薬オプジーボの効果を上げるためには、免疫のベースを上げることが大事。
—「がん複合免疫療法」で、多くの末期がん患者を延命に導いているそうですね。どのような治療法なのですか。
赤木 「がん複合免疫療法」とは、温熱療法、水素ガス吸入療法、オプジーボをはじめとした免疫チェックポイント阻害剤、抗酸化作用や抗慢性炎症作用に効果がある植物「タヒボ」、サプリメント、漢方薬などを使い、これと低用量抗がん剤治療や放射線治療(免疫を活性化する方法で照射)などの標準治療を組み合わせて「がん免疫サイクル」の一連の流れが正しく機能する状態に回復させることで、がんを封じ込めていく治療法です。
—免疫に興味を持たれたきっかけは?
赤木 1992年?1995年にアメリカの国立癌研究所に留学したのです。その時に免疫に出会い、これからは免疫だと目覚めた感じです。
免疫が注目されるようになったのは、1960年代の研究でがん抗原が発見されたことです。これはがん細胞だけに出てくるものなのですが、その頃ちょうどキラーT細胞という免疫細胞がそれを感知し、駆けつけて、殺す、という仕組みが人の身体の中にはあるということが初めて分かったんです。
これが一つの大きな波で、キラーT細胞を活性化すればがんがなくなると思われたんですね。でも、実際にはそうじゃなかった。いかにキラーT細胞をがん細胞に誘導できるかが課題で、僕も日本に帰ってからもいろいろな療法を試しましたが、まったく効果が得られませんでした。
次の波が2018年にノーベル賞を受賞された、本庶佑先生による免疫にブレーキをかけるPD―1という分子の発見で、PD―1が存在するとキラーT細胞が働けないということが分かってきた。このPD―1のブレーキを外す薬がオプジーボで、画期的な薬、夢の薬と言われたのですが、これもまた実際使ってみるとあまり効かなかったんです。
—どうして効かなかったのですか。
赤木 使い方が間違っていたんですね。オプジーボは免疫がちゃんとしていないと効かない薬なので、抗がん剤などで免疫をたたいた後で使う標準治療では効果が出にくいんです。
そこで僕は、オプジーボが効きやすいように免疫のベースを上げることが大事だと考えました。どうして効かないのかを追求していった結果、行き着いたのが先に述べた「がん複合免疫療法」です。
免疫の状態を見ることによって、がん再発の早期発見、再発予防が可能に。
—具体的にはどのような治療を行うのですか。
赤木 例えば温熱療法は、ハイパーサーミアという温熱治療器を使用して体温を上げ、血流を促進させる療法です。活性化したキラーT細胞は、血管内を流れながらがん組織を探してパトロールしているのですが、血流が良ければ、スムーズにがん細胞の組織周辺に免疫細胞が運ばれていきます。38~40度は免疫が最も活性化する温度で、がん組織周辺の免疫の働きを活性化するんですね。また、がん細胞は熱に弱い性質を持っているので、42~43度に温度を上げることで、その部分のがん細胞が死んでいきます。さらに、抗がん剤の効果を増幅してくれるという効果も分かっているんですよ。
水素ガス吸入療法は、その名の通り水素を吸入することで悪玉活性酸素を除去し、ミトコンドリアの働きを活性化したり、その働きを助ける療法です。キラーT細胞は、そのエネルギー源であるミトコンドリアがダメージを受けると機能不全に陥ってしまうんですね。ミトコンドリアを活性化させることで、キラーT細胞は再び機能を取り戻し、がんと闘う体制を整えることができるんです。
自分で言うのもおこがましいのですが、本当に信じられないような結果が出ています。
—どういう患者さんが多いのですか。
赤木 大きな病院や大学病院で抗がん剤治療をやり尽くし、「治療は終わりです」「緩和ケア病棟に行ってください」「自由に人生を過ごしてください」と言われたステージ4の方がほとんどです。そういう方たちが「もっと治療したい」ということで来られるんですね。
最近は手術できるような方も「手術をしたくない」「免疫で治したい」と来院されるケースも増えていますが、実際に手術をしなくてもがんが良くなっています。手術をしなくても治る可能性が出てきたということは一歩前進と言えるでしょうね。
—今後、力を入れていこうと思っているのはどんなことですか。
赤木 がんの早期発見はもちろんですが、再発の早期発見と早期治療です。がんで手術した人は全国に大勢いて、皆さん再発を恐れています。術後も定期的に検査しますが、例えば腫瘍マーカーが上がってきたとしても、がん細胞がある程度大きくなってCTなどで捉えられるようにならないと治療しないところが多いんですね。
当院では免疫の状態を見ることによって、CTとかペットでも見つからないような、がんの再発を予知することができる。早期に治療ができるので良く治ります。それに「こうすれば再発を防げますからこうしましょう」という提案もできます。再発の早期発見、再発予防が、僕の非常に大きな任務だと思っています。
—ある程度の年になると、皆さんがん検診とかを受けると思いますが、免疫も調べたほうが良いのですね。赤木 そうですね。近い将来、がん検診をしながら免疫のチェックをする時代になると思います、必ず。再発と一緒で免疫パラメータを見れば、普通の健康な人が将来的にがんになりやすいタイプかどうかが分かります。免疫を良い状態に保つことによって、がんにならない体質をつくる「未病」の治療も、これから目指していくべきだと考えています。
目指したのは小説家。人生経験を積むために医師の道へ。
—先生のような免疫療法を行っている先生は他にもいらっしゃるのですか。
赤木 僕と、去年10月に東京築地に開設した分院「TOKYO免疫統合医療クリニック」院長の西澤雄介先生のおそらく二人です。
—では、後に続く医師をもっと育成しなければ。例えば、大学で教えたりとかは?
赤木 できればやりたいですけど、標準治療命みたいに思っているところですから、それ以外の治療は絶対に認めません。自分たちの立場を崩すことですからね。
僕の掲げる統合医療とは、従来の西洋近代医学に民間療法や中国医学、インド医学、世界の伝統医学、免疫療法といった補完代替医療の長所を取り入れた医学のことで、僕は特に免疫に重点をおいた治療を実践しているわけですが、近年は、抗がん剤を生み出したアメリカでも抗がん剤以外の治療法の有効性を認め、統合医療を取り入れています。
しかし、日本では保険適用できる標準医療のみというガイドラインを守っている病院がほとんど。僕は、統合医療の突破口は混合診療を認めることだと思うんです。混合診療ができるようになると、患者さんがいろんな治療を試したいと言ってきますから、医師も勉強せざるを得ない。標準治療だけをやって「やれることとはやりました」という頭を下げればいいというわけにはいかなくなる。そうなると医師の意識も変わり、日本の医学の発展にもつながると思いますし、患者さんにも大きなメリットがあります。
—患者は世の中のあらゆる治療法を受けられるということですものね。
赤木 実はがん細胞と老化細胞って似てるんですよ。2020年、アメリカのアンチエイジングの研究者でハーバード大学教授のデビッド・A・シンクレアが、老いは病気であり、治療・予防できると提示した『ライフスパン:老いなき世界』という本を出してベストセラーになりました。また、数年前にネイチャーという有名な科学雑誌にオプジーボは若返りの薬だという論文が掲載されました。
健康寿命が話題になっていますが、健康で生きられるのは男性が73歳、女性は75歳くらいなので本当の寿命よりかなり短い。これからは老いを病気と捉え、がんと同じように治療・予防するようになると思いますね。
—ところで、医師になろうと思ったのはどうしてですか。
赤木 僕の先祖は平戸藩の御殿医で、6代目なんです。小さい頃から医者になるべく育てられたので、なんとなく医者になるんじゃないかなとは思っていましたが、実は一度、道をそれているんです。九州大学の文学部に行ったんですよ、小説に興味があって。でもいざ書こうとすると、何も書けない。自分がいかに空っぽかということを思い知らされた。もっと経験積まないといけない、医者にでもなって経験を積もうかっていう不謹慎な理由で医師の道へ進んだんです(笑)。
—そうなのですか!経験を積まれ、実績を残されています。そろそろ小説を書き始めても良いのではないですか。
赤木 全国に10か所くらいクリニックができて、もう少し時間ができれば書こうという気になるかもしれませんがまだまだです。小説って時間かかるんですよ。1ヶ月くらいホテルにこもるくらいの気持ちで、狂人にならないと、たぶん書けないです。
—書くとしたら、やはり医療ものですか。
赤木 医療の経験をちょこちょこ入れた、恋愛小説かな(笑)。
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