輸送燃料全体で進む廃食油活用を見据え
人材教育にも注力し回収力を強化
株式会社リンクス
本紙197号では、湘南エリアを拠点に廃食油回収および利活用に取り組む株式会社リンクスの活動を通じて、航空業界におけるバイオ燃料の需要の高まりについて紹介したが、実は航空以外の運輸業界でもその需要が期待されていることがわかった。今号ではその動向と共に、同社が取り組むさらなる廃食油の回収強化の現状と課題などについて、岩﨑康弘専務取締役に話を聞いた。
注目を浴びる航空燃料に加え 船舶、鉄道でも進む廃食油の活用
近年の廃食油によるバイオ燃料への活用において、世界的に最も注目されているのは、本紙197号で紹介した「SAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)」であろう。
同記事にも記載したが、「SAF」とは、「持続可能性のクライテリア(評価基準)を満たす、再生可能または廃棄物を原料とするジェット燃料」(環境省より)のことで、これを従来の航空燃料の原料である石油に代わり用いることで、CO2排出量を実質ゼロに抑えることができるとされている。世界的なカーボンニュートラルを進める動向もあり、国内企業を含む世界の航空会社の大半は、2030年までに全体の10%を「SAF」に置き換えることを目標に掲げている。
そして株式会社リンクスは、「SAF」を活用する国内の先端プロジェクトの一つ「Fry to Fly Project」に参加し、回収した廃油の航空燃料への活用を後押ししているが、同社の岩﨑専務取締役は、現在は他の輸送業界での活用も視野に入れているという。
「おかげさまで我々の廃油回収能力は、航空業界で高く評価されています。しかし、実は他の輸送燃料でも廃油の活用の将来性に注目が集まり、すでに実用化が始まっているんです」
調べてみると、確かに船舶や鉄道の世界でも、バイオ燃料への需要が高まりつつあるようだ。例えば船舶業界では、昨年11月に豊田通商株式会社がトヨタ自動車グループのトヨフジ海運株式会社へ、グループ会社の食堂の廃油を回収し加工したバイオ燃料供給開始を発表。試験運用が始まっているという。また、鉄道業界では今年9月よりJR西日本が100%バイオ燃料による営業列車での走行試験を開始。来年1月31日までの期間、岩徳線(岩国?櫛ヶ浜駅間)、山陽本線(櫛ヶ浜?徳山駅間)での一部の営業列車で利用するという。
他団体と積極的に連携し 人材育成も行い回収能力を強化
こうした幅広い形での需要拡大が見込まれる一方で、国内での廃食油の回収量は明らかに不足しているという。そうしたなか、リンクスでは2016年に事業を引き継いだ「湘南オイルサービス」の食用廃油回収網を着実に拡大し、飲食店や企業、自治体に加え、一般社団法人日本唐揚げ協会など外部団体と積極的に連携し、回収する食用廃油量を増加させてきた。そして、前出の「Fry to Fly Project」にとどまらず、廃食油由来のリサイクル石鹸の供給網も広げてきた。
「『Fry to Fly Project』への参画をきっかけに、これまで縁のなかった企業や団体からも問い合わせをいただけるようになりました。最近では約270施設の保育園とも提携し、廃食油回収とともに、それを使用した石鹸の提供を開始しました。
こうした状況を踏まえ、弊社ではさらなる回収能力の強化に取り組んでいます。特に力を入れているのが、若いスタッフを中心とした人材育成。社会性のある事業であることを理解してもらいながら、迅速かつ効率よく、より多くの廃食油回収が行える組織体制を構築していきたいと思います」(岩﨑専務)
一般家庭の廃食油回収強化を目指し マンションに回収ボックスを設置
回収力向上につながる場として期待が高まっているのが、マンションなどの集合住宅だという。今年、神奈川県横浜市のマンション「グレーシアサイド金沢八景」管理組合との連携により、協力企業と共に開発した回収ボックスの設置を開始(写真)したが、自発的に行動する方の協力もあり、想定以上を集めることができた。
「この回収事業を手がけ始めた当時、今の世の中は家庭で油を使った調理をしないと考えていましたので、飲食店や企業などの回収に力を入れてきました。しかし、今回のマンションでの結果は、集合住宅という場所の可能性と共に、一般家庭での回収能力も感じることができました。これまで進めてきた自治体等での回収BOX設置の回数も増やし、一般家庭からの廃食油回収網を広げていきたいと思います」(岩﨑専務)
将来性のある廃食油活用によるバイオ燃料だが、課題がないわけではない。その代表例が、買取価格だ。需要が高まることで価格が高騰し、それが輸送機を利用する側へコスト転嫁されれば、結果として事業拡大を阻害することも考えられる。
「我々も航空燃料に加え、船舶、鉄道での需要にも対応できる準備は進めています。ただ、適正な価格で取引していかなければ、カーボンニュートラル達成の機会の損失にもなります。弊社を含め、廃食油を活用する事業者や、それを後押しする国や自治体の関係者の皆様との相互理解が広がることを願います」(岩﨑専務)