人を育てていくことが一番重要
2016年、「崖から飛び降りる覚悟」で東京都知事選に挑んだ。コロナ禍、1年遅れ、無観客での東京2020大会など、かつてない難局を乗り越え、3期目の都政を担う小池百合子東京都知事に重点施策についてうかがった。
東京だからこそ、コロナ禍でも東京2020大会を開催できた。
—「崖から飛び降りる覚悟」で東京都知事選に挑み、3期目に入りました。これまでの2期8年を振り返って、どう評価されますか。
小池 飛び降りてみたらまた次の崖があるという(笑)。先日、神宮球場での始球式でもマウンドなる崖があって、骨折という思いがけない困難もありました。
遡ると2期目は、ほぼコロナ対応でした。正確には、1期目の終盤からですが、当初はワクチンもなく、時に暗中模索でした。人と人との接触を減らすのが唯一の方策で、都民のみなさん、また事業者の方々には、ステイホームやテレワークなど様々な要請を行い、ご協力いただきました。
2期目に入っていち早く、2020年10月に、東京iCDC(東京感染症対策センター:Tokyo Center for Infectious Diseases Prevention and Control)を立ち上げました。これは感染症専門の方だけでなく、調査・分析、情報収集・発信などを行う専門家のネットワークです。相次ぐ変異株の発生など日々状況が変化し続ける中、iCDCは背骨として非常に有効に機能したと思います。3年間1200日にわたり、都民の命と健康を守るための様々な取組を先手先手で実施し、「東京モデル」ともいえる医療提供体制を構築しました。
結果として、100万人あたりの累計の死亡者数では、OECD各国と比べ、東京都は、ニュージーランドに次ぐ極めて低い水準に抑えることができました。
パンデミックは、いつ何時起こるか分かりません。この経験を次につなげるべく、今年3月に感染症予防計画を改定し、都が広域的に総合調整機能を発揮できる体制を整備しました。加えて、都の新型インフルエンザ等対策行動計画の改定にも着手しています。
—中でも苦労されたのは?
小池 やはり東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会ですね。開催都市としての責務をいかに果たしていくか、大変苦労しました。
コロナ禍の対応として、一つは中止、一つは2年延長する等、いくつかのパターンがありました。官邸とも連携を取りながら、結果として1年の延長という、これまでのオリンピックの歴史にはない、奇数年に大会を開催することになりました。
アスリートの方々は、4年を1つの単位として練習を重ねておられます。スポーツの世界は厳しいので、1年の延長はギリギリの選択だったと思います。2年の延長ですと、エントリーできなくなる選手もいますから。アスリートの方々からは、1年延びることによって調整などに狂いは生じたものの、結果を出せたと感謝の声をいただきました。
色々な方々にご協力いただいて大会を成功裡に終え、パリのオリンピック・パラリンピックにバトンをつなぐことができました。無観客とはなりましたが、コロナ禍で安全・安心な大会を開催できたのは、東京だからこそだと思います。
「爆速」で進めるデジタル化 東京からイノベーションを巻き起こす。
—コロナ禍によって働き方や考え方もずいぶん変わりました。
小池 テレワーク、つまり、時間や場所に捉われない働き方が広く浸透してきています。都庁の様々な会議でも、状況に応じて、対面とオンラインを効果的に使い分けています。
また、コロナ禍では、日本におけるデジタル化の問題が浮き出てきました。それが今の、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の加速につながっています。
この間、産業構造が大きく転換しています。東京の新しい産業の柱は、新規分野を伸ばすとともに、古くからある企業も新しい形で起業する、あるいは、技術力が持ち味のスタートアップを後押しすることで生まれます。都は昨年、SusHi Tech Tokyo(スシテック東京:Sustainable High City Tech Tokyo)のイベントを立ち上げました。今年5月に開催した2回目のスタートアップカンファレンスは、非常に好評をいただき、430社を超える出展があり、2日間で4万人以上が参加しました。2年目にしてアジア最大級に育っています。やはり東京に期待する方が多いと示していますね。
そのベースとなっているのが、東京からイノベーションを巻き起こすことを目指し、国内外からスタートアップやその支援者が集い交流する一大拠点、TiB(東京イノベーションベース:Tokyo Innovation Base)です。有楽町の元東京都庁舎の跡地にありますので交通の便もよく、若者たちがどんどん集まっています。日本各地のスタートアップや自治体にもお声がけし、イベント等に参画いただいています。昨年11月のプレオープンから、既に5万人の来場者を数えました。
様々な人たちとの交流を通じ、チャンスが生まれ、世界に進出するスタートアップが生まれる、こうした好循環を加速させていきたいと考えています。
—東京都の行政手続のデジタル化も早かったかと。
小池 はい、既に約8割がデジタル化しています。都は、デジタル先進都市へと変貌を遂げるため、「爆速」で取組を進めています。
昨年設立したGovTech東京(ガブテック東京:Government(行政)とTechnology (テクノロジー)をかけ合わせた言葉)もその一つです。都庁内外の力を結集してイノベーティブなサービスを生み出すこと、そして、高度なデジタル人材を採用して、区市町村も含めたDXを推進し、行政と民間が協働する新たな場をつくることが目的です。
東京には62の区市町村がありますが、それぞれが独自にデジタル化を進めていくと相互に連携しづらくなり、ユーザー(都民)の利便性にもつながりません。GovTech東京が間に入り、IT技術のシェアや共同調達を行うことによって、デジタル化の質と量を共に高めていくことができます。実際、ツール等の共同調達においては20億円の経費削減につながりました。
さらに、国のデジタル庁と連携して給付金の申請手続の簡略化などにも取り組んでいます。このように様々な主体と連携しながら、日本各地で横展開できるような例を作っていきたいと思っています。
人口の半分を占める女性のエネルギーを都政に生かしていく。
—保育料の無償化や卵子凍結に助成金を支給するなど、子育て支援や女性への支援に力を入れていますね。
小池 都としてチルドレンファーストの施策は特に加速度的に進めています。これは私が国会議員の時からいろいろ挑戦した政策です。それぞれ役所の縦割の問題などもあり、課題が多かったですね。
人生には色々なステージがあります。保育園・幼稚園はここ、小中学校はここ、そして高校はここと、手続きをする相手や内容が変わってきます。さらに、大人になる過程でのプレコンセプションケア、その後の婚活、不妊治療、卵子凍結、無痛分娩……。それぞれ別の話のようですが、一人の人間としては全部つながっていて、切れ目はないのです。国の省庁、都庁各局にもそれぞれ所管とする分野がありますが、役所側の都合だけで動いてよいわけではありません。そこにしっかりと横串をさし、都民が必要なサービスをシームレスに受けられるようにすることが大事です。
昨年から第2子の保育料を無償化しました。18歳以下の子供に対して、一人当たり月額5000円を支給する018サポートも、2年目に入っています。今年度からは、所得制限なく、私立や都立の高校等の授業料を実質無償化しました。
3期目に入り、無痛分娩を選択できる環境の整備や、子供の医療費助成の所得制限の撤廃に向け、具体的に動き出しました。加えて、保育料無償化の第1子への対象拡大も目指します。
—知事選3期目の出馬に際して「もっと!よくなる!東京大改革3・0」「これからも都民のために。都民とともに」と掲げられました。目指されている思いをお聞かせください。
小池 政治・行政の役割は、都民、国民のニーズをよく知り、それに最も有効な形で叶えられるようにしていくことです。都民のためになすべきこと、実現可能なこと、効果的なこと、これらを集約したのが、「都民ファースト」の考え方です。こうした覚悟・信念を持って東京大改革を進めてきました。
今、国際情勢は非常に厳しいですよね。産業も大きく変わってきています。生成AIなどにより、人の力はいらなくなるとか言われます。一方で人手不足という現実的な課題があります。これほど激動の時代はそうそうありません。それでも、人を育てていくことが引き続き一番重要なポイントだと思います。
第7代東京市長の後藤新平さんの言葉に、「世の中には3つの大切なことがある。1に人、2に人、3に人」というのがあります。先人たちの英知や努力があったからこそ、巨大経済都市としての今日の東京があると思っています。東京が今後も持続的に発展していけるかどうかは、人への投資を強化できるかどうかにかかっていると言えます。
特に女性の活躍について、私は強く申し上げてきました。人口の半分は女性でありながら、意思決定の場に携わる方が少ない。女性のエネルギーを生かすことが何よりも重要だと思っています。例えば都の審議会の構成にクオータ制を導入し、男女ともに40%以上とすることを目標に進めてきました。今、女性委員の任用率は46%まで進みました。女性の声を都政に反映することが、より多くの方の選択肢を広げていくと思います。
戦後のベビーブーマーが後期高齢者となる2025年問題が間近に迫っています。高齢者、障がいのある方、誰もがいつまでも輝けるよう、政策をより一層磨き上げ、持続可能な都市を築いていきたいと考えています。
最後になりましたが、今年8月に都政新聞「NEWS TOKYO」が記念すべき200号を発行されました。お祝いを申し上げます。これからも東京に住まい、活動する人々に役立つ情報を発信していただけると嬉しいです。
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