災害時に無料解放できる自販機に
豪雨の浸水センサを設置
大塚ウエルネスベンディング株式会社
今年8月後半から9月にかけて日本列島を襲った台風10号による被害が象徴するように、豪雨災害の危険度は年々高まっている。すでに国も対策に乗り出し、そのひとつとして2022年より開始したのが「ワンコイン浸水センサ実証実験」だ。大塚ウエルネスベンディング株式会社は初年度より参加し、過去本紙でも紹介(48号参照)した災害時無償解放型自動販売機「ライフラインベンダー」を活用、新たな浸水防止システムの構築と普及拡大に挑戦している。
中央大学とシンクタンクと産学連携 国の浸水センサ設置事業に参加
国土交通省が手がける「ワンコイン浸水センサ実証実験」とは、短時間の大雨により引き起こされる土砂崩れ、洪水などによる浸水状況に対して、既存のヘリコプターによる調査や痕跡調査に加え、小型・長寿命・低コストで設置が可能な通称「ワンコイン」浸水センサを各地に取り付け、水位上昇のデータをいち早く感知・共有し、地域住民の避難等に活用するというものだ。全国約1万箇所の設置を目標に、2022年から5年をかけて実証実験を行い、そこで収集したデータは地図アプリなどでリアルタイムに共有できるようにするという。
大塚ウエルネスベンディング株式会社は、中央大学研究開発機構および、災害時に河川情報を生かすための調査研究を行っている一般社団法人河川情報センターと産学連携の事業グループを結成し、この事業に初年度から参加している。そのきっかけを、同事業を担当する営業部法人営業一部の高岡文博部長は、次のように振り返る。
「中央大学研究開発機構の山田正教授は、水文学(すいもんがく/河川、湖沼、地下水、降水など陸上の水の状態や変化、環境との関係などを、水の循環から研究する学問)の研究者ですが、実証実験がはじまる1年前に、海外の別案件でお付き合いいただくようになりました。その際に教授は、弊社のライフラインベンダーの存在を知り、教授からワンコイン浸水センサ事業への参加のお誘いをいただきました」
初年度は同グループを含む9の事業連合・企業が応募のあった5つの市町へ参加し、同グループは愛知県岡崎市と兵庫県加古川市での実証を担当。翌年4月に各市にセンサ付きライフラインベンダーを設置した。2023年度はさらに三重県津市、桑名市、高知県四万十市、いの町との連携も加わり、各地での設置が進んだ。
自販機で得た収益をセンサ通信費用やメンテナンス費用に
岡崎市、加古川市では、ライフラインベンダーにセンサを個別に設置する形だったが、山田教授の発案で「浸水センサを最初から付けた自動販売機」を開発し、津市やいの町ではセンサ搭載型自動販売機を設置。さらに通信で結ぶ子機のセンサも設置した。これには、岡崎市での経験が生かされているという。
「岡崎市では、設置約2ヶ月後に線状降水帯が発生し、設置場所近くの川が氾濫、床上浸水になりました。その結果、水位上昇を検知できたことで、職員の避難に役立ちましたが、浸水によりセンサ一体型では自動販売機自体が被害を受けるリスクがあることがわかりました。したがって、浸水想定箇所には子機をつけることでそのリスクを分散する仕組みを作り上げました」
2024年度は、三重県熊野市など10を超える自治体と連携を模索中だ。高岡部長は今後も事例を増やしていきたいと語る。
「自動販売機と連携したセンサの実証実験は、現時点で我々のグループのみですが、ライフラインベンダーは災害時に役立つことを想定した自動販売機で、栄養補助食品、飲料や経口補水液などが入っており、災害時には無償で電気を使わず中身を取り出すことができます。そのため、避難場所などになる公共機関への設置に適し、ワンコインセンサを設置する拠点としては、非常に親和性が高いと言えます」
さらに高岡部長は、自動販売機の収益性も相性がいいと指摘する。
「この実証実験では、1年目は国がセンサのコストを負担して提供する形を取りますが、2年目以降のセンサの維持にかかるコストは、各自治体が負担しなければなりません。ですが、自動販売機の利益があれば、それを維持のコストに回し、自治体の負担を減らすことが可能です。その点でもこれまでの導入自治体から評価を得ているところです」
東京こそ実証実験に参加し 都市部の先進事例として牽引
実証事業に参加して2年。課題も見えてきた。まず、センサ自体にかかるコストだ。いくら導入1年目は国が負担すると言っても、以後の普及には足枷になる問題だ。ただこれは、現在共に実証実験に参加している開発メーカーが、低コストかつ取り付けが簡単な機器を開発。そして、導入箇所が増えれば製造コストもさらに下がると見込む。
もうひとつは、自治体での自動販売機の導入が、入札で決まることだ。浸水センサ一体型の自動販売機が決まる設置場所は、概ね日常の利用数が少ない公的施設が多く、前出の維持コストの回収が不十分になる可能性が高い。この点は、自治体への理解を求めたいと高岡部長は強調する。
「現在連携している自治体では、本事業の意味をご理解いただき、部署間の調整も含め、公的な場所でありながら収益性も期待できる場所への設置を優先していただいています。今後参加する自治体も、参考にしていただきたいです」
今年に入り、本実証実験への参加自治体は162自治体、45企業に増加。着実に増加しているわけだが、東京都内で参加している自治体は、世田谷区のみである。高岡部長は、「東京が参画することは全国の都市部の内水氾濫に対する見本になるため、是非参加していただきたい」と強調する。
「東京は多摩川・荒川・江戸川などの大型河川の氾濫リスクはもちろんですが、中小河川の多い23区など都市部での豪雨被害対策も必須です。残念ながら、東京に限らず人口の多い政令指定都市の参加が少ないのが現状ですが、東京の自治体が参加すれば、全国でこの実証実験への注目度が高まり、参加に慎重な自治体の動きも変わると思います。その牽引役にも東京はなってほしいです」
現在、飲料を中心に購入できる「飲料自動販売機」は全国に約200万台あり、そのうち屋外設置は約半数。その1割の設置でも、本実証実験の目標の1万台を軽く超えるわけだが、高岡部長は防災の観点から見ると、まだまだ浸水センサが必要な場所があり、そういったところへの新規設置も増やしたいと意気込む。こうした視点も含め、東京都内の自治体の多くが関心を持つことを願う。