生物多様性保全の新たな挑戦
『いきもの東急不動産』を原宿から始動
東急不動産株式会社
東急不動産は、他社に先駆けて「生物多様性」につながる取組を積極的に行ってきた。今年3月に始動した新たなプロジェクト『いきもの東急不動産』もそのひとつ。まずは鳥類が暮らしやすい環境を構築しながら、人と生物、自然との未来の共生の形を見据え、同社が定義する『広域渋谷圏』における「エコロジカル・ネットワーク」の形成を進めている。
鳥の快適な住まいを模索 営巣=入居”時の感動は鳥も人も同じ
今年4月30日から5月6日の間、東京原宿の神宮前交差点に建つ東急プラザ表参道「オモカド」(旧:東急プラザ表参道原宿)のエントランスには、「祝営巣」の文字が大きく書かれ、館内の至る所に「営巣」にまつわるキャッチコピーが記されたポスターが張り巡らされていた。
「営巣」とは、鳥などの動物が巣を作ること。4月4日に「オモカド」内6階の屋上庭園「おもはらの森」に設置された巣箱に、シジュウカラが巣を作ったことが確認された。今回の「祝営巣ジャック」は、施設をあげての報告イベントであった。
「オモカド」を運営する東急不動産株式会社は、今年3月から『いきもの東急不動産』という新たなプロジェクトを始動。「生き物の住み心地を考える不動産会社へ。」をコンセプトに、その第一弾として、「オモカド」内で「鳥類のことを考えた住まいづくり」に着手。都心部に生息する鳥類・シジュウカラが暮らしやすい環境の提供を目指し、その営巣時期に合わせて、木材3種類、間取り3種類を組み合わせた計9種類の巣箱を開発し、シジュウカラが快適な住まいを「選べる」試みを行った。その結果、「祝営巣」に至ったわけである。
「施設内のポスターのキャッチコピーには、営巣に至るまでの我々スタッフの試行錯誤や、鳥の“入居”を待つ心境などを記しています。プロジェクトに取り組む姿勢や思いは、我々が手掛けてきた“人”のための施設開発と、基本的には同じです。事実、9タイプの巣箱は“人”の邸宅の設計と同様のプロセスを踏んで完成させましたし、今回の営巣は、“人”が住宅に入居いただいた時の感動と同じものでした」(同社コーポレートコミュニケーション部 ブランドマネジメントグループの赤根広樹係長)
2012年原宿の地で開業以来 自然環境を維持し生物生態を調査
この期間、「おもはらの森」の壁面には、年表のような巨大な掲示物もあった。そこには、過去12年間、このフロアでシジュウカラが営巣したかどうかが記されていた。
東急不動産の鳥類との共存を目指した取組は、2012年、前身の東急プラザ表参道原宿が開業した時から始まっている。
同社を含む東急グループは、2010年に策定した「渋谷駅中心地区まちづくり指針2010」のなかで、渋谷駅から2.5km圏内を『広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)』と規定。そのなかには「明治神宮」「代々木公園」「神宮外苑」「赤坂御所」など、都心部でありながら緑豊かなエリアが共存しており、同社は事業拠点で積極的な都市緑化を進めながら、野生生物たちが移動・分散が可能な「エコロジカル・ネットワーク」形成を目指してきたのである。
「オモカド」内の「おもはらの森」は、その先駆的な取組事例と言える。鳥類や昆虫が生息しやすいよう植物を配しているのはもちろん、野鳥が水を飲んだり、水浴びしたりできる「バードバス」も設置。開設時には、近隣の神宮前小学校の協力で、児童たちに巣箱を作ってもらっていた。並行して、自然環境保全の専門組織の協力のもと、定期的に生物モニタリングを実施。その一方で、施設利用者がより自然空間を楽しめるよう、ビアガーデンやマルシェも企画してきた。
他企業、行政とも連携しながら 東急不動産らしい自然との共生を
2012年から2019年までのモニタリング調査の結果、鳥類は累計22種、昆虫類は151種確認され、『広域渋谷圏』の生態系にポジティブインパクト(積極的影響)を与えている可能性を示すことができたという。
「神宮前交差点は、明治神宮や代々木公園から神宮外苑、赤坂御所などの都市部の自然の中継点として最適な場所にあります。その地にある『おもはらの森』での生物多様性保持につながる取組が、着実に成果を出しています。今回の営巣も、その積み重ねの結果のひとつです」(同グループの眞明〈しんめい〉大介グループリーダー)
同施設だけでなく、『広域渋谷圏』で同グループが手がける施設の土地利用・建物緑化の自然へのインパクトを定量分析したところ、該当する39施設のうち、15物件で生物多様性再生効果(建築前と後の比較)がプラスに働いているという結果が出ている。
渋谷以外でも「エコロジカル・ネットワーク」形成に向けた取組は進む。「東京ポートシティ竹芝」では、周辺の浜離宮恩賜庭園、旧芝離宮恩賜庭園との自然環境のつながりを作るため、2~6階部にスキップテラスを設け、里山的景観「竹芝新八景」を設けている。
今後もこうした都市部での自然との共生の形を、東急不動産という民間企業だからできる手法で広めていきたいと、眞明グループリーダーと赤根係長は声を揃える。
「『おもはらの森』ができた頃よりも、生物多様性保全に向けた取組は、社会全体で広がってきました。ただ、ボランティア活動の延長という認識も強く、その活動には限界があると感じます。我々のようなまちづくり専門の民間企業が取り組むことで、より持続的な活動が可能になると考えています。とはいえ、弊社だけでは実現するのは不可能です。他企業、地域、行政とも連携しながら、弊社だからこそできる、自然資本との共生の形を事業として創造していきたいと思います」(眞明グループリーダー)