陸上自衛隊 東部方面後方支援隊
第103補給大隊本部第1係 文書陸曹
関口 明美

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
 今号で話を聞いた関口明美1等陸曹は、今年1月に起こった能登半島地震の災害派遣に赴き、主に入浴支援業務を行った。一方、平時は霞ヶ浦駐屯地で「文書陸曹」という役職で任務を行う。4人の子育てをしながら、所属する大隊の全ての文書を把握する日々の業務に迫った。

陸上自衛隊 東部方面後方支援隊 第103補給大隊本部第1係 文書陸曹

方面隊、大隊、中隊ごとに 文書管理の専門隊員を配置

 関口明美1曹が所属する第103補給大隊は、茨城県にある霞ヶ浦駐屯地に配置。同駐屯地は、第二次世界大戦前までは海軍の拠点であったが、終戦後の1953年、跡地に陸上自衛隊武器補給処が移駐すると同時に開設。現在は第103補給大隊および関東補給処、東部方面後方支援隷下部隊、ヘリコプター整備員を養成する航空学校霞ヶ浦校、航空自衛隊中部高射群第3高射隊および支援諸部隊が設置されている。

 第103補給大隊は、東京を含む1都10県の防衛警備および災害派遣を担う東部方面隊が、野外で活動する際の航空機、弾薬、衛生品を除く補給品の補給や需品サービス等を担当する。陸上自衛隊内でも珍しく、即応予備自衛官を主体として構成されているのも特徴だ。

 関口1曹は、同部隊で作成される行政文書を確認、管理するのが役割だ。ちなみに、大隊、中隊など、部隊ごとに文書担当の隊員が配置されているという。

関口1曹の日常任務は、所属する第103補給大隊の隊員たちが作成する行政文書や上級部隊等から発簡される行政文書の管理だ。基本は電子データで保管するが、重要な書類は出力してデスク脇の書棚に整理し、すぐに確認できるようにしている

関口1曹の日常任務は、所属する第103補給大隊の隊員たちが作成する行政文書や上級部隊等から発簡される行政文書の管理だ。基本は電子データで保管するが、重要な書類は出力してデスク脇の書棚に整理し、すぐに確認できるようにしている

文書開示の要望があれば 迅速かつ正確に対応できる体制に

 陸上自衛隊に限らず、行政機関で作成し、2名以上の間で使用される文書は、原則として組織内で許可を得た上で行政文書として扱われる。

 関口1曹を含む文書担当は、所属する組織の該当するすべての行政文書を把握し、外部から開示依頼があれば迅速かつ正確に対応できる管理体制を整えている。

 関口1曹の1日は、自身のデスクのパソコンを開き、上級部隊や大隊各所から送信されてきたメールを確認するところから始まる。各文書の内容を把握した上で、作成年月日、保存期間満了日、分類がわかるように仕分けしていく。また、申請のあった文書を一覧表にまとめ、上司にチェックを依頼し、正式な行政文書にするのも関口1曹の役割だ。

 その件数は、年間数千にもおよび、訓練が多い時期や検査、行事がある時期、年度末は1日の申請数も多く、朝から帰宅時までデスクから離れられないこともあるという。

 地道かつ根気のいる作業が続くが、関口1曹はこの任務に適性を感じているという。

 「入隊前は、どちらかというと体育会系で、事務作業には苦手意識がありましたが、実際やってみると結構向いていることに気づきました。申請が多い時期は大変ではありますが、作業が終わった後の喜びは格別です」

 現在、同じく自衛隊に所属する夫は単身赴任中で、母一人で子ども4人を育てるが、逆にその環境が文書業務に集中できる要因になっているという。

 「家に帰ると一人の時間はほぼゼロ。仕事をしている時間は自分だけの時間なので、このメリハリがあるから、業務に集中できるとも言えますね」

今年1月の能登半島地震の際、関口1曹は東部方面生活支援隊の入浴支援小隊員として、石川県珠洲市宝立小中学校に2回派遣。延べ30日間、被災された方々に対する入浴支援を行った。下写真の車両の上で作業するのが関口1曹だ(提供:陸上自衛隊)

今年1月の能登半島地震の際、関口1曹は東部方面生活支援隊の入浴支援小隊員として、石川県珠洲市宝立小中学校に2回派遣。延べ30日間、被災された方々に対する入浴支援を行った。下写真の車両の上で作業するのが関口1曹だ(提供:陸上自衛隊)

初の派遣で自衛隊の意義と 子育てしやすい環境を実感

 今年1月の能登半島地震の際の災害派遣は、人生初の経験だった。現地では、東部方面生活支援隊の入浴支援小隊の隊員として、入浴設備の清掃や入浴者の誘導などを行った。

 「子育てもありましたが、家族の協力もあって、2回現地に行くことができました。実際に見た現地の様子は、テレビなどでは伝わらない大変な状況でした。そうしたなかでも、被災した皆さんは我々に『ありがとう』『入浴して気持ちよかった』『がんばれそう』と、毎日感謝の言葉をかけてくれました。逆に励まされるのと同時に、自衛官をやっててよかったと実感できました」

 能登の災害派遣を経て、改めて自衛隊という組織の価値を実感したという関口1曹。この経験も含め、自衛官として仕事と育児の両立ができることを、後輩の女性たちに伝えていきたいという。

 「一人で4人の育児をしながら仕事ができるのは、自衛隊の充実した子育て支援制度のおかげです。また、部隊の理解もあり、子どもの病気などで急に帰宅しなければならない時でも積極的にフォローしてくれます。子育てしながら自衛隊というやりがいのある仕事が継続できること、そしてその喜びを伝えていくのも、私だからできる任務だと感じています」

陸上自衛隊 東部方面後方支援隊 第103補給大隊本部第1係 文書陸曹
関口 明美

1985年生まれ。大阪、兵庫で幼少期を過ごし、高校卒業後、2004年3月に陸上自衛隊入隊。第109教育大隊を経て、伊丹駐屯地の第36普通科連隊に配置。2009年8月に朝霞駐屯地の女性自衛官教育隊に異動し助教として9年勤務。2018年8月に東部方面後方支援隊本部付隊文書陸曹に着任、3年の勤務を経て、2021年3月より現職。

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