航空業界のCO2を大幅削減
世界的に注目される廃油再生の形
株式会社リンクス
本紙177号で紹介した、使用済み食用油を回収し、環境に優しい「リサイクル石けん」の原料として供給するリサイクル事業をご記憶だろうか。その事業を手がける株式会社リンクスは、原料となる廃油の回収先を着実に増やす一方で、世界的に注目が集まる新たな廃油のリサイクル事業への参画が決定。CO2排出の大幅削減が期待される航空燃料「SAF」への供給をスタートさせた。
廃油から「SAF」を作る 国内の先端プロジェクトに参加
今年2月、株式会社リンクスは、日揮ホールディングス株式会社、コスモ石油株式会社、合同会社サファイアスカイエナジー、レボインターナショナルで構成される、「SAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)」の活用プロジェクト『FRY(食用廃油)to FLY(空を飛ぶ) Project』への参画を決定した。
「SAF」とは、「持続可能性のクライテリア(評価基準)を満たす、再生可能又は廃棄物を原料とするジェット燃料」(環境省)を指す。従来、航空燃料は石油を原料とし、燃焼時に大量のCO2が排出されたままとなるが、「SAF」は主にバイオマス原料が用いられ、排出されるCO2は実質カウントされないこととなっている。「SAF」はここ数年、国際的に急速に注目が集まっているが、その背景には、欧米を中心とした航空業界に広がる大幅なCO2削減に向けた動きがある。
欧米では、大量にCO2を排出する従来の石油由来の航空燃料を問題視する機運が高まり、2021年10月にIATA(国際航空運送協会)が、2022年10月にはICAO(国際民間航空機関)が、2050年までにカーボンニュートラル達成を目標に掲げた。そのために現時点で最も有効な手段として選択されているのが「SAF」であり、国内企業を含む世界の航空会社の大半は、2030年までに航空燃料全体の10%を「SAF」に置き換えることを具体的な目標に据えている。
「SAF」の製造方法はさまざまで、さとうきびなどのバイオエタノール、廃プラ等のごみ、CO2や水素の合成燃料などが原料とされるが、廃油はリサイクルの観点からも注目度が高い。ただ、その多くは海外の原料に依存しており、国内ではなかなか廃油回収されていないのが実情だった。そうしたなか、国内で「SAF」への廃油活用を進める先端プロジェクトのひとつ『FRY to FLY Project』が、同社の廃油回収能力に着目し、今回の合意につながったのである。
2年間で回収能力は大幅増加 自治体の理解も深まる
「輸送に伴うCO2排出も考慮すると、国内原料で製造したSAFを国内の航空燃料に使用するのが、あるべきリサイクルの形です。原料の多くを海外に依存している現状から、我々の廃油回収・輸送能力を活かして、国産SAF原料の増加に貢献できれば嬉しいです」
本格的な運用はこれからだが、リンクスの岩﨑康弘専務取締役の同プロジェクトにかける意気込みは強い。
同社は自社で運営する食用廃油の回収ルートを活用し、一般家庭や飲食店、企業等から出る食用廃油を回収・運輸し、環境保護につながる「リサイクル石けん」などの原料として提供するリサイクル事業を運用してきた(詳細は本紙177号に掲載)。
前回掲載から2年を経て、廃油の回収能力は大幅に増大し、現在延べ6400店舗の飲食店からの回収を可能とした。
「自治体のリサイクルに対する理解が深まり、世田谷区、また練馬区内の小学校の一部からは廃油回収の直接契約ができるようになりました。そのため、公営の保育園や小学校に対し石けんの導入が進み、設置場所拡大に貢献していると思います。今後は介護施設などからの回収を見据え、さらに回収能力は拡大する見込みです」(岩﨑専務)
一般家庭からの回収を身近に 環境保護の理解を深めるイベントも
そこに今回の「SAF」への参加が加わることで、同社のリサイクル事業はさらに拡大していくわけだが、岩﨑専務は「SAF」を取り巻く今後の状況を冷静に分析している。
「弊社が回収した廃油に限らず、今後はSAFへの廃油需要が拡大し、価格が上昇することが予測されます。それは、我々のメリットも生まれますが、結果としてその上昇した価格は利用者の負担につながり、全体的な事業の広がりを阻害する可能性もあります」
そうした現状を踏まえつつも、同社として今できることは、「SAF」への供給も見越した、廃油の回収能力のさらなる強化だと、岩専務はいう。特に力を入れるのは、一般家庭からの回収だ。オリジナルの廃油回収ボックスを同社協力企業と製造、世田谷区などと連携、現在、区内3ヶ所に設置しはじめている。
「正直、近年は家庭でも油を使った調理をしなくなっているので、それほど結果は出ないと思っていましたが、ある回収イベントでは、4時間でペール缶2缶分(約36リットル)が回収できました。回収場所を増やしたり、廃油を持って行きやすい状況を作ったりすれば、さらなる回収が可能だと考えています」
このボックスを増やすために、他の自治体との連携も模索する一方で、すでに廃油を回収している飲食店や施設、石けんなどを導入している施設内にも設置を広めていきたいと、岩﨑専務は語る。
「家庭から廃油を回収ボックスに持っていきやすくする専用容器の開発も計画中です。また、廃油がリサイクル石けんやSAFに再利用され、それが環境保護につながるという理解が深まれば、社会貢献の観点から廃油を提供しようと考える家庭が増えることも期待できます。そうした価値を直に伝えられる回収イベントも、もっと増やしていきたいと思います」