培ってきた高い技術と技能で、社会インフラを守り続ける。

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

株式会社関電工 代表取締役社長 社長執行役員  仲摩 俊男さん

大学4年のある日、就職課に呼ばれ、言われるがままに入ったのが、関東電気工事だった。様々な現場で電気工事の監督をし、施工中はもちろん、引き渡し後も、その施設を自分のもののように対応してきた。株式会社関電工代表取締役社長、仲摩俊男さんに日本の電力インフラ、エネルギー問題についてお話をうかがった。

作ったら終わりではなく、引き渡し後も、自分のものとして対応する。

—御社は今年、創業80年を迎えられますが、長年にわたり受け継がれてきて、そして受け継いでゆくべきDNAとは?

仲摩 私は主にビル建設の現場で工事の監督をやってきました。建物の新築現場には2年半くらいいますから、いつの間にかその施設は自分のものという感覚になってくるんです。ところが、お客様にカギを渡したその日から、自由に入れなくなる。それで初めて、「これは私のものじゃないんだ」と気づくわけです。私が変わっているのかもしれませんが、どの現場でもそういう感覚になりました。

 みなさんよくご存知の施設で関電工で施工したものは、東京都庁、歌舞伎座、東京ドーム、スカイツリーなどがありますが、その後のメンテナンスも引き続き行いますから、やはり自分のものという感覚は変わらない。だから、お客様から電話がかかってきたら、すぐに行く。自分がすぐに行けない場合は、誰かを代わりに行かせる。要するに、お客様が通常の仕事を早くできるようにする、それが私らの仕事。DNAという言い方をするなら、「お客様の施設は、自分たちが責任を持って作り、守るんだ」という気持ちが80年続いているということではないかと思います。

—作ったら終わりではなく、作っている時も、引き渡した後も、自分のものとして対応し続けると。

仲摩 一戸建ての家も同じだと思いますよ。確かに家を建てるのは大工さんですが、お客様がそこに住んで、生活を営んだ上で、暑いとか寒いとか、ここが便利だとか不便だとか、作る側はそこにまでコミットする必要があります。少なくとも作った人は、みんなそこに思い入れがあると思います。

—電力インフラの部分で、日本の戦後の成長を支えてきたわけですね。

仲摩 当社は終戦の前年の1944年9月に設立。電力の安定供給と社会の暮らしを支えていくということで、焼け野原の東京に電柱を立てることからスタートしました。

 今年1月の能登半島地震においては、当社をはじめ各電力会社や電気工事会社は被災地のライフライン復旧のため過酷な環境の中、作業に従事しました。インフラを守り、維持するための「使命感」が『関電工のDNA』でもあります。昨今、災害が激甚化していますが、人々が生活するためには、まず電気と水が整備されることが大切なんですね。電気がつかないと不安でしょう。

 能登では電気はわりと早く復旧しましたが、下水道や上水道はまだ時間がかかりそうですよね。災害が起きた時、「なんで電気だけ復旧が早いのか」と言われますが、電線は地上にありますから、不具合が目視できる。でも、上下水道管は地下に埋まっていますから、損傷個所を探すところから始めなければなりません。電気を復旧するのは電柱のほうが早いんです。ただ、小池知事の掲げる無電柱化は、景観や交通傷害の問題解決など良い部分がありますから、電柱で良いところと地下埋設と、両方あったほうが良いと思います。

配電線の設置からメンテナンスまで電力インフラを担う

配電線の設置からメンテナンスまで電力インフラを担う

目標を持って働いた先輩が、戦後の日本を支えた。

—関電工に入社したのは電気や建設に興味があったからですか。

仲摩 全くないです(笑)。私は中央大学理工学部電気工学科ですが、大学4年のある日突然、就職課に呼ばれたんです。「仲摩」という苗字が先生の気を引いたのでしょうか。就職担当の方が鹿児島出身で、「出身はどこだね」「熊本です。お袋は鹿児島です」なんて話をしたら、「就職はどうするんだ」と。私は遊んでばかりいたので、成績は最悪。「大学時代何をやっていたんだ」とかなり叱られましてね。いかに自分は勉強しなかったか、勉強しないといけなかったかと思いましたが、時すでに遅し……。

 そうしたら、「これから関東電気工事という会社が来るから、お前はそこに行け」と。ソニーとか三菱電機とかBtoCの会社はみなさんに知られていますが、関東電気工事なんて聞いたこともない。もうちょっとなんとかならないかと思いましたが、人間、1時間も説教されると、「はい」って言っちゃうんですね。

—実際に入られていかがでしたか。

仲摩 最悪ですよ(笑)。茨城県牛久市にある研修施設に2週間くらいいたら、怖そうなおじさんがやって来ましてね、水戸市にある茨城支店に連れて行かれました。「ドナドナ」っていう歌があるでしょう。私ははっきり覚えていますが、「こうやって連れて行かれるんだ」と思ったものです。

 で、すぐに現場です。図面の青焼きを取ることが多かったのですが、朝、陽が昇る頃から始めて、陽が沈む頃までやっていました。それから資料を作ったり、現場に出て見て回ったり。現場には怖そうな人もいっぱいいてね。なんでこんなところにいるんだろうと思いましたね。

—でも辞めることなく……。

仲摩 私みたいに成績が悪いと他では働けないと自覚していましたから辞められない。

 あの頃は時間外勤務が毎月200時間くらい。朝早く出社して夜中の12時くらいまで会社にいて、休みはない。お金はたくさんもらいますが、使う暇はない。月に1回くらい休みがあっても、朝起きたと思ったら夕方だったりね(笑)。

 ただ、現場には建設会社や空調会社などの若い人たちがいましたから、夜9時から打ち合わせがある時など、夕方たまにテニスをしたりしました、作業靴でね。その程度の娯楽しかなかったんですよ、茨城の工業団地の中でしたから。

 昔はそうだったんですよ、“関電工は眠らない”というコマーシャルをやってたくらいですから。でも、そうやって戦後の日本を支えてきたのです。戦後、何もない日本が、アメリカに追いつくところまで行ったのは、みんなが働いたからです。目標を持って働いた。今は3位、4位になって、生産性を上げるのは国をあげての課題です。課題ではあるんだけど、20代30代は時に寝食を忘れて仕事に没頭することも必要だと思います。

架空配電線現場で激励をする仲摩社長(右)

架空配電線現場で激励をする仲摩社長(右)

昨年、千葉県いすみ市で運用を開始した地域マイクログリッド

昨年、千葉県いすみ市で運用を開始した地域マイクログリッド

20年後に主役となって考える学生をリクルートしたい。

—4月に新しい中期経営計画を作り、「社会を支える100年企業」として新たなスタートを切りました。2044年の100周年に向けて、どのような企業を目指していくのでしょうか。

仲摩 将来どんな会社を目指すのか、きちんと考えなければならないと、当社始まって以来、初めて経営のメンバーと合宿をしました。結論は、ありきたりのことですが、会社も個人も幸せになる会社を目指さなければいけないということです。

 当社の強みは、これまで培ってきた高い技術や技能を持って社会インフラを守り続けていくことです。やって良かったと自分の誇りにつながるようなプロジェクトに取り組みたい。そういう社員のエンゲージメントが向上できるような取組をこれからもやっていきたいと思います。これまで先輩たちが一生懸命やってきたことを、我々も引き継ぎながら、未来の暮らしを支えることに取り組んでいきたいと考えています。

—去年から千葉県のいすみ市で地域マイクログリッドの運用を開始されました。どういう事業なのでしょう。

仲摩 これは近年の自然災害の頻発・激甚化に伴う、電力インフラ強化のための取組です。日本はもともと発電するエリアと消費するエリアが離れていて、送電線で電気を結ぶ形態でしたが、再エネの普及拡大により身近に電源が存在する時代になったため、これらをうまく活用することにより実現しました。

 2019年の台風15号により千葉では長い停電が起きましたが、それは、地域のグリッドが一括運用されているため配電線復旧に時間がかかったからなんですね。配電線が途中でダメになったとしても、東京電力の配電グリッドから切り離して、そのエリアの中だけで発電と消費が完結できる。それが地域マイクログリッドです。

 周りが全部停電していても、市役所、小学校などや、避難所には電気が届きますので、もちろん照明も付きますしエアコンも使えます。そういう拠点を作るということをいすみ市でやっているということです。

—災害対策もそうですが、エネルギー問題は国の根幹をなすものなので、よくよく考えないといけないですね。

仲摩 地理的に中国にこれだけ近い日本にとって、大きな問題の一つは台湾有事だと思うんですね。台湾海峡が通れなくなったら、距離は2倍だけど輸送コストは6倍になるとも言われています。それに発電に使っている天然ガスは、今もロシアからのものが含まれています。

 これだけエネルギーを外国に頼らざるを得ないという状況はこれからも変わることはないと思います。そういう非常に微妙なバランスの上に日本のエネルギー問題は立っているので対策をとっていく必要があります。

—いざという時のためにツールと人材を磨いておくと。

仲摩 人材をどうやってフィックスするかということも大事です。良い人材に入社してもらうために、日本の置かれているエネルギー事情の現状を、経営メンバーが学生に直接話をしています。「この問題はずっと続く。20年後、君たちが主役となって考えるんだよ」と。

—人手不足に対応するためリクルートは非常に大切ですね。

仲摩 エネルギーなど周辺業界に興味を持っている方々に入社していただき、将来の電力インフラを担い、活躍することを期待しています。

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