北区の明るい変化の兆しを区民に感じてほしい
父親の意志を継ぎ、会社員から政治家の道へ。北区議会議員、都議会議員を経て、昨年4月北区長に就任した。現場に足を運び、職員や区民の声を直接聞き、施策に生かすことを信条に、明るい未来を感じてもらえるような発信を続けている北区長、やまだ加奈子さんにお話をうかがった。
これからの行政の役割は、民間の力を生かせる制度の構築。
—区長になられてもうすぐ1年ですね。今の感想は?
やまだ ありがたいという気持ちが一番です。区内を回り、区民の皆さんと接して、やっぱり北区が好きだと実感しています。
区議会議員の時も都議会議員の時も、どうすれば良い施策がつくれるかとずっと考えてきましたが、よりリアルに区民に直結する施策をつくる立場にある。ありがたいと思う一方で、責任の重さを感じています。
特に災害対策については、4月27日に区長に就任して間もない6月2日に発生した台風2号による大雨で、区内を流れる石神井川に深夜、氾濫危険情報が出されました。当初の予想を超えて、石神井川が溢水ギリギリまで迫り、臨機応変な緊急対応が求められる経験をしました。避難指示をはじめ、自分の判断が区民の命に直結すること痛感し、災害対策をよりしっかりやらなければならないということを学びました。
—勤めていた会社を辞めて区議会議員になられました。政治には興味があったのですか。
やまだ 政治家になろうとは思ったこともないです。ただ、父が区議会議員になりたくて活動をしていたので、その手伝いはずっとやっていました。例えば、道路が凹んでいたら、それを補修してもらう手続きに行ったりとか。困っている人がいたら、代わりに問い合わせをするということが日常としてあったんですね。
父が障害者だったので、そういう人が普通に幸せを感じて、当たり前に暮らせることが大事だと思っていたので、それが区議会を通じてできるのであればやってみたいと思いました。役職が何かというより、悩んでいる人とか困っている人を助けたいという思いが大きかったんですね。
区議会議員、都議会議員、区長というチャンスをいただけたこと、その活動を支えてくださる方々へは本当に感謝しかないですし、巡り合わせの良さを感じています。
—公約に「みんなで創る。北区新時代」を掲げていました。「新時代」というのはどういうことでしょうか。
やまだ コロナで時代が変わったなという感覚を皆さん持たれたと思います。社会の生活様式とか働き方とか、いろんなことが変わってきています。
これから少子高齢化の時代を迎える時、今までの感覚とは違った、ある意味民間に近い、地域の方のニーズをしっかり受け止めた制度設計ができないと、地域として行政としての魅力が低減してしまいます。全部がその通りにならなくても、区民のご意見を聞いて一緒につくっていこうというスタンスを、行政側が出していくことはすごく大切だと感じています。
それに担い手が減りますから、行政の役割も変わっていくと思います。公民連携と言っていますが、行政は民間の方が活用しやすい環境を制度上でつくり、プラットフォーム的な役割を果たし、民間の力を最大限に生かすという役割分担に変わっていくのではないか、いくべきだと思って、「みんなで創る。北区新時代」をキャッチフレーズにしました。
自由度の高い政策を行うために、行財政改革はすごく重要。
—7つのマニフェストについてポイントを絞ってご説明いただけますか。
やまだ 1から7の順番が優先順位ということではないのですが、やはり行財政改革はすごく重要だと思っています。行政をどんなスタンスに変えていくか。これからの時代に合った行政を職員と一緒にどう作っていくか。
例えば、1の「区民サービス№1」は、デジタル推進条例を策定し、いつでもどこでもオンラインでの行政手続きができるようにするとか、国や都の補助制度等を活用しながら、自由度の高い政策が行えるような財政構造を目指すとか。区民サービスを向上させるという視線で制度設計していくことは、行政の大きな責務だと思っています。
2の「子どもの幸せ№1」については、私は、子育て支援と教育はもっと一体化して考えたほうがいいと思っているんですね。今は部署が違って、縦割りになっているのですが、連携を強化して、継続的に支援するシステムをつくり、いかに社会全体で見守り、関わっていくかが大切だと考えています。
また、北区には多くの高齢者の方が暮らしていますが、現役高齢者の割合も高いです。この方々にどうやって活躍してもらうかという工夫と努力が北区の価値を上げていくポイントになると考えています。シルバー人材センターや社会福祉協議会、ボランティアといった社会資源を連携させて、高齢者が活躍できるという場をつくっていければと思っています。誰かに必要とされ、何かをすることで感謝されることって幸せじゃないですか。これは高齢者だけでなく若い人も同じですよね。
それから、観光振興も含めた産業の活性化は、引き続き頑張っていきたいです。観光資源を活用してまちを活性化させている台東区などとはレベルが違いますが、北区にも素晴らしい観光資源がある。それを活性化させて産業としてしっかり捉え直し、発信していくことは大事だと思っています。
—地元の人は意識されないかもしれませんが、十条とか赤羽の長いアーケードの商店街は立派な観光資源だと思うのですが……。
やまだ そうですよね。八百屋さん、魚屋さん、お肉屋さん、いわゆる生鮮3品を扱う店が残っていて、歩くだけでも楽しい。でも、「商店街を観光資源にしたい」と言ったら、北区出身のひろゆきさんからはバカにされましたけどね(笑)。
—観光資源は区のブランド力アップに直結すると思います。北区の魅力は?
やまだ とにかく交通の利便性が高い。全然知られていませんけどJRの駅が一番多いんです。それに都電も東京メトロも都営地下鉄も通っています。
また、4つの川が流れていて、王子駅前には7・3ヘクタールもある飛鳥山公園をはじめ自然が豊か。都心にはすぐに行けて、自然豊かなまち。さらに渋沢栄一をはじめ、いくつもの産業遺産や伝統文化が残っているので、環境もいい。住む場所としてはすごく魅力的だと思います。
でも私が一番に言いたいのは、人が優しいこと。都心に近くて便利なのに、人情味があって、商店街の数も多く、一定の地域コミュニティが残っている。新しい住民の方々とも交流があり、何かあったら助け合えるような環境を残していけたらいいなと思います。
地域要望で小さな公園をつくった。その時の体験が政治家の原点。
—住みやすさ、暮らしやすさは、まちづくりにも関わってきます。北区では今、王子駅、東十条駅、十条駅、赤羽駅(東口西口)の再開発が進んでいるそうですね。
やまだ はい。例えば、王子駅は、区役所の新庁舎が10年後に移転してきますので、それに合わせて手前の商業施設、駅、街並みも含めて都市計画を立て、JR東日本さんと連携しながら進めています。十条駅は再開発に合わせて、新たな商店街の形をつくっていくことを目指しています。
主要駅の再開発が同時進行で行われることは、北区の歴史の中でこれまでもこれからもたぶんないと思います。この駅周辺の再開発を機に、10年後、50年後、100年後の暮らしをどうしていくのか。
今までは駅の鉄道事業者、駅周辺の土地を持っている地権者や権利者の開発でしたが、これからはそこを使う方、周辺に住む方の思いも取り込んでまちづくりをしていかなければならない。その接着剤になるのが行政の役割で、行政がエリアマネジメント的な立場で、まちづくりを一緒に進めていけたらと思っています。
—まちづくり、楽しそうですね。
やまだ 私は区議会、都議会では福祉を専門としていたので、まちづくりはハードルが高かったんですが、こんなに夢のある仕事かとすごく感じています。
実は区議会議員の時、地元の国有地売却計画に対し、区民からはマンションになるのではないか、少しでも緑を残して欲しいというご要望があったんですね。
区として、都や国の制度の活用と連携を提案し、そこに小さな公園ができたんです。その時、こうやって都と連携するのか、こういうふうに制度を活用すればいいのか、地域要望って実現するんだと、区議会議員の最初の頃に学ばせてもらいました。本当に小さな公園なんですが、その時の体験が都議会議員や区長をやらせていただく原点になっています。
—ところで、スーツにスニーカーなんですね。
やまだ 「現場主義」として、時間の許す限り、区内の事業やイベントが行われている現場や、町会や自治会の会合に参加するため、区内を隈なく訪れています。その際、自転車は危ないからダメって言われているので、公用車を使わせてもらうことが多いのですが、時間がタイトなので、車を降りてからその場所までの往復を走る。現場でもたくさん歩くのでスニーカーにしています。
使い古された言葉かもしれませんが、私は現場の声を大切にしたいんですね。区民の声はもちろん、職員に関しても、区役所で私は部長、課長と言った管理職とのやり取りが多いので、とにかく現場に出て現場職員の声を聞くということをずっとやってきました。
制度上では、令和6年度は広聴制度を充実させていきたいと思っています。19の連合自治会があるのですが、それぞれに意見交換の場を作らせていただいて、これに加えて広く意見が聞けるような場ということで、インターネット上で若い人からも意見がもらえるような仕組みを充実させたい。職員に対しても同様で、区長に直接意見が言えるような仕組みもつくっていきたいと思っています。
—最後に区長が個人的に一番好きな北区はどんなところですか。
やまだ 先ほども言いましたが、やっぱり人ですね。人が優しい。いい意味でのおせっかい感も含めて人の繋がりがあって、地の人が多いのかな、“地元大好き”という人が多く、まちを大切にする、人を大切にする、そういった人柄のまちというところが好きなんでしょうね。