「人」中心の教育DXの進化が
持続可能な地域づくりに貢献
株式会社内田洋行

  • 取材:種藤 潤

株式会社内田洋行の業績が好調だ。本稿170号取材時の2021年時は『GIGAスクール構想』と国のコロナ対策もあり、自治体向け教育ICT事業が牽引し過去最高益を更新。2022年はその「特需」は一服したものの、「特需」前に比べると同年、2023年と売上・営業利益ともに続伸した。そして本年、同社はさらなる教育現場のDX化を見据え、教育ICT事業の新たな挑戦をはじめていた。

2024年の教育ICT事業の新たな挑戦について語る大久保昇代表取締役社長

『GIGAスクール構想』後の教育現場の教室環境やデータ活用を支援

 『GIGAスクール構想』は、文部科学省が令和に入り推進してきた全国の小中学校全児童に対し一人一台のパソコン端末を整備する事業だ。令和元年の補正予算に加え、緊急経済対策、さらにはコロナ補正予算も加わり、教育ICTの「コロナ特需」とも言われた。

 内田洋行も教育事業において、その追い風により過去最高益を達成したことは、本紙170号で大久保昇代表取締役社長が話した通りだ。一方で、大久保社長はGIGAスクール構想に伴う「課題」も発生したと指摘。そこに、同社だからこそできる事業機会があるという。

 「同構想により、端末は全児童に行き渡りましたが、2年を経た今でも、それを十分に活用できるネットワーク環境が整備されていない学校があります。また、教室の構造そのものがPCを使いこなす授業に対応していない学校も多い。我々は省庁や大学との実証研究から独自に考案した学習空間『フューチャークラスルーム』をシンボルに、実際の授業でPC活用を目指したモデルを提案してきました。ポストPC教室の新デザインとしてICTをさらに生かしていけると考えます」

 直近では、ネットワーク環境の改善を東京都三鷹市や世田谷区で、教室環境の整備を東京大学や上智大学、埼玉県鴻巣市で手がけており、順次全国の教育機関や自治体と連携し、事業を広げていくと意気込む。

2024年2月の東京学芸大学との包括的事業協定締結の記者会見の様子。右から3番目が大久保社長だ(提供:内田洋行)

CBTベンチャー企業を買収 世界規模の教育データ活用が現実に

 大久保社長が次に力を入れたいのが、教育データの新たな「価値化」だという。

 「一人一台の端末が実現したということは、学習活動を含めた膨大なデータを収集・活用できるインフラが整ったということでもあります。今までは紙で行ってきた学力テスト等がデジタル化され、コンピューターによる試験システム(Computer Based Testing=CBT)に替わります。自分の端末からテストができるようになることや、今後は分析結果から一人ひとりに応じた指導方法や学習データの価値化が可能になります」

 ちなみに同社はこれまでも、端末に生徒が毎日ログインすることで、学習履歴だけではなく心と身体の健康観察や授業理解度などのソフト面も分析できる学習eポータル「L-Gate(エルゲート)」を開発し、全国で320万IDを発行、約10,000校で活用されている。

 さらに大久保社長は、最新のグローバル企業と手を組むことで、教育データ活用の体制が内田洋行として確立できたと話す。

 同社は昨年5月、国際技術標準の技術を活用したCBTプラットフォーム「TAO(タオ)」の開発を手がけるベンチャー企業・Open Assessm ent Technologies S.A.社(OAT/ルクセンブルク)を100%子会社化した。2016年頃から海外の教育データ基盤の技術を探していた内田洋行とグループ企業のインフォザイン社は「TAO」に注目し、海外と日本でデジタル学習教材の協力関係を構築してきた。「TAO」はすでにフランスやイタリアの大規模学力調査にも採用された実績を持ち、OECD(経済協力開発機構)の世界80カ国以上が参加するPISA(学習調達度調査)の2025年のプラットフォームにも採用される予定だ。

 既に日本国内でも「MEXCBT(文部科学省CBTシステム)」で「TAO」が採用され、2019年の全国学力テスト「英語『話すこと』調査」では、内田洋行が100万人のスピーキングテストという世界最大の調査を請け負った。つまり世界基準の「CBT」技術をもつ企業を獲得することで、国内外の同一形式の教育データを利活用できるプラットフォームを軸に、本格的にグローバル規模のビジネスをスタートするということだ。

 「もちろん、子会社化にはリスクも伴いますが、日本の教育データの収集や活用に関しては、海外からも注目されています。それを国際技術標準のテクノロジで運用していけることは、将来的にも有効な投資だと考えています」

埼玉県戸田市と進める、AIを用いた教育データの不登校への活用のイメージ(提供:内田洋行)

収集した教育データを家庭内の「社会課題」解決にも

 その一方で、教育機関や自治体と連携し、教育データの利活用に向けた人材育成や事業検証を行っていくという。

 今年2月に東京学芸大学と包括的事業連携協定を締結。教員人材のDX化として、ITを装備した教室空間や先進的な指導方法を開発していく。また、上越教育大学とはAI活用を含む教育・学習システムの開発や評価に関する取組を通じ、デジタル社会に即した教員養成高度化を目指す。

 さらに同社は、教育データを「社会課題」解決に活用する試みも、自治体等と取り組み始めているという。

 昨年12月、こども家庭庁が実施する「こどもデータ連携実証事業」に採択された埼玉県戸田市において、日本トップレベルのAI開発を手掛けるパークシャテクノロジー社と連携し、リスクデータや予防ノウハウを活かしながら、AIを用いて不登校を予測するモデル実証研究を開始したという。

 「実際に不登校になってからの後手の支援ではなく、リスクスコアを見て、少しでも先手を打って支援体制を作ること、教員の判断材料の一つとなること、膨大な教育データをAIにより分析することで、学校外の家庭内にも及ぶ社会課題の解決にも結びつけられる可能性を示すことができると思います。他にも神奈川県開成町では『見守りシステム』の構築の検証、千葉県柏市でもデータ連携を行っています」

 教育DXはさらに拡大、進化することが予測されるが、大久保社長はこれまでの本紙のインタビューと同様に、あくまで主役は「人」だと言い切る。

 「教育データの活用は、学校現場を超えて、あらゆる人の生活をよくする可能性を秘めています。そうしたことを視野に入れ、教育DXが“成熟”してくれば、地域の生活を豊かにし、そこに暮らしたい人が増え、結果として持続可能なまちづくりにつながります。人口増が続く東京も例外ではありません。出生率が唯一減少していない東京で人口増加が進むことが、日本全体の消費を活性化し、経済活性につながると私は考えています。ぜひ東京の教育関係機関や自治体で、もっと教育DX推進の議論をしてほしいと思います」

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