ロボットを活用したオフィス清掃
株式会社シービーエス(CBS)
日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。
東京を中心としたビルメンテナンス事業の代表的企業である、株式会社シービーエス(以下、CBS)。創業から60年以上を経て、環境配慮型のビルマネジメント、工事設計、業務支援サービス、発電、さらには自転車、フォトスタジオ事業と多彩に展開するが、中核のビルメンテナンス事業でも、清掃ロボットの活用という新しい分野に先駆的に取り組んでいる。その最前線の現場を取材してきた。
東京都内に限らず、オフィスビルや商業ビルでロボットがフロアを清掃している姿を見ることは珍しくなくなってきた。例えば、東京都庁内でも清掃ロボットの姿はすっかり馴染んでいる。
こうした話題を取り上げるとき、とかくロボット自体の技術や性能に注目しがちだが、実は清掃現場でのロボット活用のノウハウも、同じぐらい重要なのである。
都庁と同じ東京・西新宿エリアにある「新宿パークタワー」の地上52階、地下5階の建物のうち、29階から37階のエレベーター共用部の清掃を担当しているのがCBSだ。そこで実際のロボットによる清掃の様子を見せてもらったが、ロボットの性能の高さに感心する一方で、その性能を最大限引き出す、使う側のノウハウの重要性を実感させられた。
ロボ導入で清掃効率を向上 品質調査でも100点満点を達成
2023年12月現在、CBSはアイリスオーヤマ社製の自動清掃ロボットを採用。それに「ドライピッカー」という汚れがつきにくく、落ちやすくする液剤を併用し、エレベーター共用部のカーペットを清掃していく。
まず、ロボットにより土砂や汚れを吸収し、同時に、カーペットのパイル部を起毛させ、「ドライピッカー」がパイル部を覆いやすくする。その後、清掃スタッフにより液剤散布を行い、ブラシでパイル部に馴染ませて終了。人とロボットの共同作業で清掃が完了するのだ。
ロボットは各階フロアの床面情報がインプットされており、それぞれの階のスタート地点に設置すれば、自動で作業を開始する。音も静かで一見するとただフロアを通過しているだけに見えるが、人力では難しいほど強力なパワーで土砂や汚れを吸引しているという。作業が終了すると自動で止まり、スマートフォンなどに通知が来るため、清掃員はドライピッカー散布はもちろん、壁面の清掃など他の作業に集中できる。
従来は1フロアの清掃に複数人必要だったが、ロボット併用では1人で対応が可能に。その上、清掃自体の品質向上にもつながった。建物所有者である東京ガス不動産株式会社が、昨年5月に実施した共用部インスペクション(調査・点検)では、歴代最高の100点満点を獲得したという。
現在は人の完全代用は困難 長所をどう有効活用するか
ロボットを導入すれば誰でも高効率、高品質を実現できるかというと、簡単ではないと、業務改革推進部長兼エンジニアリング事業部門技術・統括管理部統括プロジェクト担当の塩見真吾さんは断言する。
「弊社が清掃ロボットを導入し始めたのは2021年から。それ以前は現場で使用できるレベルのロボット自体がなく、清掃業界全体でもここ数年で徐々に導入が始まりました。そのなかでも弊社はいち早く取り組んできました」
実際に現場でロボット導入を担う、新宿パークタワー管理所の梁川奏太さんは、ロボットという高性能の清掃ツールをどう有効利用するかがカギだと語る。
「清掃ロボットがあれば、人は不要というイメージを抱きがちですが、現在の段階ではそれは難しい。例えば、ロボットの別フロアへの移動にはエレベーターを使うのですが、人が誘導しなければなりません。ですが、ロボットの清掃に特化した能力は高く、ロボットが10割とすれば、どんなに頑張っても人の力では8割。しかもロボットには疲労がありませんから、長時間高品質を維持することができます。その長所をどう引き出しながら、効率を上げ、省力化できるか。インスペクションで高評価をいただきましたが、まだ試行錯誤の途中です」
高齢化や人材不足を視野に 先駆的にロボット活用に挑戦
現在、CBSは新宿パークタワーに加え、都内の10のオフィス・商業ビルでロボットを活用したビル清掃を行っている。ビルサービス事業部門長の平石卓馬執行役員は、ビル清掃へのロボット導入の最大の要因は「人材不足」だといい、その活用は業界全体でも模索中だと語る。
「そもそも清掃業務はネガティブなイメージがあり、そこにスタッフの高齢化とともに、社会全体での人材不足が加速し、人材確保が難しい状況が続いています。その課題解決のためのロボット導入ではありますが、コスト的にはまだまだ採算が合いません。10年後には清掃現場の大半にロボットが採用されていると予測していますが、当面は人とロボットが効率よく共生しながら、少しでもロボットの稼働時間を上げることがポイントになると思います」
とはいえ、前出の塩見さんは、他社にはない清掃ロボット活用のノウハウが着実に蓄積されていると自信を覗かせる。
「今後、ロボット自体の性能はどんどん向上していくと思いますので、それを見据えてロボット活用の経験を多く積み、最先端のロボットが出たときにいち早く導入できるノウハウを確立することが重要だと考えています。そのためにも、ロボット運用の経験を積んだ、梁川のような若い人材が重要になっていきます。まだ確立されていない新しい分野といえるので、弊社で教育体制を構築していきたいと思います」
5年後、10年後、ロボット清掃がより一般化した社会を見据えた挑戦。そのなかで同社がどのように存在感を増していくか、注目したい。