主税局長 児玉英一郎氏
東京都の各局が行う事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」、今回は主税局長の児玉英一郎氏。DXの推進やキャッシュレス納税の取組、賛否の多いふるさと納税などについて語って頂いた。
税務行政のDX化を推進
キャッシュレス納税を70%に
—主税局は初めての職場と聞きました。4月に着任以降の感想は。
主税局は初めての職場です。都庁唯一の歳入局ということで、その役割は理解していたつもりですが、いざ着任してみると、この役割の重要性を一層実感しました。主税局は税制という非常に専門性の高い制度を担うところです。職員はその専門性をしっかり理解し、職務に励んでいて心強いです。
—「主税局ビジョン2030」の概要は。
局では、2030年における税務行政のあるべき姿の実現に向け、「主税局ビジョン2030」を策定しました。局が目指す2つの柱として「納税者へのクオリティオブサービス(QOS)向上」と「税務行政の構造改革」を掲げています。2つの柱を実現するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。
—「税務行政のDX」の進捗状況は。
これまでも、各種税務手続きの電子化を図るため、電子申告・電子申請の拡充、AIチャットボットの導入などに取り組んできました。
2021年に開始した都税に関する各種証明等の電子申請では、2022年にスマートフォンからの申請や代理人による申請が可能となりました。今年度中に、都税事務所等で証明等を取得する際に必要な手数料支払いのキャッシュレス化を図る予定です。
2026年度に稼働を予定している次期税務基幹システムの開発については、昨年6月に基本設計が完了、現在、詳細設計に着手しているところです。
—キャッシュレス納税の推進での課題と取組は何でしょう。
都は都税のキャッシュレス納税比率を、2025年度までに55%、2030年度までに70%に引き上げることを目標にしています。
これまで、クレジットカードによる納付やスマートフォン決済アプリによる納付など、納付方法の多様化に取り組んだ結果、2022年度末時点のキャッシュレス納税比率は46・2%となり、2018年度末時点から8・2ポイント上昇しました。取組は着実に進んでいますが、目標達成のためには一層ギアを上げる必要があります。何としても実現しなくてはと気持ちを引き締めています。
キャッシュレス納税は、買い物などの日常的な支払いにおけるキャッシュレス利用と比べて認知度が低いため、認知度向上のためのPRを局一丸となって推進しています。
2023年5月には、タレントの千原ジュニア氏を東京都キャッシュレス納税委員長に任命し、キャッシュレス納税の利便性を広く都民に周知するPRイベントを実施しました。このイベントは、テレビをはじめ、多くのメディアに取り上げて頂きました。
今後も積極的なPRに取り組むとともに、新たなツールや仕組みを取り入れるなど、さらなる利便性の向上を図っていくことで、より多くの納税者にキャッシュレス納税を利用して頂きたいと考えています。
ふるさと納税の問題を発信
—ふるさと納税制度の見直しを求めています。
ふるさと納税は、居住する自治体の行政サービスに使われるべき住民税を、寄附金を通じて他の自治体に移転させるものであり、受益と負担という地方税の原則を歪めるものです。
都におけるふるさと納税の減収額は年々増加し、2023年度分の減収額は675億円、制度創設以降の累計は3018億円に上ります。都民のための行政サービスに使えるはずの税収がこの制度により失われているのです。
また、返礼品競争が続いており、ふるさとや応援したい自治体に寄附を通じて貢献するという制度本来の趣旨から大きくかけ離れています。さらに寄附先の自治体において仲介サイト委託料など様々な経費が生じており、自治体が活用できる額は寄附受入額の5割程度にとどまっています。
加えて、ワンストップ特例を利用した場合、本来国税の減収となるべき額が、地方税の減収となってしまう問題もあります。
—課題がありますね。
こうした問題点があることから、都はふるさと納税に参加していません。制度の抜本的な見直しを行うよう国に求めています。
2023年12月、都、特別区長会、東京都市長会及び東京都町村会の連名で、国に対し、ふるさと納税制度の抜本的な見直しを求める初めての共同要請を行いました。
問題意識を同じくする他の自治体と連携して国へ働きかけができたことは、非常に意義があったと考えます。
また、ふるさと納税の問題点や都の見解をわかりやすく伝えるため、主税局ホームページや、SNS、広報紙などを通じた発信を行ってきました。都民の行動や認識を把握するため、ホームページ上でのアンケート調査にも取り組んでいます。都民の皆様には、ふるさと納税を行う前に一度立ち止まって、返礼品などの財源は皆様から納めて頂いている税金であり、制度には様々な問題があることを知って頂きたいと強く願っています。
—最後に局長の趣味は。
以前は野球やスキー、読書が趣味だと言っていましたが、最近は美味しいお酒を飲んで美味しいものを食べることが趣味でしょうか。