『グリーンインフラ』『共用品』『建設現場週休二日』で
すべての人と自然がウェルビーイングな社会へ
大和リース株式会社

  • 取材:種藤 潤

「社会や環境と向き合い、解決へと導く」ことを事業理念とし、社名に冠されたリース事業に加え、建築、商業施設開発、環境緑化など4つの事業を展開する大和リース株式会社。なかでも環境緑化事業では、「防災」「生物多様性保全」という近年の社会課題解決も視野に入れる『グリーンインフラ』の推進に力を入れる。同時に、『共用品』を活用したインクルーシブ(全てを包括する)な環境整備、建設業の2024年問題に向けた働き方改革などにも取り組む。その担当者たちに話を聞いた。

左から東京本店環境緑化営業所の金居哲也営業所長、同所営業一課の土屋美穂さん、公共営業部中央省庁・都庁担当営業二課の本田咲羽さん、同一課の中島純一課長。東京本店ロビーにて撮影

東京都発表の「東京グリーンビズ」に『グリーンインフラ』導入を明記

 『グリーンインフラ』とは、国土交通省がまとめた「グリーンインフラ推進戦略」を引用すると、「社会資本整備や土地利用のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」とされている。2015年度に閣議決定された「国土形成計画」や「第4次社会資本整備重点計画」にも盛り込まれ、官民を超えた取組が各所で始まっている。

 今年8月、東京都が「100年先を見据えた、みどりと生きるまちづくり」を目指して発表した「東京グリーンビズ」のなかでも、「緑をふやし・つなぐ」取組として『グリーンインフラ』の導入を明記している。

 民間企業のなかでも『グリーンインフラ』に着目した企業はあるが、いち早く具体的に事業化を進めたのが、大和リース株式会社だ。

 同社は2011年より「環境緑化事業」として、屋内外の建物緑化やランドスケープデザイン、再生可能エネルギー導入などを行ってきた。なかでも『グリーンインフラ』に着目し「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」に参加。従来同社が取り組んできた「まちの緑をふやす=都市緑化」「人が集う空間づくりによりにぎわう=公園・商業施設等の開発運営」に「自然災害に備える=防災」「豊かな自然の質をまもる=生物多様性保全」を加える形で、独自の『グリーンインフラ』事業を提案している。

在来種のみ選定した壁面緑化。三井住友海上本館ビル(東京都千代田区)事例写真(文中写真すべて大和リース提供)

防災・生物多様性保全を 都市緑化で同時に解決

 同事業を担当する東京本店環境緑化営業所の金居哲也営業所長は、『グリーンインフラ』は今後さらに需要が高まると推測する。

 「台風や豪雨災害の被害は、保水性の高い緑地帯やレインガーデン(雨水を地下に浸透させる植栽)など、都市緑化の手法と共存する形で減災・防災できます。一方、環境省は今年2月に生物多様性の損失を止め、回復させる『ネイチャーポジティブ宣言』をし、『30by30(サーティバイサーティ)』という環境保全に向けた具体的目標を掲げており、一方でビジネスの世界でも『TNFD(自然関連財務状況開示タスクフォース)』が定められ、企業運営において自然環境保全との両立が必要となります。よって、建設や施設開発運営にもその姿勢が求められ、『グリーンインフラ』推進への必要度が高まっていくと考えられます」

 具体的な事例としては、京都市で手がけた「大宮交通公園」再生事業が、前出の「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が主催する「第3回グリーンインフラ大賞」で「優秀賞(生活空間部門)」に選ばれている。また、同社が手がけた都内にある三井住友海上火災のビル壁面緑化は、在来種に限定して植栽選定を行っているが、皇居の生態系維持を目的として鳥が通る道=鳥道に配置しており、『グリーンインフラ』の一環と捉えられる。

 大学では造園の研究をしていた同営業所営業一課の土屋真穂さんは、「東京グリーンビズ」との親和性を生かし、都内での『グリーンインフラ』推進を広めていきたいと意気込む。

 「ともに『グリーンインフラ』の取組が当たり前となる社会にしていきたいです。都市の中に緑があるのではなく、緑の中に都市がある。そのような『まち』が理想ですね」

「多様な人とともに働く」ための社内教育ツール『思いやりハンドブック』

障害があってもなくても すべての人が働きやすい環境に

 東京都は前出の「東京グリーンビズ」に加え、「未来の東京」戦略において「インクルーシブシティ東京」を掲げ、インクルーシブな公園整備や教育活動を推進している。同社はその分野においてもいち早く着手し、あらゆる人が暮らしやすい「インクルーシブ」な社会づくりを目指し、建物や施設への『共用品』の概念を取り入れている。

 『共用品』とは、身体的な特性や障害に関わりなく、より多くの人が利用しやすい製品・施設・サービス全体を指す。ちなみに、そうした設計デザインを「アクセシブルデザイン」と呼ぶが、障害者の使いやすさを意識した「ユニバーサルデザイン」とは少し異なり、健常者も含む誰もが使いやすいものを指す。

 障害者の法定雇用率を達成する同社は、これらの取組をさらに推進するために、2019年に公益財団法人共用品推進機構(※)の賛助会員として参画。一方で社内では『思いやりハンドブック』という、障害者が何に困り、どのような支援を求めているかをまとめた冊子を制作し、自社従業員たちにも「インクルーシブ」な考え方を浸透させている。

 建設業界の労働環境改善にも積極的に取り組む。2024年から東京都工事発注分すべての建設現場に『週休二日』が求められるため(別名「建設業の2024年問題」)、同社は東京本店従業員全員に実施を徹底するために、普及推進の名刺用シールを配布。さらに、賃貸借の工事発注分は『週休二日』の適応外なのだが、同社では各担当者に個別に説明・周知し、賃貸借建設現場でも『週休二日』の拡大に注力している。

(※)誰もが使いやすい製品・サービスの推進に取り組む団体

一般社団法人日本建設業連合会の「建設業週休二日推進ロゴマーク」(本ロゴマークは日建連の登録商標です)

事業の“多様性”を生かし 複合的要素を一つの窓口で実現

 他にも、当社の従来の立体駐車場建設と比べて55%のCO2排出量を削減した『環境配慮型 自走式立体駐車場』など、未来を見据えた新たな事業化に積極的だ。

 公共営業部 中央省庁・都庁担当の中島純一課長と本田咲羽さんは、これからの東京都のまちづくりとさらに親和性の高い取組ができると意気込む。

 「グリーンインフラとアクセシブルデザイン、働き方改革と、一見すると関連性のない取組に見えますが、弊社では“社会や環境と向き合い、解決へと導く”目的のもと、すべて根底では繋がっていると認識しています。こうした他社にはない“多様性”があるからこそ、特に施設整備など複雑に人や組織、課題などが関わる事案でも、一つの窓口で解決に向けて対応することができます。東京都の未来のまちづくりに弊社が貢献できると嬉しいです」

今年10月より販売を開始した『環境配慮型 自走式立体駐車場』完成予想パース ※イメージ

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