都民に求める防災とは

  • 司会 都政新聞株式会社代表取締役社長 平田 邦彦

出席者(発言順) 東京都危機管理監  原田 智総 氏 東京消防庁消防総監 吉田 義実 氏

9月1日、関東大震災発生から100年目を迎える。節目の年を契機に、東京都ではどのような震災への取組を行っているのか、東京都危機管理監、東京消防庁消防総監それぞれのお立場から、発災時の行政対応について明らかにし、公助がどう働くのかと同時に、自助共助について読者が考えるべきことについて紹介していただいた。

大災害発災時の東京都の指揮命令系統

—今年は関東大震災発生から100年という節目の年ということで、東京都の防災に係る取組について、東京都危機管理監、東京消防庁消防総監それぞれのお立場から、ご紹介していただければと存じます。
 まずは自己紹介からお願いいたします。最初に危機管理監から。

原田 東京都危機管理監の原田智総です。私は一昨年の11月に東京都の危機管理監を拝命いたしました。その前は陸上自衛隊の東北方面総監で、長く防衛の任務についてきました。自衛隊は災害が起きた時、有事が起きた時の対応をメインに考えますが、自治体は減災、そして、どのように被害を少なくするかというところに力点を置いて事業を展開しています。そういった意味で、元職の時の経験が参考になる一方、都庁で学ぶことも多いと感じています。

吉田 4月1日付で東京消防庁消防総監を拝命いたしました吉田義実です。
 昨年5月に「首都直下地震等による東京の被害想定」(以下、被害想定)が10年ぶりに見直され、公表されました。10年前と比べて被害は小さくなったものの、想定される被害は極めて甚大です。我々東京消防庁、警視庁、自衛隊、海上保安庁といった公的機関は総動員で災害対応に当たりますが、それだけで被害を少なくするのは不可能です。やはりそこにお住まいの住人の方々が自らの防災行動力を向上させ、各自が被害者や犠牲者にならずに震災の初動期を乗り切っていただき、その上で周りの人を助けていただく共助という形をしっかり作っていくことが大事だと思っています。

—大災害が起きた際の、東京都の指揮命令系統を教えていただけますか。

原田 大きな災害が発生すると、東京都は対策本部を立ち上げます。本部には消防総監も警視総監も副本部長という形で入っていただきます。
 実は、私は平時においては総務局で防災に係る行政的な事業に携わっているのですが、有事になるとその対策本部の切り盛り、つまり指揮統制を知事直轄で行うことになります。従って平時は総務局長から指示を受けますが、有事の際は災害の全体、もしくはオペレーションの全体を把握し、総務局を含め各局の行動を差配することになりますので、平時と有事では担う役割が相当変わると言えますね。

—実際に動くのは区市町村の方々だと思います。区市町村との連携はどうなっているのでしょうか。

原田 都の対策本部の中に区市町村調整部門があります。その部門が区市町村のニーズを取りまとめ、状況を把握して関係各局に割振りを行うという流れになっています。

—国との関係は?

原田 国に加えて、例えば、広域連携を担う自治体、知事会等との調整をする部門も私が所管しています。そうした情報が全て対策本部の私のところに集約されるかたちとなります。警察、消防、自衛隊、海保は、対策本部にリエゾンチームを置いていますので、集約された情報を元に、直接やり取りをして、それぞれの部隊に指示をしていただくことになります。

阪神・淡路大震災を経験しハイパーレスキューが誕生

—阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震等の災害を経て、学ばれたこと是正されたことなど、ご披露願えますか。

原田 東京都危機管理監には、東日本大震災以降、大災害時の危機管理には自衛隊のノウハウが必要だということで、自衛隊経験者を起用していると聞いています。
 今、総合防災部では自衛隊に加え、警察、消防、海保といった救出救助の知識を持った機関職員と、都庁のプロパー職員が一緒に、災害対策に取り組んでいます。

吉田 関東大震災では10万5000人の方が亡くなられましたが、そのうちの9割が火災旋風も含めて火災で命を落とされました。私は平成元年入庁なのですが、当時の震災対策はまさに関東大震災を教訓とした火災を中心とした対策でした。
 その節目が変わったのが阪神・淡路大震災です。この時も火災は300件弱発生しているのですが、お亡くなりになった方のほとんどは、建物の倒壊ですとか、瓦礫の下敷きになった圧死です。消火活動はもちろんですが、瓦礫の中から人を救助する能力が消防機関としても必要だと認識し、高度な人命検索救助資器材を備えたハイパーレスキューという部隊が阪神・淡路大震災の翌年、平成8年に創設されました。
 一方で、瓦礫に埋もれた方を救出する周辺の住民やボランティアが着目をされました。実は阪神・淡路大震災の前年から防災を専門とした事前登録制のボランティア「東京消防庁災害時支援ボランティア」の運用を始めていたのですが、阪神・淡路大震災を経験して、やはりボランティアの力は非常に有益だということで、さらに教育に力を入れるようになりました。
 また、それまでは消防機関同士の応援は協定を結んでいるところだけだったのですが、全国の消防部隊が現地に応援に入ったことで、国が緊急消防援助隊という全国的な消防の応援制度を発足させました。
 東京都では、首都直下地震が発生した場合は、どこの県からどういう部隊が応援に入るか事前に計画されていて、25道府県から東京に応援に入ることになっています。計画だけではなく、関東ブロックは毎年、全国ブロックは5年に1度、実際に訓練をして、いざという時に備えています。

—東京消防庁の多くの職員は派遣によって経験を積み、知見を深めていると言うことでしょうか。

吉田 我々は全国的に見ても、世界的に見てもかなり高いレベルの部隊を持っていますが、実際にその部隊が現場で経験を積む機会は、東京の災害としてはほとんどありません。ではどこで経験を積むかというと、普段の訓練はもちろんですが、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、あるいは日本を飛び越えて海外、この間もトルコの大地震にIRTとして東京消防庁の職員を6名派遣しましたが、そうした日本国内、世界各地で起きる災害に職員を派遣することで経験を積んで、知見を深め、それをフィードバックするということを繰り返しています。

阪神・淡路大震災を機に創設されたハイパーレスキュー

阪神・淡路大震災を機に創設されたハイパーレスキュー

昨年5月に見直された被害想定では非常に厳しいシナリオも

—防災対策も進み、火災発生は少なくなるとはいえ、実際に大震災が発生した場合は、消防車も救急車も来ないというのが現実だと思います。そうなると自助共助が主力になっていかざるを得ない。その認識を深めていただくための取組を教えてください。

原田 今、一番の課題は地域の力が落ちていることだと思います。東京都としては地域の力を再興するため、町会・自治会への梃入れや、防災対策を進めるための様々な支援制度を打ち出しているところですが、さらに取組を強化したいのがマンション防災です。マンションには管理組織がありますが、住人は町会・自治会に加入していない、あるいはマンション内で自治会が構成されていないことが多く見られます。マンションと地域の結びつきを作り、もう一度、地域の力を強くしていくため、関係各局と連携して、様々な施策に取り組んでいます。
 また、地域の防災の担い手である消防団も高齢化してきています。若い人に消防団に入っていただくため、女性と学生に着目し、若い力として地域の防災に一役買っていただく方策を展開しています。

吉田 当庁管内には81の消防署があるのですが、消防署自体がけっこう地域に密着していて、消防団はもちろんですが、事業所、町会・自治会、学校といった地域の主体とのパイプがありますので、それぞれの防災力を高める取組と合わせて、防災訓練等を通じて、顔の見える関係を作り、相互に助け合う共助に繋がる接着剤的な役割ができるのではないかと思っています。
 しかし、この3年近くコロナ禍によって対面での防災訓練ができませんでした。その分をデジタルで補完していたのですが、実際に集まってもらって顔を突き合わせて訓練をする。そういう場を作っていくことに、改めて力を入れていきたいと考えています。

原田 従来の被害想定では、倒壊家屋は何棟といったかたちで数字だけを公表していました。昨年5月、10年ぶりに見直しを行った被害想定では、過去の大規模災害からの経験を活かし、発災後に身の回りで起こり得る災害シナリオや被害の様相を示しました。道路が閉塞されて、全国からの救出救助機関の応援部隊が都内に入れない可能性があるといった非常に厳しいシナリオも織り込んでいます。
 やはりキーになるのは道路啓開です。首都直下地震が起こった際は、東西南北から都心につながる主要な緊急輸送道路を速やかに啓開することとなっています。これをやり遂げないと、警察、消防、自衛隊等の部隊が全国から来られないことになります。本当にそれができるよう、突き詰めていかないといけませんし、逆に道路を閉塞する可能性があるのであれば、沿道の建物の耐震化を進めるなどして、その道路が閉塞しないようにしなければならない。そうした事業を順次進めています。
 自衛隊時代に首都直下地震の図上演習を行いました。当時、私は東北におりました。東北から応援部隊を出すのですが、いつになっても東京都に着かない。何故かというと東京、神奈川、千葉、埼玉以外のところも、震度5強、5弱で被害を受けているんですね。
 そういう本当にシビアなワーストシナリオを、私たちはオペレーションを行う立場として想定しておく必要があります。

—東京都は考えられることは全部想定して、それなりの準備をしているということですね。

令和4年度東京都・品川区合同総合防災訓練

令和4年度東京都・品川区合同総合防災訓練

木密地域とタワーマンションそれぞれの防災対策

—我々は消防車でも救急車でも、呼んだら来てくれるものと思っていますが、大震災の発災直後は全ての現場をカバーすることはできませんよね。消防車は今、何台くらいあるのですか。

吉田 東京消防庁が通常運用しているポンプ車は540台です。平常時の一つの火災に対しては、発生した場所によってあらかじめ計画が立てられていて、大体6台から8台のポンプ車が出動して対応する計画になっています。
 震度6弱の地震が起きると職員全員が参集することになっていて、参集した職員で非常用のポンプ車を追加で最大180台編成し、計720台を編成することになるのですが、今回の被害想定では、被害が小さくなったとはいえ、一番大きな想定では24時間に623件の火災が発生すると示されています。当然、私どもの全職員を参集して編成したポンプ車を火災に送り出しても到底足りないということは数字でも明らかです。
 そこを埋めるのが消防団であり、住んでいる人たちが自らの力で火が小さいうちに消火するとか、助けられる人を助ける。それ以前に自分が犠牲者にならない、そのために家具類の転倒・落下・移動防止対策をする。つまり自助共助が重要になると思います。

—東京の場合は木密地域が気になります。

吉田 そういうところに住んでいる方は、危険性を感じているので防災意識は高いですね。被害想定でも、全体としては被害規模は小さくなったのですが、木密地域を抱えているところでは逆に被害が大きく出ています。それを受けて我々も木密地域の震災対策を強化しなければいけないということで、まさに道路が狭く、木造家屋が倒れて瓦礫の山になったところでも入れるような消防車両、小型の走破性の高い消防車両を予算化しました。今年度には準備できますので、対策は徐々に強化されています。とはいえ木密地域は1ヶ所2ヶ所というわけではありませんので、そういう地域をなくす方向で、都市計画と並行してやっていかなければならないと考えています。

原田 木密地域は間違いなく減ってきてはいますが、依然として存在します。火を出さない、火を出した場合はどうする、という両面から攻めていく必要があると思います。
 東日本大震災の時の出火原因の多くが電気だという結果が出ています。地震を感知すると電気を遮断する感震ブレーカーがありますが、そうしたものがあるということを知っていただき、危険があるところには備え付けていただければと思います。

—木密地域もさることながら、いわゆるタワーマンションも難しい問題があるのではないでしょうか。エレベーターが動かないわけですからね。どうやって生きていくのかということが問われていると思います。

原田 まさに被害想定の中にはそういったケースも織り込まれています。例えば、水一つとっても十何階から降りてきて、十何階に持っていくということは非現実的です。そういったことも含めて家庭内の備蓄を考えないといけませんし、さらに言えばマンションで、例えば複数階単位で備蓄しておくなど、そうした取組のための様々な支援制度があります。
 被害想定の中に、発災後数日するとマンションでは生活できないので、住人が降りてきて避難所に行く。そうなると避難所の収容人数をオーバーしてしまうというシナリオもあります。在宅避難ができる方は在宅で避難するのが一番よいので、1週間程度はマンションにとどまれるような準備をしていただきたいと思います。
 東京都が発刊している「東京くらし防災」と「東京防災」という防災ブックがあるのですが、今年度リニューアルをします。マンションにお住まいの方に向けた対策も含め、災害への備えについて確認することができますので、そうしたツールも活用しながら防災についてご理解を深めていただくことが重要だと思います。

木造家屋が倒れて瓦礫の山になったところでも入れる小型の走破性の高い消防車両も導入予定 写真提供:東京消防庁

木造家屋が倒れて瓦礫の山になったところでも入れる小型の走破性の高い消防車両も導入予定 写真提供:東京消防庁

自助共助でまちは救える それが関東大震災の一番の教訓

—最後に、読者のみなさんに伝えたいことがあれば。

原田 関東大震災100年ということで、その実情を紐解いていくと、東京市のほとんどが延焼で焼失してしまっている中、焼けなかったところがあるんですね。それは、地元の消防団と地元の方々、町会・自治会の皆さんが協力して、要はバケツリレーで火を食い止めたところなのです。つまり自助、自分が生き残る方策をしっかり持っていて、その上でお互い助け合って被害から免れている。それ以外にも、焼け出された方々を企業が、例えば炊き出しをしたり、建物への受け入れを行っている。つまり自助共助でまちは救えると言うことが、関東大震災から学んだ一番の経験だと思っています。
 東京都では関東大震災が発生した9月1日の前後を「コアWEEKs」として、様々なイベントを行っていきます。今月26日には都庁で「関東大震災100年イベント」を開催し、都民参加・体験型の企画や、有識者などを招いたシンポジウムを行います。また、9月1日から3日には東村山市と合同で、災害対策本部の運営訓練や、都民参加型の防災訓練を実施しますが、これらのイベントのテーマはやはり自助共助です。都民の皆さんにはこうしたイベントに参加して、体験していただいて、自ら助かる、そして助かったら隣にいる人を助けるという意識を持っていただければと思います。

吉田 先ほど申し上げた通り、消防、警察、自衛隊が全力を上げても、おそらく首都直下地震の被害全てに対処することは不可能です。やはりお一人おひとりが震災の被害に遭わないように事前の備えをする、実際に起きた時に可能であれば周りの人を助けられる能力を身につけることが重要だと思います。
 そのためにも防災訓練には参加することをお勧めします。それが無理なら防災館が3館ありますので、ぜひそこに来てください。いつでも初期消火の経験とか防災能力を高めるツールの体験ができますから。

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