社交ダンスは世界中の人と繋がれるコミュニケーションツール

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

ダンサー 織田 慶治さん、理子さん

多感な時期に社交ダンスを始め、“ダンスのお見合い”で出会った。2002年にペアを結成。2014年、統一全日本ダンス選手権で史上初の6連覇を成し遂げ、現役競技を引退。現在は後進の育成や愛好家の指導に力を注ぐかたわら、全国各地でショーを開催しているダンサー、織田慶治さん、理子さんご夫妻にお話をうかがった。

身体だけでなく頭も使うので、社交ダンスは認知症予防になります。

—日本の社交ダンス人口は世界でもトップレベルなのだそうですね。驚きました。

織田理子 100万人とか120万人と言われています。

慶治 これほど多い国はないですね。

理子 いわゆるプロだけでなく愛好家も含めての数字ですが、そういう方が圧倒的に多いんです。

—社交ダンスの何がそれほど多くの人を惹きつけるのでしょう。

慶治 いろんな要素があると思いますが、二人で踊るところではないでしょうか。社交ダンスは全身を使う運動なので、インナーマッスルが鍛えられますし、有酸素運動でもあるので体力アップにもなります。

 それにステップを覚えたり、人と触れ合ったり、音楽に合わせて体を動かすので脳の活性化にもなる。身体だけでなく頭も使うので、認知症予防に一番いいスポーツと言われているんですよ。

—遠い世界のように感じていましたが、ちょっとやってみたくなりました。

理子 私はテレビの影響です。「ウッチャンナンチャンのウリナリ!! 芸能人社交ダンス部」を見て、「何、この男女二人で踊るダンス!」と衝撃を受け、やってみたい!と思いました。たまたま実家がある世田谷区の祖師ヶ谷大蔵駅に「ダンス」という広告があって、何のダンスだろうと見学に行ったら社交ダンス。やりたい!とすぐに始めました。15歳の時です。

—それまでスポーツは何かやっていらしたのですか。

理子 子供の時にクラシックバレエ、基本的に運動が好きで、テニスとか水泳とかいろいろやっていました。いろんな習い事のうちの一つとして社交ダンスが教養になればという気持ちで始めたんですけど、はまりまくりました(笑)。大学の附属高校に通っていたのですが、大学に行く時間がもったいないと、進学せず即プロになると決めました。

慶治 僕は群馬県出身ですが、群馬は社交ダンスが盛んなんですよ。実家のすぐそばに社交ダンス教室があり、その教室の娘さんと同じクラスで、小さい時からよく遊びに行っていました。

 ある時、その子のお母さんから「1か月後に発表会があるから、うちの娘と出てみない?」と誘われたのがきっかけです。中学2年、14歳の時です。

 当時は社交ダンスは中高年の方の趣味というメージだったので、社交ダンスをやっていることは友だちには内緒にしていました(笑)。1年くらい経った頃でしょうか、プロのショーを見る機会があったんです。そのダンスを見て、「社交ダンスってこんなにかっこいいの?こんなに速いの?」と衝撃を受けた。それで、高校を卒業したらプロになろうと決心しました。

武道館で行われた日本インターナショナル選手権での演技 

武道館で行われた日本インターナショナル選手権での演技

家ではダンスのことは忘れて愛犬とくつろぐ

家ではダンスのことは忘れて愛犬とくつろぐ

ダンスのお見合いで出会い、組んだ瞬間に、この人と組みたい!

—プロになるとは、どういうことなのでしょう。

慶治 教師の資格を取るということです。教師試験は運転免許証と同じようなもので、勉強すれば取れますが、そこからが茨の道。プロで勝ち上がっていくことが難しいわけです。

理子 プロの世界にはA級、B級、C級、D級、ノービス級とランクがあって、級別に試合があるんですね。200~300組が出場する試合で昇級できるのは、B級までは勝ち残った6組。B級からA級になる場合は3組だけで、しかも前期後期と年に2回ある試合の両方で3位以内に入らないといけない。すごく大変なことなんですよ。そのA級の中で戦って勝ったチームが日本一ということです。

—1フロアに十何組が一斉に踊るのですよね。審査をするのは大変でしょうね。

慶治 審査員はチェックポイント、例えば立ち方、音楽性、カリスマ性、コリオグラフィーとかが頭に入っていて、5秒から10秒見るとだいたいわかるんですよ。

理子 私たちも今は審査する立場ですが、入場する時の歩き方でわかりますね、上手いか下手か。上手い子は一本軸が通っている。踊っている時はもちろんですが、入場から退場まで、どんな時も隙がない。自信に満ちて、どうぞ見てくださいという人たちと、大丈夫かなとそわそわしている人たちの差は一目瞭然です。

—3年半というスピードでA級になったのですよね。実力もさることながら相性も大事かと。お二人はどうやって知り合ったのですか。

理子 “ダンスのお見合い”です。

慶治 僕らの時代はダンス雑誌の後ろのほうのページに、リーダー&パートナー募集というコーナーがあったんです。今では考えられませんが、そこに名前とか電話番号とかを載せていて、そこで彼女を見つけて連絡をしたのがきっかけですね。

—相手を選ぶポイントは?

慶治 まずラテンかモダン(スタンダード)か。ラテンはチャチャチャ、サンバとか情熱的でセクシーなダンスで、モダンはワルツとかタンゴとか上品で優雅なダンス。僕はラテンを専攻していたので、ラテンをやっていて、歳が近くて、身長や体型のバランスがいい感じで、方向性や目標としているところが同じで、価値観が合うことかな。

理子 見た目とか、組んで踊った感触とか。私は組んだ瞬間に、この人と組みたいなって思いました。

慶治 僕も思いました。

—そういうことは珍しい?

理子 珍しいと思います。会うべくして会ったというか、ご縁というか。私が彼に感じたのは、技術はまだまだですが、音楽性やセンスがすごくある。並外れた才能があるということ。それが決定的な決め手でしたね。

慶治 彼女は僕より1歳年上で、その時点で既にプロになっていたのでうまい!と感じて、この人と組みたいと思いました。

—以来ずっとペアを組んで、私生活でも結婚されました。仕事場でも家でも一緒ということですが、うまくいく秘訣は?

理子 私たち、仕事をしている時はけんかをしますが、終わったらパッとやんで、私生活に引きずらないんです。だから家に帰ったら、「何かありましたっけ?」みたいな感じになる。

慶治 若い時に死ぬほどけんかしたからね。もう相手の地雷もわかっているし、些細なことで怒らなくなったというか(笑)。

2014年統一全日本ダンス選手権の表彰式で

2014年統一全日本ダンス選手権の表彰式で

現在はショーで妙技を披露

現在はショーで妙技を披露

手を握って、音楽聴いて、踊る。人との触れ合いがダンスの魅力です。

—統一全日本ダンス選手権で史上初となる大会6連覇を達成されました。日本チャンピオンとしてのプレッシャーもすごかったのでは?

理子 各国のトップ1、2組だけが出られる世界選手権が毎年あるんですが、6年もチャンピオンをやっていると、本当に日本を背負っているというか、ある程度の成績を残さないと日本に帰れないという感じでした。

 それに観客の皆さんに試合ごとに最高の、前よりも良いパフォーマンスを見せなくてはいけないというプレッシャーも。

慶治 ダンスも、良い踊りをするというよりも、勝つ踊り。だから自分たちのやりたいダンスじゃなくて、どうやったら勝てるかというダンスを追求していましたね。引退した今は自分たちの踊りたいダンスを自由に踊っているので、引退してからのほうがダンスが良くなったと言われることもあります。

—世界ではどれくらいまで行かれたのですか。

慶治 世界選手権で16位。世界はレベルが違いますね。

理子 圧倒的に上。やっぱり世界は広いな、大きいなと実感します。

—社交ダンス人口の多さ=レベルではない?

慶治 そうですね。日本で社交ダンスをやっている方の多くは趣味の方なので。

 海外は3歳、4歳から英才教育を受けている子が多いんですよ。日本のプロはだいたい大学から社交ダンスを始めて、そこからプロになる。遅いんですね。

理子 スポーツにしろ音楽にしろ、どの世界もたぶんそうだと思います。

 大学で初めて社交ダンスを知って、夢中になる子はたくさんいます。卒業できないんじゃないかというくらいはまっちゃう。

—そこまではまる魅力というのは?

慶治 音楽に合わせて体を動かすという本能的なところと、やっぱり人との触れ合い。「社交」ダンスなので、そこが一番の魅力ですね。

理子 人に会って、手を握って、一緒に音楽聴いて、同じタイミングで踊る。

慶治 めっちゃ楽しいよね!

理子 社交ダンスはリモートじゃ無理ですからね。コロナ禍の時も、教室を閉めたのははやりだした頃の5月1カ月くらい。生徒さんも、ダンスをしないほうが病気になるって(笑)、感染対策をしてレッスンをやっていました。

慶治 パーティではラテンもモダンも踊りますが、パーティーダンスといって、パーティー用のステップがあるんですね。それを覚えると世界中の人と踊れる。そこでは小さい子供から80歳、90歳の高齢の方まで、誰でも楽しめるんですよ。それも社交ダンスの魅力だと思いますね。

理子 今、AIロボットが人間に代わっていろんなことができるようになっていますよね。でも社交ダンスは絶対人間同士じゃないとだめ。人と人とが触れ合う機会が減って、何でもかんでもスマホで済ませる時代だからこそ、社交ダンスがコミュニケーションツールになるといいですよね。

慶治 ロボットと踊っても楽しくないよ(笑)。

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