「IT」と「人」で 在庫問題の解決をサポートする

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

マッチングワールド株式会社 代表取締役社長 町田 博さん

「公務員か準公務員になれ」という父の言葉に従い、高校卒業後、近畿電気通信局に入局するも、人生の先が見えたと退局。現金問屋を経て起業、年商200億円企業に育てた。しかし46億円の在庫を抱え倒産。その経験を糧に、余剰在庫と必要在庫をITと人でつなぐ独自のシステム「M-マッチングシステム」を開発した。「在庫問題の解決」を目指すマッチングワールド株式会社代表取締役社長、町田博さんにお話をうかがった。

入庫時と出庫時に検品しているので、安心保証。完全匿名で取引できるBtoBシステム。

—御社が独自に開発されたという「M―マッチングシステム」とは、どういうシステムなのですか。

町田 在庫を処分したい企業と、それを仕入れたい企業とを、インターネットを使ってマッチングさせるBtoBの流通システムです。主な商材は、ゲームやトレーディングカード、玩具、キャラクターグッズなどのアミューズメント関連商品で、在庫品の入庫時と出庫時には検品を行い、商品の質を担保しているのが特徴です。

 それから、売り手も買い手も完全匿名で取引できる点も他にはない仕組みでしょうね。なぜなら、在庫処分は企業にとってリスクが高く、倒産の疑いをかけられかねませんから。

 実は、30年ほど前に私自身が大量の在庫を抱えて倒産した経験があるんですよ。1983年に、安い商品を探して仕入れ、販売するという今の事業のルーツとなる会社を設立しました。ある年の暮れ、任天堂の製品を扱っている問屋さんから当時人気が出始めていた「ファミコンを買ってほしい」という依頼がありました。

 いわゆる現金問屋はどこかで安い商品を見つけ、商品が入荷されて初めて商売ができるわけですが、「ファミコン」は予約注文がもらえるんですね。数字が安定するので、テレビゲーム本体やソフトをメインに取り扱うようになりました。

 「情報を発信しなければ、注文は来ない」というのが私の信条で、営業活動にも力を入れ、マンパワーだけでなく、全国紙にゲームの広告を出したりもしました。

 当時はゲームメーカーの流通は地域ごとに壁があり、ある地域で過剰在庫になっている商品が、別の地域では必要在庫になっているといったことが起きていたんです。

 そこで、全国各地に支店をつくり、各地の過剰在庫と必要在庫をうまくさばくという勝負に出ることにしました。実際に売上は右肩上がりで伸びていきました。

—なぜ倒産することになったのでしょう。

町田 重要なのは、本社にストックしてある在庫を、いかにスムーズに各支店に融通するかということです。そこで、当時まだ日本に数台しかなかったIBMのホストコンピュータを導入して管理を行うことにしました。

 ところが、システムの本稼働が遅れたことで数カ月分の在庫データが上がらないことや、商品の返品なども行えなくなってしまい、資金繰りにも行き詰まってしまいました。結果的に合計46億円に上る不良在庫を抱え、倒産するしかありませんでした。

 テレビゲームの市場規模が2000億円程度だった当時、会社の年商は約200億円。10%に近いシェアを持っていたことになります。バイヤーたちはさぞかし鼻が高かったでしょうし、私たち経営陣にも慢心があったのでしょうね。在庫の怖さを思い知った瞬間でした。だから、マッチングサービスの必要性を一番感じているのは私自身なんですよ。

商品検品の様子

商品検品の様子

2021年にオープンした「まちキャラ秋葉原店」

2021年にオープンした「まちキャラ秋葉原店」

人生、上がったり下がったり。あきらめなければなんとかなる。

—見事に復活を遂げられました。

町田 私は業界に多大な迷惑をかけましたから、もうこの業界にはいられないと思っていました。ところが、幸いなことに友人が始めたゲーム問屋に誘ってもらったんです。一生懸命頑張りましたが数年後、そのゲーム問屋は閉めることになり、私は同社の東京支社をもらい、1999年にプランニングオフィスアシストを設立。2年後には売上が伸び、大きな事務所に移ることができました。

 そんな時、私たちの在庫マッチングサービスに情報を提供してくださっていたある企業から、「今度上場するので、うちに来てほしい」と誘われたんです。やはり上場は中小企業の夢です。私はその申し出を受けることにしました。

 ところが、ネットバブルがはじけて上場の話はなくなった。結局、私はその会社を辞めることになりました。

—波乱万丈ですね。

町田 私の人生は、上がったり下がったりで(笑)。失敗はしたくないですよ。したくないけどしてしまった。ただ、失敗しただけでは意味がない。それで2001年、もう一度女房と息子と3人で新たにビジネスをスタートさせることにしたんです。それがマッチングワールドの前身である株式会社マチダです。前を向かないことには誰も応援してくれないじゃないですか。町田という人間を応援してくださる皆さんとのお付き合いを大切にしたいと思い、名前を社名にすることにしました。

—その後は順調にいったのですか。

町田 マチダを設立して間もなく、プランニングオフィスアシストで働いていた5人が会社を辞めて当社に来てくれたんです。資金繰りはかなり苦しかったですが、私を慕って「辞めてきた」と言われたら、使わないわけにいきませんでしょう。経営者冥利につきますよ。縁を大事にして、人間を大事にすれば、いつかは花開く。人生、あきらめなければなんとかなる。

 いろいろ考えた結果、やはり行き着いたのは在庫マッチングサービスでした。「どこにも負けないデータを作ろう」と、それまで紙ベースで行ってきたファックスによる在庫マッチングサービスを、当時普及し始めていたインターネットを利用して行えるシステムの構築に取りかかりました。それが「M―マッチングシステム」です。

 現在の「M―マッチングシステム」は4代目です。当初は外部の業者にシステム開発を依頼していましたが、お客様のニーズに迅速に対応できるようシステム開発を内製化しました。その結果、必要に応じて週単位でのシステム更新も可能になり、また突発的な要望にもきめ細かく対応することができるようになりました。今もシステムのブラッシュアップを続けています。

 おかげさまで、会社は文字通り倍々ゲームで成長を遂げております。そして、目指すはマッチングワールドの株式上場です。ゲーム業界における二次流通業としては初めての上場ですし、誰も成し遂げた人がいませんからね。

「M―マッチングシステム」のわかりやすい画面

「M―マッチングシステム」のわかりやすい画面

海外の取引増加と「働き方改革」を追い風に 2027年に上場を目指す。

—ところが、今度はリーマン・ショックが……。

町田 当社もご多分に漏れず経営危機に陥り、上場が難しくなってしまいました。上場準備のために外部から来てもらったメンバーには、上場ができなくなったことを詫びたうえで辞めてもらい、かつリストラを断行して、なんとか生き延びることができました。あの時は本当に苦しい決断の連続でした。

—再び軌道に乗ることになったきっかけは?

町田 海外の取引が伸び始めたんです。海外取引の場合、代金を前払いしてもらうので、資金繰りに苦労することがないんですね。海外取引は、当時の私たちにとってまさに女神のような存在でした。

 当社は女性社員が多いのですが、今、海外を担当している6人のバイヤーは全員女性です。香港、台湾、そこを通じて中国、あと北米で展開していて、海外の売上は50億円くらい。世界は広いので、まだまだ伸び代があると思っています。

 さらに、国が「働き方改革」の一環として副業・兼業を推進するようになったことも追い風になりました。モチベーションの高い副業・兼業事業者やフリーランスが集まれば、彼らが自ら動いて販路を拡大し、商品を売ってくれるはずです。

 そこで、彼らがすぐにビジネスを始められるように、「M―マッチングシステム」にプラットフォームを提供することにしました。また、彼らは資金力に不安があることが少なくありませんから、オリエントコーポレーション様と協業し、「マッチング・ペイ」サービスを開始しました。私も昔、支払い関係で非常に苦労した経験がありますから、資金面でも彼らを支援していこうと考えたわけです。最近では約7割が、「マッチング・ペイ」への申し込みを希望しています。

—コロナ禍の2021年、リアル店舗「まちキャラ秋葉原店」をオープンしたそうですね。目的は?

町田 昔は町におもちゃ屋さんってありましたよね。でも今はほとんど見かけません。各メーカーのイチ押し商品を展示することで、メーカーと消費者の接点をつくってあげたいと考えています。

 現在は秋葉原と末広町の2店舗ですが、6月には千葉駅西口に新店をオープンします。今後は首都圏や全国にも展開していこうと思っています。

 それと、コロナ禍でニーズが高まっている抗菌ガラスコーティング剤「PIKAPRO DX(ピカプロディーエックス)」の販売も順調に売り上げを伸ばしています。

 企業には成長期、成熟期がありますが、当社は今期の売り上げが100億円に達し、ようやく成長期の半ばにいると思っています。

 日本では毎年22兆円相当もの余剰在庫が処分されています。そのうちの1%を減らすだけでも2000億円相当です。「M―マッチングサービス」はまだまだ伸び代はあると思いますので、今後はアパレルや、家電事業など他の商材にも横展開していきます。そして、2027年の上場を目指して体制の整備を進めております。

—そこまで上場にこだわるのはなぜですか。

町田 人材と資金の強化、それと社員への恩返しのためです。

 まず人材ですが、マッチング事業拡大には、各事業の専門バイヤーが必要になります。商品の目利きや仕入れ力のある人材の獲得が成長には不可欠です。また、事業継続のための資金も必要になります。そのため、上場こそが第一の戦略だと捉えています。

 そして上場を目指す理由はもう1つ。創業以来、一緒にやってきてくれた社員への恩返しのためでもあります。当社は離職する社員が少なく、社歴十数年というメンバーが多いんです。私は今年74歳です。彼らのために、ちゃんと上場して、資金力も信用もある、この先10年、20年続く企業にしてから、ぽっくり逝きたいんです(笑)。

コロナ禍でニーズが高まっている「ピカプロDX」

コロナ禍でニーズが高まっている「ピカプロDX」

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