「解体」空間に「アート」と「テクノ」を
地域活性やSDGsにつなげる
株式会社都市テクノ

  • 取材:種藤 潤

3月25日(土)26日(日)の2日間、港区にある解体予定の「Daiwa御成門ビル」にて、『解体祭』というユニークなイベントが催された。主催したのは、この建物の解体を実際に行う、解体事業を主とする株式会社都市テクノ。そのイベントに訪れた人たちの表情はみな明るく楽しげで、「解体」という行為の新たな可能性が感じられた。その企画立案の背景や目的に迫った。

会場の随所には、「Daiwa御成門ビル」入居者の建物への思い出の書き込みも目立った

解体する建物に感謝とお別れを 大学と連携し地域活用と再生を模索

 建物を建てる時に『地鎮祭』を行うように、解体する時には『解体祭』を―そんな想いを込めたこのイベントを主催した、株式会社都市テクノの島村智之代表取締役は、開催に至る経緯を次のように語る。

 「解体というと、危険なイメージが強く、騒音や振動、さらにはCO2排出もあり、周辺に暮らすみなさんに一定の負担をかけています。一方で、解体は新たな需要も生み出し、やり方次第では地域活性のきっかけにもなることがわかってきました。さらに、CO2削減や廃棄コンクリートの再生など、SDGsへの貢献も可能です。そうした解体のポジティブな要素を伝えるのも、我々解体事業者の役割だと考え、検討・調査・研究を経て出てきたひとつの答えが『解体祭』でした」

 本イベントは、都市テクノと武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所が共同研究している「空き地・空き家・空きまちの再生プロジェクト」の「まちの学び舎 ねづくりや」(本紙2022年5月号掲載)と同様に「アート」と、さらに今回は東京大学生産技術研究所・建築物の総合的保存保全に関する研究グループの協力のもと、再生する「技術(テクノ)」を加えながら、「解体」を地域の中でどのように活用していくかを検証する試みでもあった。そのため、『解体祭』のサブコピーは「アートとテクノで、最後のおもてなし」であった。

当日、来場者へ配布された出品物の数々

地域の人々へ出品物を無償提供 ペイントやワークショップも

 当日は4つの企画で構成されていた。

 一つ目は「ふるまいマーケット」。周辺に暮らす人々への感謝を込めて、解体するビルの入居テナントを中心とした事業者からの出品物を集め、来場者に無償で提供した。テナント企業のノベルティグッズをはじめ、この企画に賛同した協力団体による手作りクッキーなどのお菓子、農産物なども振る舞われ、大荷物を抱えている来場者も少なくなかった。

 二つ目は「ペイント体験」。取り壊される建物の壁や床・窓などの空間をキャンバスに見立て、来場者に自由にペイントさせた。この体験を目当てに来た親子やグループも多く、壊す空間だからか、みな開放的にダイナミックに絵や文字を描いていた。何より、子供だけでなく親たちも笑顔でペイントしているのも印象的だった。

 三つ目は「リソグラフワークショップ」。「リソグラフ」という特殊印刷手法を用いて、会場周辺の写真と文字、イラストを複合的に描き、独自の作品に仕上げていた。あまり馴染みのない手法に新鮮さを抱きながら、作品をともに作る親子の姿が多く見られた。

 四つ目のテーマは「再生コンクリート技術展示」。前出の東京大学生産技術研究所の協力のもと、実際に解体された廃材が新たなコンクリートとして再生するまでが、わかりやすく実物展示されていた。時間帯によっては、実際にコンクリートを粉砕し、再生させるまでの工程が実演され、参加者は興味深くその様子を注視していた。

解体予定の建物内全体がフリーキャンバスとして、自由に描けるように。大人と子供も楽しく自由に筆を走らせていた

「解体」から「再生」へ そして未来につながる活動に

 その他、武蔵野美術大学の学生作品の展示や、解体にまつわる疑問点などを来場者が書き込んで張り出すコーナー、さらには主催の都市テクノによる、同ビルが実際にどのように解体されていくかを解説した、パネル展示も行われていた。

 来場者は2日間で800人を超え、その約半数が、建物周辺で働いたり、暮らしたりしている人だった。来場者からは「解体への関心が高まった」「もっと解体について知りたかった」など、「解体」そのものへの関心が高まった声がある一方、「悲しいを楽しいに変えるイベント」「地球に優しいことを子供に伝えられた」などの声もあり、「解体」が「再生」、そして未来につながるポジティブな活動であるというメッセージが、確実に伝わったように感じた。島村代表は『解体祭』を次のように振り返った。

 「周辺の人たちとともに、解体の依頼主もこのイベントを喜んでくれたことは嬉しかったですね。特にペイントに関しては、解体現場が美術館になり、しかも描いて終わりでなく、その様子の写真を撮る姿からは、新しいアートを感じました。今後も色々な分野と協力関係を続けながら、次の『解体祭』も検討したいと思っています」

 当日の様子は、4月21日から港区立生涯学習センター「ばるーん」にて詳しく展示される予定だ。「アート」と「テクノ」による「解体のおもてなし」がどのように伝わったかを知りたい方は、ぜひ足を運んでみてほしい。

東京大学生産技術研究所による、コンクリートの再生の仕組みの展示

右から、東京大学生産技術研究所で再生コンクリート等を研究する酒井雄也准教授、同研究所で地域性体験活用型社会を研究する林憲吾准教授、武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科の若杉浩一教授、都市テクノの島村智之代表取締役

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