労働委員会事務局長 根本浩志氏
東京都の各局が行う事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」。今回は労働委員会事務局長の根本浩志氏。4月に就任したばかりだが、労働委員会の重要性、東京での事例、デジタル化の推進などを熱く語っていただいた。
全国の労働委員会をけん引
ウーバー・イーツの事件で注目
—労働委員会についてご紹介をお願いします。
労働委員会は、労働組合と使用者との間で生じた労使紛争の解決に向け、準司法的な判断を行う行政委員会です。
労働者や労働組合から、不当労働行為に対する救済を求める申立てがあった場合、労働委員会は申立ての対象となった使用者の行為を審査します。審査の結果、不当労働行為にあたると判断したときは救済命令を発出します。
公平な立場の第三者として労使間の紛争処理を行うことにより、「労働基本権の保護」と「労使関係の安定・正常化を図ること」を目的とした機関で、各都道府県に設置されています。
—東京都労働委員会の特徴は。
東京都労働委員会が取り扱う、不当労働行為の審査、労働組合の資格審査、労働争議の調整、労働争議の実情調査の1年間の取扱総件数は、ここ10年間でみると、1000件程度で推移しています。
このうち、最も多く取り扱う不当労働行為の審査の新規申立件数は100件程度で推移しており、全国の新規申立件数の約4割を占めています。取扱件数が0件や1件の労働委員会もある中で、東京に事件が集中しており、リーディングケースとなるような命令も発するなど、全国の労働委員会を牽引していると言えることが特徴です。
こうした事件を、学識経験者から選ばれた「公益委員」、労働組合から推薦された「労働者委員」、使用者団体から推薦された「使用者委員」の各13名、合計39名の、知事に任命された委員が、複数の事件を受け持ち、高い見識や豊富な経験を生かして労使紛争の解決にあたっています。
—リーディングケースとなる事件を扱うとのことですが、昨今の労使問題の特徴は何ですか。
コロナ禍を経て働き方の多様化が進む中で、報酬や労働時間の改善をめぐって事業者との間で争いが発生し、労働委員会に救済を申し立てるケースが発生しています。
近年では、ウーバー・イーツの配達員が結成した労働組合が、東京都労働委員会に申し立てた事件があります。この事件は、労働組合が就労環境の改善を求めて会社に団体交渉を申し入れましたが、会社は「配達員は労働組合法上の労働者ではない」として拒否したことに端を発した事件です。これに対し、東京都労働委員会は、申立人の主張をすべて認め、令和4年11月、会社に団体交渉に応ずるよう命じました。
この命令は、オンラインで提供される場を介して働く配達員が、労働組合法上の労働者にあたると全国で初めて判断したものであり、多くの新聞等で報道されるなど、社会的な注目を集めました。
ギグワーカーやフリーランスの保護が海外でも問題となる中、これを機に日本においても議論が活発になるのではないかと考えています。
東京の働き方改革にも貢献
—労働者の賃上げ問題が大きくクローズアップされています。労働委員会にはどういった役割が期待できますか。
物価や電気代の高騰で生活が厳しさを増す中、賃上げを求める春闘の労使交渉が本格化しています。
原材料の値上がりで経営が厳しい企業も多く、労働組合の要求に必ずしも応えることができず、自主的な解決が困難となる場合があるかもしれません。
こうした場合には、公平な第三者が労使の間に立ち、その主張を調整し、解決の糸口を見つけ出すことが有効です。労働委員会には「あっせん」の制度があり、労使双方を調整する役割を果たしています。
当委員会では、近年取り扱った「あっせん」事件のうち約半数が「解決」となっています。労使関係で、お困りごとのある事業者や労働組合の皆様は、双方いずれからも申込みができますので、ぜひご活用ください。
—行政手続のデジタル化が進んでいます。準司法的な労働委員会でのデジタル化の取組は。
当委員会においても、デジタル化の取組を進めています。
令和4年度からは、「東京共同電子申請・届出サービス」により、オンラインで書類の提出や交付ができるようになりました。セキュリティに万全を期し、今年度でほぼ全ての手続のオンライン提出や交付が可能となる予定です。こうした取組によって、時間や費用をかけず、効率的に書面のやりとりができるようになります。デジタルの力を活用して、労働委員会をより便利に、より身近な存在にしたいですね。
—今後の東京都労働委員会の役割は。
東京都労働委員会は、今後も社会の変化を反映した事件を取り扱うことになります。一つひとつの事件にしっかりと向きあい、公正中立な立場で労使の紛争解決にあたります。
東京の経済の発展や働き方改革を推進するには、安定した労使関係の構築が不可欠です。今後とも、当委員会がこれまで蓄積してきた事例や委員と職員の知識・ノウハウを最大限に発揮して、労使紛争の迅速かつ的確な解決に取り組みます。
—行政手続のデジタル化が進んでいます。準司法的な労働委員会でのデジタル化の取組は。
最後に、事務局長の趣味はなんでしょうか。
あえていえば読書でしょうか。歴史物が好きです。最近は読む機会がないので積読状態ですが。(笑)