働き方、学び方の変革を支援することで社会に貢献

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

株式会社内田洋行 代表取締役社長 大久保 昇さん

1910年に中国・大連で創業した内田洋行。測量・製図機器提供を祖業とし、先端的な計算尺の開発で、学校現場の科学教育の普及に努め、戦後は理化学機器等の教材販売で学校市場に参入した。現在、強く推進しているのは「働き方変革」と「学び方変革」によるDX化。入社以来、一貫して教育機関向け市場を開拓し、教育ICT分野を牽引してきた株式会社内田洋行代表取締役社長、大久保昇さんにお話をうかがった。

組織をフレキシブルにして、事業ポートフォリオを再構築

—創業113周年を迎え、内田洋行の経営資産である公共、オフィス、情報という3つの事業をそれぞれ進化させています。グループ経営としてどのようなグループを目指しているのでしょうか。

大久保 弊社は60年ほど前にいち早く事業部制をスタートさせたのですが、入社した当時は、オフィス関連、公共関連、情報関連の3つの会社があるようなものだと言われていました。社長就任後は、その3つの会社や組織をフレキシブルに事業を再構築することにしました。

—具体的にはどのようなことでしょうか。

大久保 現在、第16次中期経営計画(2022年7月期~2024年7月期)を進めているところです。

 弊社のグループが持つ事業を俯瞰的に見直して、環境構築関連ビジネスとICT関連ビジネスに、市場の軸から民間市場と公共市場にわけた4つのマトリクスで分類したうえで、事業再構築を始めています【図】。

 さらに、顧客の「人」と「データ」への投資を支援することを掲げ、公共や民間で進めるDX(Digital Trans formation)の実現にはデジタル化によるデータの蓄積と人による変革の推進が不可欠として、中計2年目は人材育成とデータ活用の時代に合わせた支援を加速させます。組織体制も見直しを始めており、横断的に顧客対応ができるよう地域施設統括、ICTエンジニア統括、公共ICT統括など「統括」の設置によってグループを結び、新たな事業展開を目指します。グループ企業体制についても、ヘルプデスクやICT機器の運用保守を手掛けるウチダエスコを完全子会社化し、内田洋行グループ連携をさらに加速していきます。

—まさに過渡期なのですね。

大久保 そうですね。「洋行」という名前の通り古臭い会社ですが、中国語では外国人の店という意味をもち、同時にフロンティアスピリットとして当時は未知の領域に挑むという意味を持っていました。おかげさまで、22年7月期は情報関連事業の売上高が約970億円と最大になり、ICT分野の牽引が大きな要因となりました。

—古臭いとおっしゃいますが、やっていることは最先端ですよね。

大久保 そうですね。今は働く場、学ぶ場、公共の場をフレキシブルに、かつハイブリッドな技術やシステムを提供していますが、ラッキーなことに113年前に中国の大連で、満鉄が必要とする公共のまちづくりに対応する製品を提供していくというB to Bのスタイルは変わっていないんですよ(笑)。

フレキシブルでハイブリッドな学習空間 フューチャークラスルーム

—1980年代から業界に先駆けて教育の情報化を進めてきた内田洋行にあって、その先頭に立って牽引されてきました。

大久保 私は1999年から2019年くらいまで、毎年各国の教育現場を視察してきましたが、欧米もアジアも教室空間はどんどん進化しています。

 例えば、日本の学校は教室の大きさが全部同じで、南側は全部窓で外光が入ると言うと、海外の人はびっくりします。反対にハワイでは正方形の教室を真ん中で仕切って、2つにして使っているところがありましてね。考えてみれば四角形より三角形の方が壁の面積が大きいので、いろんなものがたくさん貼れる。こんな発想はまるでなかったと感心しました。

 様々な経験から教育の場にこそDXが必要だと感じました。それをフューチャークラスルームとして社内に2010年に大阪、2011年に東京で開設しました。

—先ほど、体験させていただきましたが、まさに未来の学習空間という感じです。どのようなコンセプトでつくられたのですか。

大久保 教え方や学び方の可能性を最大限拡げる教室空間をコンセプトに、クラウドを駆使し、東京、大阪、北海道、世界のどこからでも、リアルサイズに投影されて、まるで一緒にいるかのような協働学習空間を開発しました。

 文部科学省が一昨年、「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」を発表しましたが、弊社が10年前に筑波大学附属小学校に構築した未来の教室の写真をスケッチ画にしたものだったので、時代を先取りしていたと言えるでしょうね。

 その後、学芸大学附属竹早小学校や宮城教育大学、鴻巣市、東京大学(駒場アカデミック・ライティング・センター内)にも設置されています。

—コロナ禍により教育の現場も一気にICT化が進みました。まさに先駆けですね。

大久保 GIGAスクール構想では、校内ネットワーク構築、最先端技術を活用したフルクラウド化、全国の自治体へ約140万台以上のPC端末等の導入整備に加え、デジタルコンテンツ、ICT支援員やヘルプデスクなどを、多くの自治体へ総合的に提供を進めてきました。

 端末導入によって、児童・生徒から様々なデータを収集できる仕組みの活用が始まり、教育や先生の働き方変革、学校経営などに役立てようとする動きも出始めています。

 4月から実施される全国学力・学習状況調査では中学校英語おいてMEXCBT(メクビット:文部科学省CBTシステム)でCBT調査が行われます。CBTとはComputer Based Testingの略で、紙を使わずコンピューターで受験するテストを指します。MEXCBTに接続するために、弊社では「L-Gate(エルゲート)」という学習e―ポータルを開発・提供しており、全国では約700団体、約9000校、約300万IDの導入と、全国でトップシェアとなっています。

 学習での利用履歴など様々な教育データを横串に分析することで、今後は児童・生徒毎に最適化されたスタディログの活用や潜在的な課題を抽出することができると期待しています。

 また2024年度にはデジタル教科書の本格導入が予定されています。我が社では、こうしたデジタルコンテンツが利用できる、教材コンテンツクラウド配信サービス「EduMall(エデュモール)」を整備していて、2023年1月時点で、累計450自治体、7600校の小中学校に導入されています。L-GateやEduMall、統合型校務支援等の自社システムとの連携はもちろん、他社システムともシームレスに連携し、データ活用を後押ししています。

 GIGAスクール後の人とデータの活用の取組が評価され、昨年は自治体との事業連携協定が多く進みました。教育データ活用では、さいたま市との教育ダッシュボード構築や埼玉県鴻巣市とは、ICTを活用した新たな授業実践と教室空間の構築について事業連携を締結しました。

 自治体職員のDX化を推進するために、大阪府とはスマート福祉の分野で連携協定を締結。ユニークな協定では京都市や三井住友信託銀行などと脱炭素を推進するために北山杉の利用促進協定を結びました。この先も、締結した協定を中心に自治体のDX支援やデータ駆動型社会の実現に貢献していきたいです。

学芸大学附属竹早小学校「SUGOI部屋」2022年設置

学芸大学附属竹早小学校「SUGOI部屋」2022年設置

スマート福祉の実現に向けた業務改善
大阪府知事、吉村洋文氏(右)と内田洋行代表取締役社長、大久保昇氏(左)

スマート福祉の実現に向けた業務改善 大阪府知事、吉村洋文氏(右)と内田洋行代表取締役社長、大久保昇氏(左)

113年の歴史で培った強みを活かし、社会に貢献する

—社会生活においてもテレワークが広まるなど、多様な働き方が定着しつつあります。

大久保 年末から全国で開催してきた、オフィス・ICTの新製品発表会へのお客様のご参加は格段に増加しました。時間や場所を超えていく多様な働き方の選択肢が増える一方で、社員同士の対面の繋がりが希薄になり、社員間でのノウハウの伝達やマネジメント上の困難さなど、さまざまな課題も顕在化してきました。いまこそ、ハイブリッド時代のオフィスの意味が問われています。とりわけ生産性を向上するうえでは、チームビルドと個人のパフォーマンス発揮が重要でしょう。

 イノベーションを生みだすチームのための「Team Base」を打ち出しました。メンバー同士を繋げ、働く環境に必要な情報を自在にコントロールできる場の提案です。また、コロナ禍でクラウドのグループウェアの導入率、利用率も急拡大していることから、手のひらにあるスマートフォンなどからチームの「人」と「場所」を繋ぐナビゲーションシステム「スマートオフィスナビゲーター」は好調です。「学ぶ場」と「働く場」、学校を変えると企業も変わる。二つは同じ方向を向いていて、内田洋行はその両方をやっているということです。

—SDGs無くしては何も語れない昨今ですが、サステナビリティにも力を入れていらっしゃいます。具体的にはどんな取組をされているのですか。

大久保 2004年より宮崎県や北海道、栃木県、東京都をはじめとした全国各地の国産木材活用を他社に先駆けて取り入れています。

 単純に「木って気持ちいいよね」と木の心地よさを活かした空間デザインや製品づくりを行っています。今では都庁での多摩産材を活用したファニチャー導入や乳幼児の子育て支援施設など、学校や自治体等の公共建築に国産木材を積極的に採用し、林野庁の国産木材の受託事業への参画も進めています。

 これらの実績から宮崎県にある「みやざき林業大学校」の名誉校長を務めているのですが、消費地と産地を結ぶ活動はすごく大事だと痛感しています。日本をもっとサステナブルにしていきたいですね。

—日本のサステナビリティの最大の問題は少子化問題とも言われています。

大久保 「少子化」が世界的な問題になっている今、日本にとっては高齢化や人口減少への対応策を世界に示す絶好のチャンスだと思います。デジタル化による産業の効率化は必須であり、その時代に対応できるデジタル社会の担い手の育成を見据えた『人』と『データ』への投資が一層必要になるでしょう。

 岸田内閣は「異次元の少子化対策」を掲げていますが、東京都の出生率が上がれば、それこそハイブリッドで日本全体の出生率が上がりますから。少子化に向けても、教育データ活用のノウハウを使って、より効果的な製品やサービスを提供していきたいですね。

 当社グループの113年の歴史で培った法人・公共・文教市場において、人財にノウハウや知見が蓄積され、特色あるビジネスが育成されてきましたが、今後もさらに事業再構築を進めていきます。「情報の価値化と知の協創をデザインする」。日本社会のスマート化の実現に向けて、グループ全体で新たなトランスフォームを推進し、社会に貢献していきたいと思っています。

廃校になった中学校の体育館をリノベーションした山形県高畠町立屋内遊戯場―もっくるー

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