回収×利用で地球を守る
使用済み食用油を使った石けん
株式会社リンクス

  • 取材:種藤 潤

 使用済みの食用油を回収して再利用する。水質汚染につながらない石けんを使用する。それぞれ独立した環境保護活動であるが、同時に実現するモデルは、ありそうでなかった。『回収』という入口と『利用』という出口、双方から環境保全に貢献できる「リサイクル石けん」事業の普及に取り組む、株式会社リンクスのキーマン二人に話を聞いた。

「ヱスケー石鹸」がつくる「リサイクル石けん」(写真、データ全て提供:リンクス)

温暖化につながる原料を使わず 水資源を守る石けんを製造

 リンクスが手がける「リサイクル石けん」は、一般家庭や飲食店で使用された食用油の廃油が原料となっている。この技術および製造自体は、東京都北区に本社を構える「ヱスケー石鹸株式会社」という創業100年を超える企業が生み出したものだ。

 同社は、高度経済成長期に増加し、現在も多くの家庭で使用されている「合成洗剤」の排水が環境汚染につながるリスクに早くから着目。「中和法」と呼ばれる製造方法で環境に配慮した高品質な石けんの製造を行ってきた。そして2002年、今回取り上げる「リサイクル石けん」を製品化したが、その存在と価値をいち早く見出し、普及に取り組んできたのが、現在リンクス専務取締役を務める岩﨑康弘さんだ。

 「この石けんを使用することで、原材料となる『パーム油』由来の脂肪酸を減らすことが可能です。ご存知の方も多いかもしれませんが、『パーム油』を採取するアブラヤシは、1年を通して実がつく特性を持つため、生産効率が高く、世界各国で大量生産され、食用油や石けん、洗剤の原料として使用されています。ただ、そのために大規模な森林破壊による温暖化や労働問題、野生動物への影響などが指摘され、地球規模で問題になっています。この『パーム油』由来の脂肪酸の代わりに、食用廃油を原料に使用しているため、環境保護への貢献が可能となります。食用廃油はそのまま流せば水質汚染、燃やせば温暖化の一因になるので、水資源の保護にもつながります。

 しかも、この石けんの使用感は抜群です。環境にも人にも安全でやさしい石けんを、一人でも多くの人に知ってもらいたいと思い、約20年普及に努めてきました」

左がリンクスの片渕洋平代表取締役、右が岩﨑康弘専務取締役

廃油回収の専門企業と出会い 「回収」「利用」がつながる

 技術的には確立されている「リサイクル石けん」だが、普及を拡大する上での課題はいくつかあった。そのひとつが、安定的な廃油の回収および輸送。この分野には、専門車両やノウハウを持つ事業者との連携が必須だ。また、石けんを作るための廃油処理は、和歌山の協力企業の技術がなければ行えず、そこまでの輸送ルートや物流拠点の確保も課題だった。

 その課題を解決したのが、今回取材したもう一人のキーマン、リンクス代表取締役の片渕洋平さんだ。リンクスは『湘南オイルサービス』として、その名の通り神奈川・湘南地域で食用廃油のリサイクル事業を行ってきた企業。2016年、片渕さんが代表取締役として事業を引き継いだ。

 「高品質のバイオディーゼルを生成し、自動車や発電のエネルギーに代えることで、温暖化防止に大きく貢献する素晴らしい事業だと感じ引き継ぎました。ただ、事業を行う中で、リサイクル事業の社会的評価の低さを実感し、働く社員がもっと自信を持てる仕事にするためにも、その価値を広める必要があると感じていました。そんなとき、弊社に石けんの営業に来た岩﨑さんと出会い、石けんの価値とともに、廃油回収の課題を聞きました。弊社には廃油回収の専用車両もあり、和歌山までの中継地点もある。これこそ弊社が取り組むべき事業だと感じ、岩﨑さんに入社してもらいました」

リンクスが運営する『湘南オイルサービス』施設内で廃油を運搬する様子

「唐揚」とのコラボで認知向上 関東および東北に回収エリア拡大

 事業化して1年に満たないが、二人は全国の食用廃油の回収ルートの開拓に奔走。すでにあったリンクスの回収ネットワークも生かし、現在、拠点の神奈川を中心に、千葉、埼玉、山梨、東京を網羅し、東北エリアにまで進出している。

 さらに、「唐揚」の全国組織である「一般社団法人日本唐揚協会」と連携し『からあげせっけんプロジェクト』を立ち上げるなど、新しい廃油回収のシステムの構築にも挑戦している。

 「SDGsの考えが広く浸透したことにより、日本全体で環境問題に対する意識も高まり、回収エリア拡大の追い風になっていると思います。ただ、首都圏はリサイクルに対する理解が比較的定着しているものの、地方での理解度は今でも低いのが実情です。各地での普及も地道に続けつつ、『唐揚』のように全国的にインパクトを与える組織と連携し、限りある資源を余すことなく利用できるこの石けんの取組をさらに多くの人々に知ってもらいたいと思います」(岩﨑専務)

廃食油リサイクルシステムのイメージ図。廃油回収という「入口」と石けんを使用する「出口」二つのリサイクルの取組の「見える化」が実現している

単発でなく継続的な導入へ 市区町村単位で広げたい

 一方で、岩﨑専務が取り組み続けてきた石けんの「利用」の普及拡大にもさらに力を入れる。鉄道会社では社会貢献活動として、運営管理する飲食店やトイレなど一部での導入がはじまっており、また、学校などではリサイクル教育の一環として導入された事例もある。

 「『回収』と『利用』、この事業に参加する選択肢は二つありますから、現場で導入しやすい方から始めてもらえば問題ありません。ただ、本音はどちらも取り入れて欲しい。そうすれば、リサイクルの『入口=回収』から『出口=利用』まで導入していることになり、社会貢献活動をより強くアピールできると思います」(片渕代表)

 理想は、地域内の廃油を原材料としたリサイクル石けんを、回収したエリアの公共施設で使用してもらう事による「循環型プロジェクト」の導入だ。二人は東京という全国から注目される地域でこそ、率先して導入して欲しいと声を揃える。

 「実は豊島区ではリサイクル石けん導入から8年目を迎えます。また、都内ではありませんが、他の自治体でも導入を検討しています。前例を参考に、関心ある自治体は是非手をあげて欲しいです」(岩﨑専務)

 「すべての石けんをこの商品に変える必要はありません。できる場所から変え、一方で食用廃油の回収を進めてもらえれば、地域全体の環境保全のアピールになる。これからの自治体のスタンダードになって欲しいです」(片渕代表)

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