芸術文化で躍動する都市東京を目指して
東京は、江戸の昔から受け継がれる歌舞伎や落語、浮世絵といった独自の町民文化のほか、現代演劇・舞踊、現代アートやポップカルチャーなど多種多様な芸術文化が交差し、世界を魅了している。文化の祭典でもあった東京2020大会では、「Tokyo・Tokyo・FESTIVAL(TTF)」と銘打って多彩な文化プログラムを展開し、大会までの5年間、世界中から多くの方々が参加した。ここで生まれた様々な文化レガシーを次の世代に繋いでいくことが、大会を開催した東京の使命となる。芸術文化都市・東京の実現に向けた今後の取組について紹介する。
コロナ禍では、あらゆる芸術文化活動が制約を受け、多くのアーティストやその活動を支える担い手が厳しい状況に置かれた。世界が「芸術文化の灯を絶やさない」を合言葉に支援を打ち出す中、都も「アートにエールを!東京プロジェクト」により、幅広い芸術文化活動を支援した。コロナ禍の経験は、改めて多くの人々が、芸術文化の持つ、心を癒し生きる活力をもたらす力に気づくきっかけともなった。
「東京文化戦略2030」を策定
都は、文化プログラムのレガシーやコロナ禍で得た知見・経験を踏まえ、共生社会へのシフト、デジタル化の進展など、社会環境が大きく変化しているタイミングを捉え、今年3月2030年までの戦略「東京文化戦略2030」(以下、「文化戦略」)をまとめた。
文化戦略は4つの「戦略」と、10の「推進プロジェクト」で構成している(図参照)。
また、これらの戦略を実行していくための重点手法として、デジタルテクノロジーの活用、企業等との協業、目標を実現する担い手の育成及び関係自治体との連携強化を掲げた。
さらに、文化戦略を実現するための推進体制として、都と政策連携団体である東京都歴史文化財団・東京都交響楽団が内部改革と強化に取り組みながら協働し、戦略事業を着実に遂行することとしている。
「だれもが文化でつながる国際会議・Creative Well -being Tokyo 2022」を開催!
文化戦略のプロジェクト2「だれもが文化でつながるプロジェクト」では、あらゆる人々が芸術文化を享受し、多様な価値観が形成されることで、東京がダイバーシティ・インクルージョンの先進都市となることを目指している。
都と東京都歴史文化財団は、6月28日から10日間、芸術文化による共生社会の実現を目指す、総合国際カンファレンス「だれもが文化でつながる国際会議」を開催した。
開会式では、小池知事が「先進的な取組を発展させる機会にしたい」と挨拶。つづいて、ジャスティーン・サイモンズ ロンドン市副市長(文化・クリエイティブ産業担当)ほか2名が登壇し、基調講演を行った。
カンファレンスの中心プログラムである「国際会議」では「ウェルビーイング」「アクセシビリティ」など5つのテーマについて、多様な地域・領域から政策立案者や研究者、実務家、クリエイター等を迎え、国際的な見地で共通課題について議論や意見交換を行った。
「ショーケース」では、東京都美術館を会場に障害者雇用を生み出す分身ロボットをはじめ、国内外のイノベーション・デザイン作品を展示し、芸術文化を通じた社会包摂の取組状況を伝えた。
「短期集中キャンプ」は、聴覚・視覚に障害を持った当事者や専門家のみならず、文化や言語、考え方の異なる人々が協働し、音だけでなく匂いや光を楽しむことができる楽器を制作。インクルーシブ・デザインを体験的に理解する場となった。
「ネットワーキング」は、公募によって選ばれたホストが、プレゼンテーションやミーティング、ワークショップを実施。国内外の文化関係機関、医療・社会福祉団体、NPO、クリエイターなどが出会い、ノウハウや知見を交換しあった。
この国際カンファレンスを通じて形成されたネットワークが、アジア地域の次世代の国際プラットフォームとなるよう、引き続き取組を推進する。
スマートフォンアプリ「ハイパー江戸博」をリリース!
文化戦略のプロジェクト4「スマート・カルチャー・プロジェクト」では、デジタルテクノロジーを活用した芸術文化の新たな鑑賞・参加機会の提供にも取り組んでいる。
今回、収蔵品の新たな鑑賞体験を提供するスマートフォンアプリ「ハイパー江戸博」をリリースした。ユーザー自らが、江戸に住む少年「えどはくん」となって、江戸の町を散策しながら100点の収蔵品を集め、「江戸の知恵」を発見していく体験型ゲームアプリだ。ダウンロード数は8月1日現在2・8万件を超え、人気を博している。
江戸東京博物館は今年4月から約3年間の休館期間に入ったが、こうしたオンラインでの取組を展開し、江戸東京の暮らしや文化、歴史を学べるコンテンツを提供していく方針だ。
「シビック・クリエイティブ・ベース東京」が渋谷にオープン!
デジタルテクノロジーを活用する取組は、ゲームアプリにとどまらない。
10月には、デジタルを活用したアートとデザインの新たな創造拠点「シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)」が渋谷にオープンする。
CCBTは、専用のラボとスタジオ等を備えたスペースで、ワークショップや、新しいアート表現を創造するための様々なプログラムを実施する。都市をクリエイティブに彩り、イノベーションを生み出す原動力となることを目指す。
スーパーバイザーの宮坂副知事をはじめ、各分野で活躍するコラボレーション・メンバーとともに、運営方針や事業展開について議論しながら準備を進めている。
オープニングイベントでは、渋谷区の小学校で「未来の東京の運動会」を開催する。eスポーツプロデューサーの犬飼博士を招き、運動会本番に向けたワークショップなどを8月から順次開催、10月22日、23日に運動会本番を迎える予定。
参加者がデジタルを活用して、運動会の競技種目やルールを自由な発想で作り上げ、「アート×デジタル×デザイン」を体感できるイベントとする。
芸術文化の力で都市の「魅力」と「豊かさ」を創出
芸術文化はまちに彩りを与え人々を楽しませるだけでなく、教育や福祉、産業、観光など多様な分野にプラスの効果をもたらし、より良い社会づくりの原動力となる。
文化戦略を着実に推進することで、東京の魅力を高め、生活も豊かにする「芸術文化で躍動する都市東京」を、都民やアーティスト、芸術文化活動にかかわる多くの方々とともにつくっていく。