2040年代を見据えた「新たな都立病院」へ

  • 写真提供:東京都

 超高齢社会の到来による医療需要の増加や、少子化による医療の担い手不足など、医療を取り巻く環境はさらに厳しさを増していく。高齢化がさらに進展する2040年代において、都立・公社病院が都民に必要な医療を確実に提供していくためには、医療環境の変化に迅速・柔軟に対応できる病院運営を行っていかなければならない。さらには新型コロナウイルス感染症が発生して以来、都立・公社病院は全力で対応をしているところであるが、グローバル化が進む中、今後も新興感染症が流入することが想定され、感染状況に応じて、今まで以上に迅速な対応が求められる。このため、都立・公社病院は、保有する医療資源を最大限活用し、複雑化する医療課題に柔軟かつ機動的に対応できる体制を構築していく必要がある。そこで都立・公社病院は、本年7月1日に一体的に地方独立行政法人に移行し、「地方独立行政法人東京都立病院機構」として新たにスタートする。東京都立病院機構は、「新たな都立病院」として引き続き行政的医療を安定的・継続的に提供するとともに、感染症医療や災害医療の危機管理体制を一層強化していく。さらに、地域医療の充実に貢献することなどにより、都民の誰もが質の高い医療を受けられる環境の整備を推進していく。

地方独立行政法人化で機動的な運営へ

 地方独立行政法人は、法人が自ら人事や会計などに関する制度を柔軟に構築するなど、機動的な運営を行うことが可能となる経営形態である。現行の経営形態では法令等の制約により医療ニーズに即応した人材の確保などに課題がある。

 法人化後は多様な勤務形態や専門性に応じた給与制度の構築により、必要な人材を柔軟かつ迅速に確保・育成していくほか、医療機器の整備などをタイムリーに行える財務会計制度により医療ニーズの変化に的確に対応していく。

 さらに、高度専門医療を提供する都立8病院と地域医療に強みを持つ公社6病院1施設が一体となるスケールメリットを生かし、効率的・効果的な運営に取り組んでいくことで、医療を取り巻く環境変化に迅速に対応できる体制を構築し、民間医療機関等と連携しながら東京の医療を一層充実させていく。

行政的医療や高度・専門医療等の提供を一層充実

 都民に救急医療・周産期医療・小児医療などの行政的医療を安定的・継続的に提供する都立病院の役割は、地方独立行政法人となっても変わることはない。

 高水準で専門性の高い総合診療基盤に支えられた行政的医療や、一般医療機関では対応が難しい高度・専門的医療等を、「新たな都立病院」の役割として引き続き提供していく。

 また、今後の超高齢社会を見据え、総合診療科を充実し、専門診療科や多職種と連携しながら入院患者の様々な症候に対応していくほか、大学や地域の医療機関とも連携しながら総合診療医の確保・育成に取り組んでいく。さらに、5Gを活用した島しょ医療の充実を支援する等、地域や都民の医療ニーズに的確に対応していく。

感染症医療や災害医療の危機管理体制を一層強化

 首都直下地震や新興感染症の発生等の公衆衛生上の緊急事態が生じた際に、各都立病院が有する医療資源を最大限活用し、率先して対応していくことは、「新たな都立病院」の重要な役割の一つである。

 感染症医療においては、流行の初期段階から都立病院が自ら率先して対応にあたることはもちろん、緊急時には都の方針の下、都や関係機関と連携しながら患者を積極的に受入れていく。

 また、平時から専門人材を確保・育成するとともに、感染状況に応じて感染症の専用病床を適切に確保するなど、効率的・効果的に医療提供体制を整備していく。

 また、地域の医療機関や介護施設等に対しては、都や保健所と連携しながら、ニーズに応じた感染拡大防止等の支援を行っていく。

 災害医療においては、都の方針の下、都や地域の医療機関と連携しながら、重症者等を積極的に受入れていくほか、DMAT(災害派遣医療チーム)などの大規模災害時に必要となる人材を育成し、派遣要請に着実に対応していく。

地域の医療機関等への支援イメージ

地域医療の充実への貢献を更に推進

 地域医療の充実への貢献は、「新たな都立病院」の役割の一つであり、今まで以上に地域の関係機関等との連携を強化し、各自治体が進める地域包括ケアシステムの構築を支援していく。

 患者の治療やケアに必要な情報を、ネットワークシステムを活用して地域の医療機関や介護施設とタイムリーに共有するなど、在宅療養を支える地域の医療機関等を支援していく。

 また、日々患者と向き合う都立病院の医師や看護師による病気の予防等に関する講座を開催するなど、都民の健康増進や疾病予防に向けた普及啓発にも取り組んでいく。

DXを推進し、病院のQOSを一層向上

 「新たな都立病院」では、病院運営におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、医療の質を一層向上しつつ、住み慣れた地域での安心した療養生活を支援するとともに、業務の効率化を積極的に進めていく。

 AIを活用した画像診断支援や、ICTによる診療情報の共有を通じた在宅療養への支援などに取り組み、患者や地域に対するQOS(クオリティ・オブ・サービス)を向上させていく。

各病院の強みを生かした医療機能の強化

 「新たな都立病院」では、地方独立行政法人のメリットを生かし、各病院の強みを生かした医療機能の強化に取り組んでいく。

 例えば駒込病院では、がんの遺伝子情報に基づき患者ごとに最適な治療薬や治療法を探る「がんゲノム医療」のニーズの高まりを受け、遺伝子解析を行う専門人材を新たな職として設定して安定的に確保するなどにより、がんゲノムの医療提供体制を充実して、最適ながん医療を提供していく。

各病院の強みを生かした医療機能強化の主な取組

各病院の強みを生かした医療機能強化の主な取組

大都市東京を医療で支え続けるために

 医療を取り巻く環境が一層深刻化することが想定される2040年代に向けて、都民や地域の医療ニーズに着実に対応していくためには、医療提供体制の充実・強化は急務である。

 東京都立病院機構は、地方独立行政法人のメリットを最大限生かす運営体制を構築し、将来にわたって都民の期待に応え、医療を通じて都民の安全・安心を支えていく。

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