大会の成果を都市のレガシーに

  • 写真提供:東京都

昨年3月に東京都が策定した「『未来の東京』戦略」。東京が目指す理想の未来を展望した大作だ。しかし、戦略は作って終わりではない。その内容を随時アップデートし、実行することが重要だ。東京2020大会を安全・安心に成し遂げた経験、大会を通じて世界から寄せられた信頼は、東京の誇るべき財産である。一方で、新型コロナとの長きにわたる闘い、脱炭素やデジタル化の潮流など状況は常に変化している。こうした変化を踏まえ、本年2月、東京都は政策のバージョンアップを図った「『未来の東京』戦略 version up 2022」を公表した。大会のレガシーをいかにして発展させ、どのような都市へと進化させていくのか、その内容を見ていく。

「未来の東京」戦略 version up 2022(表紙)

安全安心=都民の命と生活を守る基盤「危機管理」

 東京都は、コロナ禍でも安全・安心な大会を実現した危機管理の取組をレガシーとして、あらゆる災害への備えを強化していく方針だ。

 2020年10月、東京都は感染症対策の司令塔「東京iCDC」を立ち上げた。iCDCは、感染状況のモニタリングや情報発信など、感染症対策の要となる役割を担っている。

 東京都は、iCDCのデータ収集・調査分析・情報発信機能を一層強化するため、新たにバーチャル空間上の活動拠点となる情報プラットフォームの構築・運用を打ち出した。

 世界では、森林火災や猛暑、豪雨が激甚化し、その頻度も高まっている。東京都は、豪雨の際に洪水を取水し、河川の水位を低下させる調節池の整備推進を掲げている。

 また、対策強化地区において、1時間75ミリ降雨に対応する下水道施設を整備するなど、対策の強化を図る。

共生社会=バリアフリー「段差のない社会」

 大会に向けて、競技会場等の周辺を中心に鉄道駅や道路のバリアフリー化が進んだ。都民の約6割が「大会開催決定以降、都内のバリアフリー化が進んだ」と実感している。

 異なる障害を持つパラアスリートが大会で競い合う姿は、私たちに「誰もが持っている可能性」を気づかせてくれた。東京都は、この「気づき」を一人一人の行動へとつなげ、誰もが自分らしくいきいきと活躍できる「インクルーシブシティ東京」の実現に向けて取り組むとしている。

 先月閉会した都議会定例会で東京都は、本年秋に「パートナーシップ宣誓制度」を創設することを明らかにした。誰もが自分らしく、実り豊かな人生を送ることができる社会への大きな一歩である。

 まちの面的・一体的なバリアフリー化、誰にとっても住みやすい社会への取組、双方の取組が加速されてこそ、すべての人々が輝ける、多様性が尊重された社会は築かれる。

グリーン&デジタル=自然と共生した持続可能な都市

 史上初めて、水素を燃料とした聖火が灯る大会の姿は、持続可能な社会への道筋を世界に示すものだった。

 東京都は、2030年カーボンハーフ(温室効果ガス排出量50%削減)、2050年ゼロエミッション東京(同排出量実質ゼロ)の実現を目指している。今年度当初予算には、前年の3倍を上回る971億円を計上、強い意気込みが表れている。

 その取組の柱の1つが、建築物のゼロエミッション化だ。太陽光発電設備の設置に対する上乗せ補助など、新築住宅の環境性能に応じた支援を開始するほか、既存住宅の省エネ改修・再エネ設置への補助も強化拡充する。

 もう1つの柱、ZEVの普及促進に向けては、超急速充電器の設置への補助など、将来需要を見据えたインフラ整備の取組を進める。

 デジタル関連にも力を入れている。今年度当初予算では前年度比3割増の2334億円を計上。島しょ地域の通信環境の整備や中小企業のデジタル化など、デジタル化を社会の隅々まで浸透させる取組を加速させていく。

「東京ベイeSGプロジェクト」(持続可能都市のイメージ)

グローバル=世界から選ばれる金融・経済・文化都市

 東京都は、大会で活用された最先端テクノロジーを都市に実装し、都民が質の高い生活を送る「スマート東京」の実現を掲げている。

 大会の舞台・ベイエリアでは、50年・100年先を見据え、「自然」と「便利」が融合する持続可能都市のモデルを創り上げる「東京ベイeSGプロジェクト」が動き出した。

 広大な埋立地・中央防波堤エリアの特長を生かした最先端テクノロジーの巨大実装エリアにおいて、今年度中にも事業者の公募・決定が予定されている。

 ベイエリアのポテンシャルは、ますます高まっていくことだろう。

チルドレンファースト=子供の目線からの政策展開

 大会のレガシーを受け継ぐ子供たちが、夢や希望を抱き、健やかに育つことこそ、東京が輝き続ける原動力ではないだろうか。

 東京都は、昨年3月に「東京都こども基本条例」を制定し、子供目線に立った政策の強化に取り組んでいる。

 昨年12月には、あらゆる主体と連携して、子供を大切にする機運を醸成していく「こどもスマイルムーブメント」を開始、1166団体(3月11日現在)が参画している。

 今年4月、東京都は組織改正を行い、新たに子供政策連携室を立ち上げた。子供政策連携室を核に、都政のあらゆる分野で、これまでの延長線にとらわれない政策が展開されていくことを期待する。

より良い未来の東京へ

 半世紀ぶりに東京で開かれた世界的な祭典は、確かに未来の次世代へと引き継ぐレガシーを東京に遺した。

 大会を終え、東京は今、次の時代に向けた新たなステージに立っている。

 東京という都市がこれから更なる進化を遂げる、その鍵は「スピード」と「実行力」だ。東京が切り拓く未来の姿をしっかりと見守っていきたい。

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