大会が遺した無形のレガシー

  • 写真提供:東京都

 9月5日に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が閉幕し、早くも3か月が過ぎた。1か月以上にわたり繰り広げられた熱戦の中で、アスリート一人ひとりが魅せた圧倒的なパフォーマンスの数々は、世界中の人々の心を躍らせ、勇気と感動を与えたことだろう。  一方で、この大会は、新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりを受け、史上初の1年の延期、無観客、という困難な状況で開催された大会でもあった。全ての人々にとって、安全・安心な大会を成功させた関係者の努力は、想像に難くない。この歴史に残る大会で、東京は何をし、何を得たのだろうか。

ボッチャ体験

コロナ禍を乗り越えて

 1964年東京オリンピック・パラリンピックでは、夢の超特急・新幹線や首都高速道路など、目に見える都市インフラ(ハード)が整備され、半世紀経った今でも私たちの豊かな生活を支えている。

 そして、2度目の開催となる、東京でのオリンピック・パラリンピック。この大会が遺した、未来の次世代へと引き継ぐレガシーとは何だったのか。

 それは、無形(ソフト)のレガシーだったのではないだろうか。

 日本の総力を挙げて推し進めてきた、ワクチン接種や人流抑制などのコロナ対策は、安全・安心な大会の実現だけでなく、我が国における昨今の感染状況改善にもつながっている。

 中でもワクチン接種は、2回目の接種を完了した人の割合が80%を超えている(12歳以上)。当初は、世界に後れを取ったが、今となってはG7でトップの接種率だ。

 また、開催都市・東京都は、「多様性と調和」という、東京2020大会のビジョンのもと、パラスポーツの振興やバリアフリーなどのハード・ソフトの両面にわたる様々な取組を加速させてきた。

 東京が開催都市に決定して以降、東京都が特に力を入れて取り組んでいたのが、パラスポーツの振興だ。

 その1つが、パラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」。パラスポーツの情報発信、観戦会の開催やイベントの実施、企業・団体によるパラスポーツ支援を後押ししている。登録メンバーは、個人や企業などで140万人を超え、一大ムーブメントへと発展している。

 他にも、パラリンピック全22競技を身近な場所で体験・体感できるイベント「NO LIMITS CHALLENGE」を都内全区市町村で展開してきた。区市町村など身近な地域でパラスポーツの体験機会を創出するこの取組は、パラスポーツの認知度向上、競技としての魅力発信につながるものだ。

 このような取組を通じ、今大会のパラリンピックでは、開会式の視聴率が過去最高の23・8%(関東地区)だったという。リオ大会が7・8%であったことからも、いかに東京でのパラリンピックが注目を浴び、盛り上がったのかがわかる。

 こうした取組は、史上初めて、2度目の夏季パラリンピック大会を開催する都市・東京を、真の共生社会へと前進させるものであったのではないだろうか。

NO LIMITS CHALLENGE

未来への道1000キロ縦断リレー

東京2020大会のもう一つの理念「復興五輪」

  東京2020大会は、大会招致の時から、復興を後押しすることを大会の理念の一つに掲げていた。

 2013年、東京が開催都市に決定以降、被災地と東京はスポーツを通じた交流を重ねてきた。

 東北と東京の子供たちとのスポーツ交流やスポーツイベントへの招待をはじめ、被災地へのアスリート派遣など様々なプログラムが実施されてきた。

 また、青森から東京まで、東日本大震災の被災地をランニングと自転車のリレー形式でつなぐイベント「未来(あした)への道1000㎞縦断リレー」は、2013年から7年間、毎年開催されてきた。リオデジャネイロ2016大会や平昌2018大会では、被災地でライブサイトも開催された。

 そして、2021年、オリンピックの聖火リレーは福島県にあるJヴィレッジからスタートした。福島県や宮城県の競技会場では、多くのアスリートが躍動。被災地が大会の「はじまりの場所」となり、被災地をはじめ、全国に感動と希望を届けた。

 栄えある栄冠に輝いたメダリストが手に持つ、ビクトリーブーケには、被災地で育てられた花が使われた。海外からの観客受け入れは見送られたものの、復興を成し遂げつつある被災地の姿は、確かに世界へと発信されていた。

聖火リレー

聖火リレー

未来へつなぐ 東京2020大会の記憶

 このほど、東京都は、「未来へつなぐ東京2020大会の記憶」を公表した。「東京2020大会を振り返り、大会が東京にもたらしたものを共有し、その成果を都市の発展へと繋げていく。」と記されている。  私たちの記憶に残る、この大会の成功を経て、その後の東京・日本はどのように変わっていくのか。  次号では、東京2020大会が遺したレガシーをより具体的に掘り下げていく。

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