「せんい」を生かした水処理技術で
社会や企業の課題を解決
帝人フロンティア株式会社
帝人フロンティア株式会社は、2020年より、地球環境にやさしいものづくりと仕組みづくりに向けて、環境戦略『THINK ECO(R)』を策定し、3つの重点目標とともに、具体的な達成目標を提示した。本紙では、その目標の一つ「きれいな空気と海を守ろう」の実現に向けた、排水処理システムを中心とする「水処理技術」に注目した。
暮らしを「せんい」で進化させ きれいな空気と海を守る
帝人フロンティア株式会社は、「マテリアル」「ヘルスケア」「IT」という3つの異なる領域で事業を展開する帝人グループの繊維・製品事業の中核会社として、繊維原料・素材と繊維製品の製造、販売を国内外で展開する企業である。コーポレートメッセージに「暮らしは、せんいで進化する」と掲げ、「未来の社会を支える会社」を目指し事業を行う。
そのような同社が近年力を入れているのが「環境ソリューション」である。企業理念に「私たちは新たな価値を創造し、美しい環境と豊かな未来に貢献します」と「環境」の文字を盛り込み、また、2014年から「環境活動指針」として掲げていた『THINK ECO(R)』を2020年に「環境戦略」へ格上げし、世の中の環境課題の解決=環境ソリューションを提案している。
『THINK ECO(R)』は、以下の3つの重点目標で構成され、それぞれに具体的な達成目標が設定されている。
(1)素材からエコにこだわろう。 目標=エコな原料を使った商品リサイクル50%以上、植物由来10%以上
(2)きれいな空気と海を守ろう。 目標=きれいな環境を守る商品100%
(3)省エネな毎日を送ろう。 目標=ものづくりが省エネな商品100%
なかでも(2)に関しては、繊維の力を利用した「きれいな空気と海を守る」製品サービス開発に力を入れている。
水処理で4つの環境課題を解決 SDGsの4つのゴール達成も
同社産業資材部門・機能資材本部機能資材第二部の堀之内新一郎部長は、同社が手がけてきた水処理製品やサービスを導入することで、4つの環境課題が解決できると語る。
「具体的には①廃棄物量削減、②CO2排出量削減、③水の使用量削減、④排水再利用の4つの環境課題の解決が可能になります。そしてそれはSDGs(持続可能な17のゴール)のうち『6:安全な水とトイレを世界中に』『12:つくる責任 つかう責任』『13:気候変動に具体的な対策を』『14:海の豊かさを守ろう』の4つの達成にもつながると考えます」
その水処理事業のシンボル的な存在が、『繊維担体』である。これは、繊維内に微生物を付着して増殖させ、汚濁物質を自己消化させたり、食物連鎖を発生させたりすることで、排水を処理する仕組みだ(※)。そしてこの仕組みを用いることで、前出の①から④の課題解決につながるという。
「余剰汚泥発生量を、従来の排水処理技術比較で半分以上に減らすことができ、結果、廃棄物量の削減につなげられます。また、処理のエネルギー量の抑制効果もあり、CO2削減にもつながります。さらに、水の使用量自体も少なくて済みます」
(※)『繊維担体』の詳しい仕組みや技術的特徴は、本紙161号12面「NIPPON★世界一」を参照
主力の『繊維担体』に加え 2つの水処理技術が戦力に
『繊維担体』が同社の排水処理の主力であることは現在も変わらないが、ここ数年で新たな技術を用いた製品も加わった。それらは同社の「環境戦略」の強力な戦力になりつつある。
ひとつは『フローデハイ(R)(脱水助剤)』。これは、繊維の力を用いて、汚泥から水を抜き出すことができる仕組みで、汚濁物質そのものの水分量を減らす=物質そのものの量も減らすことができ、前出①につながる。また、排出された汚濁物質の焼却処理に際しては、『フローデハイ(R)』が水分量を少なくしているため、焼却時の燃料が削減でき、前出②のCO2削減にも貢献するという。
もうひとつは『排水・廃液処理用膜ユニット』。これは、特殊膜やディスク形状の膜を用いて、工場等の高難度排水や高濃度廃液を処理する仕組みだ。このユニットの導入により、排水及び廃液は10〜20倍濃縮でき、前出①につながる。また、CO2排出量自体も従来製品より7割以上削減でき、結果②につながり、水の再利用④も可能になる。
堀之内部長は、これらの新戦力が加わることで、水処理能力が高まるだけでなく、環境課題解決の幅も広がると語る。
「例えば、『繊維担体』と『膜ユニット』を組み合わせることで、より効率的かつ環境負荷のかからない形で、排水時の水質を向上させることが可能になります」
ゆるやかに連携しながら 総合的な環境課題解決を目指す
現在同社は、これらの水処理システムを複合的に組み合わせる形で「環境ソリューション」の提案を行っているわけだが、顧客側からの問い合わせも増加しているという。
「例えば、自動車メーカーはEVやハイブリッド車など、製品自体の環境配慮を強調していますが、一方で製造ラインそのものの環境課題の解決にも力を入れ始めています。それは結果として関連会社にも求められるわけで、その影響が我々のところにも出てきているのだと実感します」
目指すのは、水処理事業を中核とした総合的な環境課題解決企業。そのためには他社との連携や協力が前提となると、堀之内部長は語る。
「水処理技術の開発にしても、他の開発メーカーと連携して完成したものもありますし、設置導入に関しては、ゼネコンなどの協力があって可能になった例もあります。我々の開発した技術を核に、オープンイノベーションで“ゆるやかに連携”しながら、環境課題解決を提案できる企業になっていきたいと思います」
ちなみに、SDGsのゴールのなかには「17:パートナーシップで目標を達成しよう」というものがある。“ゆるやかな連携”が広がれば、このゴールの達成にもつながるかもしれない。