起業しか選択肢がない中、 “来る者は拒まず”やってきた。
2009年、出産を機に起業。子育てと仕事を納得した形で両立する方法は起業しかなかったからだ。木のおもちゃからスタートした事業は、サスティナブルな木材利用を提案する木材コーディネート業に発展。念願だった教育にも携わるまでになた。 “来る者は拒まず”走り続けている株式会社グリーンマム代表の川畑理子さんにお話をうかがった。
国産材で作ったおもちゃを販売し、FSC森林認証材を普及させたい。
—林業を営む家に生まれ育ったことが、木に関係する事業を立ち上げるきっかけになったのですか。
川畑 出産を機に起業したんですが、当時は今ほど子どもを預ける環境が多様化しておらず、子育てと仕事を納得した形で両立する方法が起業しかなかったんですね。まずは起業ありきで、いざ何をしようかと考えた時、未来の子どもたちの役に立つことをしたい、子どもたちに国産材を使ったおもちゃを使わせたいと思うようになりました。
その頃、速水林業代表の父がFSC森林認証材を普及させるために頑張っていたこともあるかもしれませんね。国産材や認証材で作ったおもちゃを販売して普及させる仕事をしようと決めました。
3月に出産して、起業を決めたのが5月で、7月にはホームページを完成させ、会社を設立したのが10月ですが、正直起業してうまくやっていけるか自信もなかったので、一人の女性の生き方としてのロールモデルを自分が模索していた感じです。
—でも、起業してすぐに大きなビジネスチャンスが訪れますよね。
川畑 2010年5月、FSC森林認証材を使った紙を世に出そうと努力されていた株式会社市瀬の社長から、Soup Stock Tokyoを展開する株式会社スマイルズの社長をご紹介いただけることになったんです。Soup Stock Tokyoは木の内装だから、グリーンマムの商品を置いてもらえないか提案してはどうかと。
当時は娘を連れて仕事をしていたので、その日もベビーカーを押してうかがったことをよく覚えています。
でも、おもちゃには興味を持ってもらえず、逆に内装材の提供はできないかと聞かれたんです。当時、スマイルズは事故米のことが問題になっていて、食品のサステナビリティの重要性について考えていたんですね。それで内装材のサステナビリティにも意識がいったんだそうです。できるもできないも、まったく知識がなかったので、「初めてですが、やらせていただけますか」とお答えすると、「やってみますか」と、私に任せてくださることになりました。
こんなチャンスは二度とありません。何から始めればいいのか悩んだ末、まずは山にお連れして、木の生産過程を見てもらうのがいいのではと思い、ツアーを組んでスマイルズの社長と担当者、デザイン会社の方々を速水林業にご案内することにしました。実際山に入ってもらい、単に国産材に切り替えるということだけでなく、その意義を肌で感じてもらいたかったんですね。 その甲斐あってか、3ヶ月後の8月にはSoup Stock Tokyoルミネ横浜店をオープンさせることができました。以来、スマイルズさんとのお付き合いは続き、30件くらいに内装材、小物等に国産材を使用していただきました。
そうこうしているうちに、物件を見たデザイナーから連絡をいただいたり、レストラン、ホテル、オフィス、キッズスペースと仕事が広がりました。とにかく、起業も育児も初めてだらけで、しかも夫は海外へ単身赴任でしたので、毎日余裕はゼロでしたね。だから悩んでいる時間もなくて“来るもの拒まず、リクエストに何でもお答えします!”(笑)でやってきた感じです。
使われずに困っている木材をデザイナーの力で生まれ変わらせる。
—日本の木は高いというイメージがありますが、採用してもらうのは大変だったのではありませんか。
川畑 そうですね。ただ大きな物件の場合は、国産材を使うということが環境に対する会社の取組みになるとか、ソフト面のメリットも一緒に考えて、全体の予算の中で木材のコストを検討していただいたり、同じ国産材でも、これまで廃棄されたりチップにされていたようなものを商品化したコストを抑えた材料を同じ物件の中に一緒に使っていただいたりと、いろいろなご提案の中から選んでいただくという方向で採用していただいてきました。
—単に国産材はいいので使ってくださいではダメで、コストはもちろんですが、デザイン性とか使い手のセンスも大事ですよね。
川畑 仕事の醍醐味の一つだと思うのは、さまざまな地域からのご相談にお応えできた時です。例えば、今は柱のある家が少なくなってきたので、12×12㎝とか10×10㎝の柱材が売れなくて困っているんですね。その柱材にデザイン性を加えることで付加価値をつければ適正価格で買っていただけます。
例えば、虫食の跡があるアリクイ材は、見た目のせいで住宅には売れません。でも非住宅といわれる店舗なら、あえて虫食い跡を見せて、白いペンキで塗ったりすればビンテージ風の雰囲気を出すことができます。
そういう使われなくて困っている、でも何十年も何百年も人の手をかけて育ててきた木をデザイナーの力によって生まれ変わらせることで、みんながウィンウィンな仕事が成り立てばいいなと思っています。
—ところで、小学高学年の時に東京にいらっしゃっていますよね。きっかけは何だったのですか。
川畑 父も中学校から東京に来ているんです。たぶんその環境がよかったという経験から、子どもたちにも、地方と東京の両方の世界を見せたいと思ったのかなと思います。私、姉と妹がいるんですが、姉が中学に入るタイミングで、父が三重、母と三姉妹の4人が東京という生活になりました。
—それで皆さん慶応義塾中等部に入られて。教育熱心なご家庭ですね。
川畑 そうですね。母は鬼のように教育熱心だったと思います。
実は今、環境教育の一環として中等部で毎週火曜日に「SDGsのすすめ」という授業で特別講師をしているんです。個人的な話ですが、私はもともと教育学専攻だったので、起業して10年くらい仕事をして、子育てをするという経験を積んだら、教育的なことをやりたいと思っていたんですね。
それで10年の間にLEAFという北欧の環境教育プログラムを教える資格を取ったり、主人の仕事の関係で2017年から2年間アメリカに住んでいたので、その時にペアレンティングというプログラムを教える資格を取ったりして、子どもに関わる準備をしていました。
中等部の授業に関わることができたので、自分の人生の点と点が全て線でつながったと感じています。
ハード、ソフト両面から環境配慮型の空間を提案する。
—仕事の基本に教育的なことがあるのでしょうね。これからはどんなことに力を注いでいきたいですか。
川畑 二つあって、一つは、子どもたちが、世の中に対して「なぜ? どうして?」と感じる問題に行動を起こせる社会にしたいので、環境教育をはじめSDGsの普及活動はしたいですね。
もう一つは、それこそSDGsのおかげなのか、いろんな企業が自分たちの空間に対する環境意識が高くなってきて、今までだったら絶対に問合せがこなかったような大きい会社から、環境配慮型の空間についてお問合せいただくようになりました。ハード面では環境に配慮した空間を提案する仕事、ソフト面では空間を使ったイベントや地域の人との関わり、勉強会などを通した啓蒙活動をしたいと思っています。
—木のおもちゃからスタートして、すごい世界になりましたね。
川畑 ほんとですね。こんなはずじゃなかったのに、どうしてって(笑)。本当はアメリカから帰国した時に教育関係のほうに全部シフトしたかったんですが、SDGsの影響が大きかったのか、世の中の流れが「環境」に一気に変わっていることを肌で感じて、ハード面としての空間を提案する仕事も続けなければならなくなったという感じです。
でも、いつも感じていることは、仕事でも子育てでも、行き詰まったり問題が発生する度にいろいろな人に支えてもらって成長できたということです。それだけは常に心に留めて感謝しています。
—これからはSDGsを意識しない企業はたぶん残れないと思います。
川畑 例えば、無印良品。いち早く国産材での空間作りや家具作りに着手されました。たくさん仕入れることで安く仕入れようということではなく、適正価格で使用し続けることで、持続可能な社会へ取り組む姿を消費者に見せています。上海の店舗もわざわざ日本から国産材を輸出したくらい本気なんですよ。
いろいろな課題をひとつひとつクリアしていくことで、気づいたらSDGsに全然興味のなかった会社の人たちが、声を大にしてそれを言っていたりするのを見ていると、こうやって会社全体が変わっていくんだなと感じますね。
—企業が目覚め、社会が変わっていくところを間近で見ているわけですね。
川畑 そうですね。たぶんそういうことが仕事のモチベーションになっているのかなと思います。今は、子どもたちと環境や社会問題なんかを考えるのがいちばんおもしろいです。子どもたちって発想が自由だし、みんなこんなに未来のことを考えているんだと、驚かされることばかりです。
女性の起業家というと華やかに聞こえるかもしれませんが、私の場合は、もともと木がすごく好きだったとか、木に関わることがやりたかったというわけではなく、むしろそれしか選択肢がない中で“来る者は拒まず”でやっているうちに、時代が環境やSDGsの方向に流れ出して仕事が広がりました。失敗もたくさんしながら、何度も心が折れそうになりがらも、12年間やってきたという感じです。
でも、結果として自分のやっていることが間違っていなくて、やればやるほどちゃんと社会に貢献でき、子どもの未来のためになっているということが確信できたのでよかったと思っています。
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