農家は、農地を守り、家を守り、 その土地の文化を守っている。

  • インタビュー:津久井 美智江  撮影:宮田 知明

東京都農業協同組合中央会(JA東京中央会)代表理事会長 城田 恆良さん 東京都産業労働局 農林水産部長 山田 則人さん

農地は野菜等の収穫以外に、環境保全や防災といった公益的な機能を持つ。本紙では代々受け継がれ、守られてきた東京の農地と農家を応援するために、東京都農業協同組合中央会、城田恆良代表理事会長と東京都産業労働局農林水産部、山田則人部長との対談を企画した。東京の農業の“今”を知り、未来へとつないでいくためにすべきこと、できることを語り合っていただいた。

世田谷区には23区内唯一の水田があり、田植えや稲刈りが体験できる。

—東京に農地があって、野菜や果物が作られているということは、意外と知られていないのではないでしょうか。JA東京中央会として、城田会長はどのように感じていらっしゃいますか。

城田 近くに農地がある住民の皆さんは東京に農地があることを知っていますが、23区内には農地がないところも多いですから、そのあたりにお住いの人たちは、東京の農業と言ってもぴんとこないのではないかと思いますね。

 私の出身地である世田谷区にはまだまだ農地がたくさんあり、子どもたちも普段から農地と触れ合っていますが、農地のないところの人たちに都市農業というのをどういうふうにアピールしていくかというのが、我々が今与えられた使命だと思っています。

—山田部長、東京都としてはいかがですか。

山田 去年、東京の農業と水産業について都政モニターアンケートを取ったのですが、地方から東京に来られた方の意見に、「東京にこんなに農地があるとは思わなかった。ぜひ守ってもらいたい」というのがけっこうありました。

城田 平成4年に新たな生産緑地制度ができてから、30年の満了を最初に迎えるのが来年ですが、新たに特定生産緑地制度という10年更新の制度ができましたので、東京都、各区市における農業委員会とも連携して、この制度を生産緑地所有者へひとりも漏れることなく周知し、農地を守っていきたいと思っています。

山田 去年行った意向調査では、都内全体で概ね7割程度が特定生産緑地を選択するということでしたが、最近の日経新聞首都圏版の記事によれば、1都3県で8割台が残る、私の地元立川市で97%、町田市で91%、練馬区で91%が特定生産緑地として選択するということで、非常にうれしく思っています。

 基本的には地元の自治体や農業委員さんが各農家さんと連携して農地を残すことを推進しているのですが、都の施策として仮に買取りの申し出に至った場合、区市が買い取ろうという時に、生産緑地の保全ということから都が補助金を出す制度があります。

城田 今、東京都の中でも農業公園というのがずいぶん増えてきて、世田谷区にも農業公園が3か所できています。すごくにぎわっているので、良い取り組みだと思います。この取り組みについて、ほかの区などから視察や見学に来ています。

 また、世田谷区には23区内では唯一の教育田「次大夫堀公園」があります。毎年、近所の学校から1500人くらいの児童が来て、地元JA青壮年部の指導を受けながら田植えや稲刈りをし、それを食べる。みんなすごく喜んでくれて、大人になってもそのことを覚えてくれています。親子2代で参加する方もいます。

 この取り組みも区や周辺のみなさんの理解があってのことだと思います。これからも継続していけるよう頑張ります。

住宅地の中に残る貴重な農地

住宅地の中に残る貴重な農地

チャレンジ農業支援事業は 農業者の新たな挑戦を支援する。

—農地は、農家の方がいないと守れません。後継者についてはいかがですか。

城田 東京は、意外と後継者がたくさんいるんです。私の息子世代は、民間の会社に勤めてからUターンで戻って、親の後を継ぐというケースがけっこう多いんですが、民間でいろいろなことを経験してきていますから、新しい考え方が入って、なかなか良いことだと思っています。

—農地や農家を守るために、東京都はどんな取組をされているのですか。

山田 農業者の稼ぐ力を応援します。そのため、農業者の新たな取組に対して適切な専門家を派遣して支援しています。チャレンジ農業支援事業では、例えばナビゲーターという専門家を派遣するということをやっています。具体的には、農業者と販売先をマッチングさせて供給できるようにしたり、ネットで売買したいという方にはウェブ開設のお手伝いをしたり、農産物を送る際の包装紙デザイン的なこともアドバイスをして、うまく消費者に届けられるよう支援しています。

—農地というと野菜や果物を栽培する土地と思われるかもしれませんが、実は農地って、そこにあるだけで癒されるとか、そういったことにもすごく役立っていると思います。農地の果たす役割はどんなことだと思われますか。

城田 東京の農地というのは、農畜産物野菜生産はもちろんですが、多面的機能をもっと発揮できると思っています。

 東日本大震災の時、ちょうど子どもたちの下校の時間だったんですね。あの時、地元の農家が畑の中に誘導して避難させたというような話も聞いていますし、身近に農地があるのですから、食育の場としてもっと活用してほしいと思います。子どもたちは実際に圃場に行って、いろいろ見たり、触ったりすると目の色が変わりますからね。

—東京都としては農地の存在意義はどんなことだとお考えですか。

山田 本来、農地には野菜等の生産という機能があり、あとは公益的機能ということで環境の保全であったり、防災の機能があると思います。万が一、大規模な災害があった時に、そこが周辺の避難所になりうるということで、行政として防災用と農地の兼用の井戸を掘る場合に助成したりしています。

 そのほか、高齢者や障害者の方に農を通じて緑に親しんでいただこうということで、区市が行う農福連携農園の施設整備を補助しています。また、農地の一区画を一般市民に貸すのではなく、全体を統一的にやる形の農業体験農園ですが、農に触れながら一緒に学んで作業するので連帯感も生まれますので、非常に有益なのではないでしょうか。

城田 今年5月、杉並区に23区で初の区立「農福連携農園(すぎのこ農園)」がオープンしました。農業体験を通じて障害者や高齢者に生きがいを感じてもらうほか、障害者向けに農業訓練も行います。農園はJAが運用し、農業指導も行います。みなさん明るく生き生きしています。一緒にやっていてすごく良い事業だと思いますし、これから増えていけばいいと思っています。

都市農地を福祉分野で活用する農福連携農園「すぎのこ農園」の様子

都市農地を福祉分野で活用する農福連携農園「すぎのこ農園」の様子

アルバルク東京の安藤誓哉主将へ野菜を贈呈する城田会長

アルバルク東京の安藤誓哉主将へ野菜を贈呈する城田会長

農地は農家だけのものではなく、地元のみなさんのものでもある。

—東京の農業のいちばんの強みは、消費者がすぐそばにいることだと思います。東京の農業をPRするとしたら?

城田 地元の消費者は、農家の味方であってくれていますから、そういう方々をどんどん増やしていきたいですね。農地のないところから農地があり直売のあるところに新しく越してきた方がいちばん感じるのは野菜の味が違うということです。

 例えばトマトは、完熟したトマトを採っていますから、糖度がのっており、6度以上の糖度があります。採れたてを味わっていただくことができます。

 東京の農家は、消費者がすぐそばにいるからこそ、地域住民との関係性を一番に考えて農業をしています。地域の方々に賛同してもらいながら農業を続けていく。そのことは過去も今も将来もかわりません。

—近隣への配慮もさることながら、消防団とか町会とか地域の活動にもいろいろと気を配られています。それは基本的に家にいるからですか。

城田 これはもう代々のつながりですね。消防団と農協の青年部というのはリンクしていますから、野菜の話だけではなくて消防の話でも盛り上がります。

 それに、地元のお祭りにも農家が関わっています。神社の総代とか世話人とか、歴史でずっとつながっていて、農家も代が変わるごとにそういうことを伝承してきています。だいぶ廃れてきていますが、昔ながらの文化、農家独特の風習もまだまだ残っているんですよ。

—考えてみれば、江戸の昔から農地を守り、家を守り、その土地の文化を守ってきたのが、今の農家のみなさんなのですね。

城田 長い人だと、15代目という人もいますよ。

—東京の農業を守っていくためには、教育がとても重要だと思います。東京都では農業と教育の連携に力を入れているそうですね。

山田 東京都には食育推進計画というのが以前からあり、今年の3月に改訂しました。その中で学校給食を通じて食育を推進するため、地場産のものを積極的に給食に活用することを大きな柱にしています。ほかにJA中央会さんが教育の一環として行っている圃場体験見学会については、以前から補助させていただいています。

 実際には、我々は農業の担当ですが、学校給食、あるいは圃場の見学体験ということになると学校関係は当然入ってきますので、教育庁とも連携して取り組んでいきたいと思っています。

城田 やはり農地というのは農家だけのものではなくて、地元のみなさんのものでもあります。東京の農業を応援しようという気持ちを持ってもらえるとありがたいですね。

 また、私どもは東京都が推進する食育に今後も積極的に協力したいと考えています。教育庁とも連携していくことがますます必要ですね。

山田 繰返しになりますが、農地は野菜等の収穫以外に公益的な機能ということがありますので、そういったものも含めて行政としては守っていく必要があると思っています。

 そして、農地を守る前提として農業者の方々の収益力の向上が必要ですので、それを後押しする形でも農地を守っていく。そのために、多くの補助メニューを用意してありますので、ぜひJAのみなさま方から各農家のみなさまに周知していただいて、ご活用いただければと思います。

城田 東京都は予算面でも本当に助かっています。まだまだ大丈夫ですよ、東京の農業は。

—本日は貴重なお話をありがとうございました。

城田恆良代表理事会長(右)と山田則人部長

城田恆良代表理事会長(右)と山田則人部長

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