繊維原料、衣料繊維、産業資材繊維、繊維製品の製造販売

帝人フロンティア 株式会社

  • 取材:種藤 潤

 日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。

防災時における水の問題と言えば、飲料水や生活用水などの確保が思いつくが、「排水問題」も同じぐらい重要である。帝人フロンティアは、工業排水などに使用する『繊維担体(せんいたんたい)』の製造ノウハウを生かし、災害時の防災拠点での活用が期待される新たな排水システムを作り上げた。

『繊維担体』が簡易に設置できる「ユニット型排水処理システム」。タンク容量は10㎥~、サイズは1・5×3×3m~と小型化を実現(写真全て提供:帝人フロンティア)

『繊維担体』が簡易に設置できる「ユニット型排水処理システム」。タンク容量は10㎥~、サイズは1・5×3×3m~と小型化を実現(写真全て提供:帝人フロンティア)

 排水処理技術は、簡単にいうと水に存在する粒子や溶解物質を「分離する」または「無害な安定した物質に変化させる」ことである。

 その方法は大きく分けて、(1)スクリーンによる除去やろ過、沈殿、蒸発乾燥、電気分解などの「物理処理」、(2)酸化、還元、中和などの「化学処理」、(3)活性炭吸着、イオン交換などの「物理化学処理」、そして(4)微生物の力を活用し分解する「生物処理」の4つがある。

 今回紹介する、帝人フロンティアが製造販売する排水処理システム「ユニット型排水処理システム」で採用しているのは、(4)「生物処理」のなかの有効活用する微生物を効率的に高濃度に保持する『繊維担体』で、活性汚泥(かっせいおでい)と呼ばれる微生物が、排水中の有機物を分解して排水を浄化する仕組みである。

 水槽中に『繊維担体』を何層にも設置し、そこに水を通過させることで排水処理を行う。

このシステムを担当する、同社産資営業企画部開発推進グループ長の丹下真也さん(左)と、機能資材第二部機能不織布・製品課の西川知宏さん(右)

このシステムを担当する、同社産資営業企画部開発推進グループ長の丹下真也さん(左)と、機能資材第二部機能不織布・製品課の西川知宏さん(右)

微生物の力を生かし 汚濁物質を分解処理

  活性汚泥を用いた排水方法は色々あるが、『繊維担体』を使用すると、より多量の微生物の力を活用することができ、結果、処理能力が高まるという。その能力を引き上げているのが、帝人グループが得意とする繊維とその繊維体構造だと、技術開発に携わってきた、産資営業企画部開発推進グループ長の丹下真也さんは語る。

 「特殊な繊維を用いた3次元構造の『繊維担体』は、より広い面積で、多量かつ高密度に微生物を付着させておくことが可能だからです」

 『繊維担体』は新規の排水システムに用いるのはもちろん、既存の水槽の大きさに合わせて設置することができるため、処理設備のパワーアップにも有効だ。また、他の方法では分解後に「余剰汚泥」とよばれる排水浄化によって生じる副産物の処理が負担になることが多いが、『繊維担体』は微生物同士の共食い(自己消化)や生物反応槽多段化との組合せによる生物の多様化(食物連鎖の場の形成)により、余剰汚泥の生成量を大幅に削減できる。また、人手による微生物濃度の制御も不要で、運転の手間は極めて少ない。さらに、繊維の耐久性も高く、長寿命であることも特徴だ。

 この『繊維担体』および『繊維担体』を使ったシステムは、「生物処理」の新たな手法として注目され、国内の医薬品工場や化粧品工場、さらには海外の下水や自動車工場、染色工場などで導入されてきた。そして2016年には国土交通省下水道革新的技術実証事業「B-DASHプロジェクト」に採用され、長野県辰野町の下水処理システムで実証実験が行われた。現在は、導入のためのガイドライン策定も完了し、行政関係の施設への導入検討も本格的に始まっているという。

微生物を生かした『繊維担体』。これを水槽等に入れて排水処理を行う。実はコロナ禍で増える「抗菌剤」の排水処理でも、微生物処理が活用されている

微生物を生かした『繊維担体』。これを水槽等に入れて排水処理を行う。実はコロナ禍で増える「抗菌剤」の排水処理でも、微生物処理が活用されている

ユニット型で省スペース 短時間で設置でき管理も簡単

 広く普及していく一方で、『繊維担体』の特性をもっと活かせるシステムの必要性も感じるようになった。同じくこの事業に携わってきた、機能資材第二部機能不織布・製品課の西川知宏さんは、契機のひとつは2011年の東日本大震災だったと語る。

 「宮城県気仙沼市の避難所で、排水処理が問題になり、我々の『繊維担体』システムも導入されましたが、その時に、今後の災害地導入システムは、もっと輸送や設置が容易で柔軟に対応できるものでなければならない、と感じました。また、特に土地が狭い日本においては、災害時に限らず、コンパクトで使いやすいシステムが必要になると考えました」

 そこで誕生したのが、「ユニット型排水処理システム」である。これは、同社が培ってきた『繊維担体』を、パネルユニットで設置できるようにしたものだ。これにより、従来は2~3ヶ月かかった設置期間がタンクのみであれば最短10日まで短縮でき、かつ、簡易に組み立てられるようになった。また、部品サイズが大幅に小型化したことで保管や運輸が容易になり、設置場所の選択肢も広まった。

「ユニット型排水処理システム」は、東日本大震災の避難所でも導入された

「ユニット型排水処理システム」は、東日本大震災の避難所でも導入された

東京の島しょや都市部の強固な排水インフラ構築に

 こうした長所を生かし、「ユニット型排水処理システム」を自治体の災害対策はもちろん、これまで「生物処理」を用いてきた工場排水の現場にも応用できると丹下さんは期待する。

 「既存の排水処理能力の強化も、このシステムなら既存施設を改築せず設置できるので実用的です。また、工場等の改修時の仮設処理や、worker camp(労働用仮設住宅)の処理施設としてなど、従来にはないさまざまな用途があると思います」

 現在このシステムは、国土交通省国土技術政策総合研究所の委託研究である「B-DASHプロジェクト」令和2年度実施事業のなかで、災害時に加え、人口減少が進む過疎地域に適した簡易設置型排水処理システムの実証が進められている。これがクリアできれば、自治体導入も認められ、本格的な災害時での活躍も期待される。

 西川さんは、このシステムは東京という地域の特性にも適していると語る。

 「東京の島しょでは、排水処理システムが故障した場合、復旧が難しいため、その備えのひとつとして有効だと思います。また、都市部でも大規模な処理システムに加え、このシステムのような小型設備を各地に設置や備蓄することで、近年増えている豪雨災害にも対応しうる強固な排水インフラが構築できると思います。B-DASHの実証が完了したら、ぜひ具体的に検討を考えてほしいです」

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