VR動画の撮影制作、PR企画、上映会の開催、教育事業等

株式会社こよみ

  • 取材:種藤 潤

 日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。

 ここ数年、VR=Virtual Reality(仮想現実)映像を目にする機会が急速に増え、身近な存在になりつつある。ただ、VR映像自体を制作するには特別なスキルや機材が必要であり、コストや時間もかかる。その可能性と課題に着目した一人のテレビマンが、手軽にVR映像を生み出し、利用し、さらには社会貢献にもつながるサービスを立ち上げた。

「360ぷらねっと」

「360ぷらねっと」独自に撮影・編集したVR映像は、ドーム状のシアターでこのように映し出される(提供:こよみ)

 VR映像サービス「360ぷらねっと」を提供する株式会社こよみは、サービスの一環として、医療機関に出張し、病気やケガで病院から出られない人たちのために上映会を開催し、『緩和ケア』を支えている。

 提携先のひとつである「埼玉医科大学総合医療センター」では、共有スペースに小型ドーム状の180度モニターを設置し、同社代表の長山雅之さんが撮影した、小笠原諸島の美しい海や風景の映像を映し出していた。

 「病気による苦しみは、肉体面だけでなく、日常の当たり前の生活を奪われる、心理面もあります。その苦しさへの対応、いわゆる『緩和ケア』のひとつとして、自然環境の映像や音は、一定の効果があると言われています。平面の映像でも効果があると思いますが、VR映像ならより本物に近い体験がしてもらえると考え、効果の実証も兼ねて病院での上映会を行っています」(長山さん)

株式会社こよみの長山雅之代表

株式会社こよみの長山雅之代表

平面映像を知るからこそ
VRの長所を実感

 筆者も実際に同社が制作したVR映像をYoutubeで体験したが、まるでその空間にいるような臨場感が、平面の映像とは全く異なることに驚いた。また、自分の意思でどの方向のどの部分を見たいという選択ができる楽しさもあり、時間が過ぎるのを忘れてしまった。

 平面の映像にはないVRの長所を存分に活用できたのは、長山さんが長年にわたりテレビという平面映像の世界にいたからだという。

 「私は26年間フジテレビに勤め、番組制作、プロデューサー、著作権管理など、さまざまな仕事をしてきました。そのなかで、平面映像の優れた部分は十分理解していましたが、限界も感じていました。平面映像は情報を選択=編集して作ることが前提となり、作り手の意図が反映されやすく、伝達力も強い。ただその分、現場のリアリティを伝える上で、情報量が不足しているとも感じていました」

 そんな思いを抱きつつ、長山さんは次世代に現場を託す意味で、早期退職制度を活用し2019年に独立。第二の人生を模索している時にVRと出会った。本格的に調べてみると、この映像技術があれば、自然風景はもちろん、さまざまな世界観をリアルに再現でき、平面映像にはないビジネスができると感じた。

VR映像を見る環境は向上
コンテンツ制作に着目

 さらに、近年のVRを取り巻く環境の変化が、長山さんの挑戦を後押しした。

 「VR映像を見るゴーグルやタブレットなどのデバイスの高画質化、通信手段の高速化、撮影機材の低価格化など、映像を見る環境が数年で格段に進歩しました。娯楽やPRなどのツールとして、VRが当たり前になる日は近いと感じました」

 ただ、具体的に事業化を検討してみると、機器や環境は発展しているのに、映像そのものが不足している。そしてその要因も見えてきた。

 「VRコンテンツが増えない最大の原因は、制作に技術とコストと時間がかかることです。現状はほとんどCGを用いており、製作費は1000万円規模でかかり、編集時間は平面映像の3倍以上要します。ただ、撮影と編集スキルを工夫すれば、CGを用いず、低コスト化は可能ではないかと私は考えました」

 とはいえ、テレビとVRの映像制作は畑が違った。撮影、編集の技術はもちろん、専用の機器が必要で、そのほとんどが海外製。日本語マニュアルすら存在せず、さらにはそれらの機器を操作できる人は、国内にはごく少数だった。長山さんもほぼ独学で制作技術を獲得していった。

 「360度方向を想定した撮影手法や、つなぎ目なく表現する編集技術など、満足のいくレベルになるまで2年もかかりました。ただ、私も映像の世界にいましたので、妥協はできません。結果、品質を維持しながらコストは10分の1程度に抑え、制作時間も削減することができました」

海中でも使用できる、3つのレンズがついた360度カメラを用いて、自然風景を中心に撮影している(提供:こよみ)

海中でも使用できる、3つのレンズがついた360度カメラを用いて、自然風景を中心に撮影している(提供:こよみ)

企業や地域観光のPRに
伝統芸能や芸術の保存にも

 長山さんは現在、企業や地方観光のプロモーション映像に加え、360度動画という特色を生かし、伝統芸能、芸術作品などの保存のためのVR映像制作を手がけている。一方で、国内外の自然風景や観光スポットなどを「ユニバーサルコンテンツ」として独自に撮影編集し、VR映像を体感できる場を提供。そのひとつが前述の病院での上映会であり、今後も社会貢献を兼ね、介護など福祉施設全般に上映の場を広げていきたいという。

 さらに、自宅や学校など個人的な場所で、行事やイベントを撮影する「パーソナルコンテンツ」の拡充を目指す。これは、自社制作ではなく、技術を提供する事業、すなわちVR制作教室の展開を考えている。

 「子どもの運動会をビデオカメラで撮影するように、気軽にVR映像を制作できれば、病院や介護施設での新たなコミュニケーションツールにもなりうると思います」

 長山さんはさらに先を見据え、VRを応用した新たなビジネスも思案中だという。

 「例えば、新型コロナウイルスの影響で、リモートワークが当たり前になりつつありますが、そこにVR映像を活用することで、実際にオフィスにいるような働き方が可能になるかもしれません。他にもVRの可能性はたくさんあると思っています。企業や自治体、病院以外でも、さまざまな場面に活用の場を広げていきたいですね。一緒に模索してくださる事業者がいたら、ぜひご一報いただけると嬉しいです」

Youtubeを通してVR動画を体験

写真の小笠原諸島の海中映像や、お台場湾岸風景など、Youtubeを通してVR動画を体験できる。問い合わせはinfo@360planet.netまで

情報をお寄せください

NEWS TOKYOでは、あなたの街のイベントや情報を募集しております。お気軽に編集部宛リリースをお送りください。皆様からの情報をお待ちしております。