主税局長 砥出欣典 氏
東京都の各局が行っている事業を局長自ら紹介する「局長に聞く」、今回は主税局長の砥出欣典氏。コロナ禍における納税者への各種対応や、納税通知書の電子化など納税者の利便性の向上に向けた取り組みについてお話を伺った。
DXの推進で税務行政改革
コロナ禍における都税の対応
—主税局は初めての職場と聞いていますが、主税局長着任の感想は。
主税局の最大のミッションは都の歳入の約7割を占める都税収入を確保することです。主税局は初めてですが、就任してまず受けた印象は、公平で公正な税務行政の推進が、将来にわたる都税への信頼と都税収入の確保に繋がるという気概を、職員一人一人が共有しているという心強さです。
主税局は、コロンビア大学のカール・シャウプ博士による「シャウプ勧告」により戦後の地方税制の骨格が示された翌年の昭和26年に、都税の執行機関として誕生しました。
以来70年、地道ではあるけれども、都税の現場で連綿と続けてきた確実で的確な都民対応、賦課徴収により、主税局は地方税最大の徴税機構として、発展してきました。
また、主税局には毎年150名に近い新規採用職員が配置されており、全体としても平均年齢が40歳と、若手職員を多く抱える局でもあります。
特にこうした若手職員には、都政人として、歴史の重みや先人が作り上げてきた地方税制度に誇りを持つとともに、税の大切さ、ありがたさを実感しながら、日々の業務に携わっていってほしいと思います。
—新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。主税局の対応は。
令和2年は、コロナ禍の中、経済は大きな打撃を受け、都民生活のあらゆる面において影響が拡大し、都税の現場でもかつて経験したことのない大変な1年でした。このような中、主税局では主に2つの観点から対応を行っています。
一つは、コロナ禍の厳しい経済状況の中でどのように納税者に寄り添っていくかということです。
例えば、税を一時的に納付できない場合に納税を猶予する制度があります。
4月の地方税法の改正においては、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難となった方に対し、無担保かつ延滞金なしで1年間徴収を猶予する特例措置が創設されました。
都ではこれに先んじて従来の徴収猶予制度を柔軟に適用し、特例措置と同様、延滞金について全額免除とする運用を行うなど、納税者の実態に寄り添った対応を講じています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により一定以上事業収入が減少した中小事業者等に対し、事業用家屋及び償却資産に係る固定資産税等を軽減する措置が創設されました。現在、その申告が始まっています。2月1日が申告の締め切りとなっており、事業者への制度周知やコールセンターの設置など、円滑な制度の運用に万全を期しています。
二つ目に、都税事務所での感染症防止対策です。
都税事務所は、都民が申告や相談のために訪れるまさに、都民サービスの最前線です。混雑や密を避け、来所者の皆様や職員の感染防止を図るため、窓口業務を縮小させていただきました。
さらに、郵送による証明書の申請・発行サービスの活用を税理士会や司法書士会、弁護士会などに依頼するほか、6月からは都税の納付にスマートフォン決済アプリ収納を導入するなど、非接触型のサービスの拡充を図りました。
現在、クレジットカードやスマートフォン決済アプリなどのキャッシュレスによる納税率は約40%となっていますが、今後は、スマートフォン決済アプリの拡充などを通じて、2030年度までに70%に引き上げたいと思っています。
先を見据えた都の税務行政の将来像
—今年の1月、10年後のあるべき税務行政を見据え、「主税局ビジョン2030」を公表しています。その内容と今後の取り組みは。
「主税局ビジョン2030」の主な柱は2点あります。
一つは、納税者の利便性向上の観点です。
納税通知書の電子化、ペーパーレス化やキャッシュレス納税を推進していきます。また、国や他の自治体等とのバックオフィス連携により、住所変更などは一度提出すれば、すべての手続きが完結するワンスオンリーの実現を目指します。
二つ目は、社会構造の変化への対応です。
現在の税務行政を取り巻く環境は、例えば相続の不備などによる所有者不明土地や、外国取引の増加による課税対象の捕捉など、複雑で困難な事例が増加しています。
こうした困難事案であっても、適切に課税対象を把握し、賦課徴収しなければ、まじめに納税した方との公平感を欠くこととなり、都税全体への不信感や不満につながりかねません。
こうしたことから、システムで可能な業務はシステムに任せ、限られた人材を複雑・困難化する税務調査や税務相談などの専門性の高い分野に重点配置し、社会構造の変化に対応した執行体制を構築していきます。
ビジョンでは、これら2つの視点から10年後の税務行政のあるべき姿を描き出しています。
そしてこれを実現するための手段の一つとして、税務基幹システムを再構築することとしています。
税務基幹システムは、約20税目、都税収入5兆円を管理する都庁内でも最大級のシステムです。
現在のシステムはセキュリティを重視し、外部と遮断されたクローズドシステムですが、新システムでは外部との接続を可能とすることにより、バックオフィス連携やプッシュ型サービスを見据えています。
こうして、デジタル化による納税者の利便性の最大限の向上と職員の専門性強化による社会構造の変化への対応を実現していきます。
DXへの取り組みを推進
—来年に向けた抱負をお願いします。
税務行政の円滑な運営には、都税に対する都民の皆様の理解と協力が必要不可欠です。
コロナ禍により、都民や事業者の生活、経済状況等は想像以上に厳しくなっています。このような時にこそ、納税者に寄り添ったきめ細かな対応をとることで、将来にわたる都税への信頼と都税収入の確保に繋がるのだと思います。
また、来年は、新たな税務基幹システムの調達に係る具体的な要件を固めていきますが、DXへの動きはようやく端緒についたばかりです。新システムの構築を待つまでもなく、キャッシュレス納税の推進やAIチャットボットの充実などできるものは前倒しで行っていきます。
コロナ禍において、主税局も他局の応援業務に多くの人材を動員するなど、極めて特殊で困難な状況にあります。しかし、「元気に明るく前向きに」そして「楽しく」仕事をやろうというのが私のモットーです。困難な仕事であるほど、仕事に「楽しさ」を見付け、全力で職務に取り組みます。